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    michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    anzr
    夏メイ

    何でもない日にプレゼントを贈りたくなった夏井さんのお話

    #夏メイ
    #anzr男女CP
    anzrMaleAndFemaleCp

    傍に置いてよ、俺の代わりにでも(夏メイ) まるで七篠のためにあつらえた代物ではないか。
     ひと目見るだけでそんな錯覚を覚えるなんて、我ながら安直だなと嘲笑いたくなる。

     控えめなピンクゴールドのそれは、俺の手のひらよりも二回り程度小さい。直線で構成された猫の形はじっくりと観察しなければ、多角形の集合体に見えるほど芸術性が高いデザインだ。幾何学模様の中からは尻尾、ではなく、角張ったリングが付随している。スマホの裏につけていても邪魔になりづらい、許容範囲ぎりぎりの厚みに見受けられた。

     図書館からの帰り、通り道沿いに並べられていた洒落たデザインのスマホリング。導かれるように手に取ってみると、七篠がスマホリングをつけて操作する様相がありありと浮かんできた。
     これしかない、と、頭の中にいるもう一人の自分が急かしてくるような錯覚さえ覚える。だから値段を確認しないまま、流れるように店内へ直行したのだ。

     レジ前からこちらを見ていた若そうな店員から「贈り物ですか」と尋ねられる。声色から伝わるのはどこか浮足立つような、若さゆえのむき出しな好奇心。はっとして視線を巡らせてみれば――
    (……やってしまった)
     店内には賑わいをみせる、複数名のうら若い女性たち。並べられたアクセサリーや小物のラインナップからして、俺がこの店の客層からは外れていることが明らかだ。
     色めき立つような、いくつもの無遠慮な視線の数々。がんばって気が付かなかったふりをしてみたけれど、何とか絞り出した返事は二度と出せないような声色で不自然にひっくり返ってしまった。
     不覚だ。穴があったら入りたいし一生出たくない。
     せめて仕事中だったらこうはならなかったはずなのに、油断してしまった。一連の失態には後悔しかない。しかし、無事に商品を受け取るまでは離れるわけにもいかない。

     *

    『誤ってスマホを落としてしまったんです』
     数刻前。しゅんとした田中さんのスタンプと共に、あまり喜ばしくはない近況が綴られていた。送られたFINEによれば、七篠は調査中に激しい動きをした弊害でスマホを落とし、ぶつけてしまったらしい。スマホ自体は紛失せず、決定的な故障を免れたのが不幸中の幸い……のはずが、日頃から似たようなことを繰り返した末に相応のガタが来ていたようだ。スマホの動作が遅くなって文字入力に支障が出るようになり、買い替えを余儀なくされたのだと。
    (いやどれだけ荒っぽい調査しているんだよ)
     まあどうせ、対象の追跡か戦闘か、あまり感心できない行動を繰り返した結果だろうけれど。
     突っ込みどころはいろいろとあったが、いかにも彼女らしいと思える自分もいる。七篠ならまあ、やりかねないなと。何も物持ちが良くないとか、雑に扱うとか、そんなことを言いたいわけではない。彼女は普段から自分を大切にする意識が希薄なのだ。周りを優先しすぎて、自分をないがしろにしてしまう側面があるようだから。

     だから少しは、自分のことを大事にしなよ。
     面と向かってそういえるだけの勇気など、まだ持ち合わせていない。

     *

    「ありがとうございました! またお待ちしています」
     永遠にも思える気まずい数分間をどうにかやり過ごして、華やかな雑貨店を後にする。
     手元には小ぶりな手提げ。そして中には、可愛らしくもセンスのあるラッピングが施された包み。
     身近にあるものに誰かの気配を感じてほしい。なんて、誕生日や記念日でもない(ましてや恋人ですらない)知人へのプレゼントにしては重たすぎるだろうか。
     勢いに任せて先走り過ぎたのかもしれない。けれど俺の中では、彼女に何もしないなんて選択肢は存在しなかった。何かしら働きかけたら彼女も、少しは自分の持ち物を――ひいては、自分自身を大切にしてくれるような気がしたから。

     店を出て数歩離れてからすぐ、俺は自らのスマホを取り出した。
     らしくもない理由で手に入れたプレゼント。押し付けるための口実として、どのように説明するのが自然だろうか。

     ろくな誘い文句も浮かばないというのに今、それでも、一刻も早く七篠に会いたいと思うなんてどうかしている。
     包みを開けて、綻ぶような笑みを浮かべる瞬間を見逃したくないなんて。
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    michiru_wr110

    DONEanzr
    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
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