キスの仕方について(夏メイ+秋元)「み、見るな頼むから……!」
夏井は声をひっくり返しながら叫ぶ。予告もなしに訪れた秋元が夏井の自室内、背後で点灯したままのモニターを凝視していたからだ。
作りたての炒飯入りのタッパーを握りしめながら、後輩は悪気なく呟く。
「[キス 仕方]……」
「口に出すなよ」
モニターに映し出されていたのは、検索エンジンのサーチ結果一覧。
「誰と……?」
「言うか」
「恋人がいることは認めるんですね」
「あっ………………」
紅潮した顔を覆って項垂れる先輩の慌てふためく様を見て、秋元は考えを巡らせる。
秋元は夏井のおおよその交友関係を把握しているつもりだった。夏井へ好意的な視線を送る者には何名か心当たりがあるが、無難な営業用の笑みが崩れる人物は一人しか浮かばない。
もしも相手が“彼女”だとすれば。シチュエーションも何も気にせず、きっと夏井のありのままを受け入れてくれるのではないだろうか。強引に事を進めようとするなら話は別かもしれないが、決して短くない付き合いの中で無粋な言動をする可能性は限りなく低いと、秋元は思うのだ。
「気にしなくても大丈夫ですよ、きっと」
「無責任なこと言うなよ」
しかし夏井は、どこか恐れるような声色で言う。
「……下手に刺激したくないんだ」
「恋愛経験がない、とか?」
「記憶を失くす前に……嫌な想い、していたかもしれないだろ」
「え?」
白状した内容に、秋元はまず目を見開く。その後浮かべた邪気のない笑みからは、二人を純粋に祝福する喜びが滲んでいた。
「メイさんだなんて一言も言ってませんが、おめでとうございます!」
何といじらしいことだろう。ともすれば雰囲気や勢いに任せたところで誰からも責められないというのに。今も繊細に相手を慮った行動を取り続けていることが窺い知れて、秋元は素直に感心した。
「…………………………っ」
後輩は、いたたまれず俯いた先輩の心境など知らずに言い募る。
「メイさんは、本当に愛されているんですね!」