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    michiru_wr110

    @michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    anzr
    匠メイ(BD)

    どこかで虚しさが消えない火村さんと、恋人になったメイとで過ごす誕生日

    ※捏造だらけ

    #匠メイ
    #anzr男女CP
    anzrMaleAndFemaleCp

    水曜日に寄り添うティラミス(匠メイ) ビスケットをエスプレッソにくぐらせて、型に敷き詰める。顔が隠れそうな大きさの四角い器へ隙間なく並べ終えてからは、メレンゲと合わせてふわふわのマスカルポーネクリームを数回に分けて、そっと流し込んだ。ゴムベラで最後の一滴まで余すことなく攫ってから流しにボウルとゴムベラを置き、水を張る。
     そこから最後の仕上げに、と、ココアパウダーの封を開けようとしたところだった。
    「……メイちゃん?」
     作業の手を止めて、しかし振り返らずに呼びかけてみる。背後からぽすん、と音がしたが、ここが自宅である点を鑑みると犯人は一人しかいない。背中に身を預けた彼女はこわごわと腰に手を回し、頭をぐりぐりと押しつけているようだ。
    (何だよ、この可愛い生き物は……)
     半分開けたカーテンの隙間からは突き抜けるように真っ青な昼下がりの空と、歌舞輝町を始めとした都心特有のくすんだ街並みが見え隠れする。
     この景色に慣れてからは数年。しかし、自室にメイちゃんを招き入れるようになってからはもう数ヶ月の時が経つ。

     * * *

     目新しい景色と強固なセキュリティ、それから充実したキッチン回りを求めて越してきた物件(タワーマンション)だった。
     内見の時は料理しながら外を一望できるアイランドキッチンをひどく気に入ったはずだったのに、いざ作業台越しに外を眺めてみてもどこかちぐはぐで、ちっとも満たされない。何故だか「期待外れだったな」と意気消沈すらしたものだ。高層階から見える景色に夢なんか見るものではないと思う。高低差のあるビル群の隙間からは車の流れを確認するのが精いっぱいで、豆粒ほどの大きさで行き交う人など目視すらできない。それなりに稼ぎか蓄えがあるものにしか見られないはずの世界はどうにも、俺自身の心を動かす要素はなかったらしい。それに気がついてからは昼夜問わずにカーテンをぴっちり閉めて過ごすことが多かったのだ。

     思えば再び外の景色を見るようになったきっかけも。
     初めて二人で夜を越した翌日。早朝に起きたメイちゃんは身支度を整えた後、キッチンで準備する俺に「おはようございます」と声をかけてから、リビングのカーテンをぱっと開けたのだ。二人でも些か広すぎるリビングのカーテンは五歩、十歩と進んでもなかなか開き切れず、途中ではっと気づいたように顔を上げてこちらに向き直り、「すみません、寝ぼけていました」と。きっちり九十度に腰を折って謝罪するものだから、思わず素で腹を抱えて笑ってしまった。
     ハローで過ごす際の朝のルーティンを俺の家でも実行していたと思うと何ともいじらしくて、それなのに差し込む朝陽がいやに透き通って、きらきらしていて。
     あまりにも綺麗だったものだから年甲斐もなく目元が熱くなってしまい、それを悟られないようにツボに入ったふりをして笑い続けながら取り繕っていた。

     * * *

     味気なかったはずの景色と、あまりにも愛おしい背中の温もりとの落差が胸中を搔き乱す。虚しさと幸せとのギャップで内心頭を抱えたくなったが、努めて態度には出さないように心掛ける。
     誤魔化すように出しっぱなしだった水を止めようと何とかレバーに手を伸ばした。何とか水は止められたが、腰に回されたメイちゃんの両腕は始終拘束を解く気配がない。
    「で、どうした?」
    「……どうしたんでしょう」
    「え」
     どちらかと言えば淡々と、率直な意見を述べる性質のメイちゃんだ。珍しい物言いに戸惑いはしたが、どこかで浮足立つ気持ちだってあるのだから始末に負えない。
     どうやら恋人としての俺は、メイちゃんに困らされるのがどうしようもなく、嬉しいと思えてしまうらしい。
    「まあ理由もなく、くっつきたくなることもあるか」
    「どうしてかはわからないんです。でも」
     恋人としていまの体勢を肯定したつもりだった。にもかかわらずメイちゃんは、どこか躊躇うような、あるいは上手く心境を言葉に出来ないもどかしさのような、言葉を探している雰囲気を感じた。
    「火村さんの傍にいる方が、良い気がしたんです」

     発言の意図を図りかねたまま、どのように言葉を返せば良いかを考える間もなく、メイちゃんは言葉を続けた。 
    「お誕生日なのに何だか、元気がないのかな、と」
    「……メイちゃん」

     ああ、敵わない。俺は心の中で白旗を上げる。

     きっとメイちゃんは言葉にせずとも、感じ取ってくれているのだ。いくら歳を重ねても、どこかで負い目を感じている俺自身の心情を。他の誰かの幸せを願いながらも、自身の幸せにはどこか投げやりで生きてきたこれまでを。
    「火村さんを苦しめるものを知って、受け止めたいと、思うんです」
     慎重に言葉を選ぶメイちゃんの指先には僅かに、力がこもる。
    「甘やかしたくても今の私には難しいかもしれません。だからせめて、傍にはいさせてほしいと、思うんです」
     たどたどしくも真っすぐで、嘘のない言葉をひとつずつ、噛み締めていく。

     あんたほんと、良い女だよ。

     目を閉じると柄にもなく涙が滲むが、メイちゃんにはまだ知られたくない。きっと遠からず、今の情けない表情を見られてしまう日は訪れるだろうけれど。

     視界の端にはココアパウダーを振り損ねた、作り立てのティラミスが置き去りにされている。
     この腕が離れたら皿へ盛り付けて、ほろ苦いココアパウダーを振りかけて、愛すべき恋人へと捧げたい。
     きっと彼女はとびっきりの笑顔で寄り添って、不甲斐ない俺を元気づけてくれる。
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    michiru_wr110

    DONEbrmy
    弥代衣都(+皇坂+由鶴)
    捏造しかない・弥代衣都の中に眠る、過去と現在について
    image song:遠雷/Do As Infinity

    『きょう、ばいばいで。また、ママにあえるの、いつ?』
    軽やかに纏わる言霊(弥代衣都・過去捏造) 女は視線でめつけるように傘の骨をなぞり、露先から空を仰いだ。今日という日が訪れなければどれほど良かっただったろうか、と恨みがましさを込めて願ったのに。想いとは裏腹に順調に日を重ね、当たり前のような面をして今日という日を迎えてしまった。

     無機質な黒色の日傘と、切り分けられた青空。都会のように電線で空を区切ることも、抜けたように広がる空を遮るものもない。しかし前方には、隙間なく埋め尽くされた入道雲が存在感を主張している。

     女の両手は塞がっていた。
     片方の手には日傘。そしてもう片方の手には、小さな手の温もり。
     歳相応にお転婆な少女は女の腰にも満たない背丈で、時折女の手を強く引きながら田舎特有のあぜ道を元気に駆けようとする。手を離せば、一本道をためらいなく全力疾走するであろう、活発な少女。しかし女は最後の瞬間まで、この手を離すつもりはない。手を離せば最後、何もしらない無垢な少女はあっという間に目的地へとたどり着いてしまうに違いない。
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    michiru_wr110

    DONEanzr
    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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    michiru_wr110

    PASTanzr 初出2023.7.
    夏メイ
    イメソンは東京j...の初期曲。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
    青く冷える七夕の暮れに(夏メイ) 新宿は豪雨。あなた何処へやら――イントロなしで歌いはじめる声が脳裏に蘇ってくる。いつの日かカラオケで夏井さんが歌った、昔のヒット曲のひとつだ。元々は女性ボーカルで、かなり癖のある声色が特徴らしい原曲。操作パネルであらかじめキーを変えて、あたかも自分のために書き下ろしされたかのように歌い上げてしまう夏井さんの声は、魔法のように渇きはじめた心に沁み渡っていく。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》

     情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
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