ながいゆめ あなたは私にキスをしない。
ただ時折私の頬に指を寄せ、私の名を呼びかけて目を伏せるだけだ。
大いなる厄災がこの世界にもっとも近づいたあの夜、真木晶は死を迎えた。夢でも幻でもなく、完全に、完璧に。その生を終えたのだ。
それなのにその100年後、私はこうしてふたたび目を開けている。目を開けて、今にも泣き出してしまいそうな彼の顔を、眺めている。
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「何か食べますか、賢⋯⋯晶」
晶と呼ばれたものは、一度だけ首を横に動かしてみせた。その微細な動きを見届けたミスラはそうですか、と短く呟いて手の中の黒い塊を自分の口に運んで噛み砕いた。
高い窓の外には雪が降っている。もう数千年、それより前からいつだって雪景色だった。ここは北の国だから。北の国の奥の奥のそのまた奥の、森の中に建てられた邸には、ミスラと"晶"と呼ばれる少女の呼吸のみが存在している。
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