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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    mhyk 初出2022.5.
    暴君に襲われたらしい晶♀を助けるネロと、それに至るまでの経緯

    #mhyk男女CP
    mhykMaleAndFemaleCp
    #ネロ晶
    neroCrystal

    俺は汚れちまったから(ネロ晶♀) 渾身の力を込めて右の拳を頬にめり込ませると、薄汚い男はあっけないほどの軽さで風を切り吹っ飛んでいった。
    「ね、ネロ?」
     戸惑いと共に零れた名前を他人事のように聞き流しながら、水でも払うように血に濡れた手を開いてぱっぱと振る。
     中央市場特有のざわめきは不自然なほど聞こえなくなっていて、晶の半径数メートルで何かが目まぐるしく状況が変わっていることだけを認識していた。
     左手で抱え込んだ晶の視界を覆い隠したまま、ネロは声に軽く笑む気配を乗せている。
    「怖かったろ。悪いな」
    「いえ……ええと、今なにが起きたのでしょうか?」

     * * * 

     数刻前。

     尖った視線が背中を刺し貫いたことに気がつくと、ネロは晶に悟られぬよう、エプロンのポケットに筋張った手を突っ込んだ。相手の気配は少し遠く、人間か魔法使いかの区別はつかない。こちらに投げかけられたのが悪意に満ちたそれであることだけが手に取るようにわかる。
    (賢者さんの世界じゃ「昔取った杵柄」なんて言うらしいが……)
     できることなら気がつきたくはなかった……それが紛れもない本音である。しかしながら面倒事を避けたい気持ちがあるからと言えど、賢者を放り出すという選択肢などはなから持ち合わせていない。ポケットの中でこぶしを握る指にも力が篭る。ネロはよからぬ輩が近づいてもすぐに対処できるように、さりげない所作で晶を引き寄せた。
    「えと、どうしました?」
    「いや……賢者さん、ふらついているように見えたからさ」
     戸惑う声色の理由は理解している。共に買い出しへ行く機会は多くあれど、平時にほどほどのパーソナルスペースを保つネロが理由もなく肩を抱くことなどないはずだからだ。晶が時折寄り道をし、迷子になりかけてふらふらと離れたとしても、ネロはたいてい躊躇うようにそっと、小さな手を取るのが常である。
     下手な取り繕いに構っている余裕はないまま、ネロは引き続き神経を尖らせた。

     ……近づいている。

     剥き出しの殺意がネロのすぐ左側に注がれる。ああ、こっちだったか。密かに嘆息するが、おかげでおおよその見当はついた。魔力はない……ならば。
    「……っネロ」
    「ちょっと寄り道しようぜ。穴場の店なんだ」
    「い、良いですけど……」
     抱き寄せる力をじわじわと強めながら、ネロは人並みから外れた路地裏へと足を向ける。一寸先は闇。午後の昼とも思えぬほどの暗がりに、悪意に満ちた気配が乱雑な足音を立てて距離を詰めていき……。
     
     
    「うわあああああああっ」
     
     
     あと数歩。肩を抱いた手で素早く晶の視界を塞ぎながら、ネロは目にもとまらぬ速さで振り返った。

     * * *

    「……ええと、今なにが起きたのでしょうか?」

     あ、やっべ。正気に返ったネロは、唱え損ねていた呪文を呟く。
     暴漢を襲うために使うはずだった魔法は淡い光を放ちながら、拳にこびりつく血を払いゆく。本来ならカトラリーを突きつけて、手出しさせる前に威嚇するだけのつもりが。カトラリーは一滴の血にも汚れずにネロの傍らをふわふわと漂うばかりである。路地裏の暗闇では恐らく渾身の怒りを叩きつけられた何者かが、辛うじて人の形を保ちながら伸びているに違いない。
     完全に、やられる前に……の典型である。
    「あー……えっと」
    「正直に答えないと、怒りますよ」
     いつも通りを装いながらか細く震える語尾。荒事に慣れていない賢者の前で「やらかした」ことを悟り、ネロは取り敢えず綺麗になった長い指で頬を掻いた。
    「……ごめんな」
    「謝ってほしいわけじゃないんです」
     視界が塞がれたまま、晶は目を伏せる。
    「ネロに、危ない目に遭ってほしく、ないんです」
     目元をぎゅっと瞑る気配に、彼女が何かに抗おうとする意思を悟った。いま泣いてしまえば、目元に触れたままのネロが気がつかないはずがないと理解しているのだろう。経緯はともかくとして、これ以上賢者を気に病ませるのはネロとしても本意ではない。
    「そっか……ありがとうな。でも」
     場違いなほど温かな真心に感謝の念を向けながらも、それでもネロは抗うように軽口をたたくことにした。
    「あんたが知るほどのことじゃねえんだ、賢者さん」

     目元を塞いだまま箒を取り出す。彼女を震わせる凄惨な景色など、これ以上、見せる必要はないのだと。
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