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    michiru_wr110

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    michiru_wr110

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    anzr 初出2024.1.
    夏メイ
    今年も訪れた平日の誕生日に、もだもだしている夏井さん。

    《七篠メイさんより ギフトを受け取りました》

    #夏メイ
    #anzr男女CP
    anzrMaleAndFemaleCp

    水曜日は馬鹿正直でありたい(夏メイ) いつもと同じ水曜日だ。何の変哲もない、平日の中日。
     民間企業では「ノー残業」とやらが推奨されているらしいが、公務員……ましてや歌舞輝町の安全を維持しようという立場において、残業のない日を望むなど言語道断ですらある。

    (全く、くだらない……)

     寧ろ今日は、山になりつつある報告書のまとめや関連する事務作業が中心であるだけまだましだろう。現場に赴くよりもいくらかは、時間の見通しが立ちやすいのだから。そう嘯きながらも俺はラップトップのエンターキーを数度叩き、プリンターから更なる紙の山が吐き出されるのを束の間待つ体勢に入る。
     こういうところが良くない。民間企業ならとうにペーパーレス化が進んでいるはずだが、重要な事案であればあるほど、紙による提出を求められるのが公務員の常だ。進まないアナログな手順に皮肉を吐きたくなる気持ちを堪えて、俺は伏せたまま追いやられたスマホを引き寄せる。
     液晶ディスプレイに表示される時刻に日没からそれなり時間が経過していることを知り、ため息を一つ落とす。
     今日という日も、何気ない日常と変わらぬまま過ぎるだけだ。いつもの通りに職務を全うして、応援要請が入らなければこのまま独身寮に帰宅する。ありあわせの材料へ適当に火を通して、食事の後に溜め込んでいた家事を消化するうちに日付は変わる。
     きっと、そんなものだ。
     
     
    《七篠メイさんより ギフトを受け取りました》

     だからこそ、見つけたときには目を疑った。
     いくつか届いた不要なダイレクトメールや、いつ利用したかもわからないショップの割引クーポン。それらに紛れて、FINEの通知はひっそりと隠れていた。

     体裁も何もかも忘れて即座にタップする。開かれたトーク画面には、メッセージカードのURLと、クラッカーを鳴らす田中さんのスタンプが表示されていた。
    「これは……」
     URLを数度タップして、もどかしくリロードの時間を待つ(開くまでに誤って田中さんの顔面を叩いてしまったことを、丁重に詫びながら)。
     数刻後に現れたのはバースデーケーキのイラストと、最寄りのコンビニで利用できる千円分の商品券。それから同じコンビニで利用できる、ロールケーキの引換券。
    (まさかとは思うけれど、これが誕生日祝い……?)
     思わず頭を抱えたところで、画面上からスクロールを促すように矢印が表示される。まだ何か? とぼやきたくなる心情を抑えながら、おそるおそる指を滑らせた。

    《お誕生日おめでとうございます。お会いするのが難しそうと聞いたのですが、どうしてもお祝いがしたかったので東海林さんに贈り方を教わりました》
     あの野郎。
     煙たい相手からの差し金である点と、素直に喜びたい気持ちとがせめぎ合って、どうにも形容しがたい気持ちであることは否めない。けれど、七篠にしては手の込んだやり口が使われた経緯が判明して腑に落ちてもいる。馬鹿正直に全部書いてしまうなんてきっと、七篠だからこそ許される所業だ。
    《多忙でも食事をきちんと摂れるようにと選んだのですが、問題ないでしょうか》
     いや、確かに休憩を忘れていつの間にか夕方になっていたことはあったけれどさ。いつかの小さな失態を思い起こさせるプレゼントの選定理由には、どうしたって苦笑せざるを得ない。
     そして最後にもう一言、添えられた言葉が。

    《お時間の合うときに、また改めてお祝いさせてください》

    「……そういう子だったよ」

     俄かに熱くなる頬をごまかすように、口元を抑える。単にプレゼントだけなら、これだけでも充分なはずだ。この上、当日を過ぎてもなお直接祝おうという気概まで見せる様子。むず痒いような、落ち着かないような。ふわふわとした心地になる。
     再認識させられる。彼女は何もかも馬鹿正直なくらい、律儀でまっすぐ子なのだと。

    「夏井さん? 書類、もう印刷終わったみたいですよ」

     恐らく百面相を繰り広げていたであろう表情筋がどうにか落ち着くころに、秋元が通りかかる。
     至近距離に迫る後輩の表情が楽しげで、言葉を返さない代わりに生意気な後輩をジト目で見返した。
    「何か良いことありましたか?」
    「……秋元はこの後聴取だろ? 俺なんかにかまけている余裕あるの」
    「あっそうですね! 夏井さん、この後良いことがあると良いですね」
     なおも笑顔を浮かべてぱたぱたと走り去る後輩を見届けてから、俺は振り切るようにいったん立ち上がる。

    (悔しいけれど、まあ……良いことはあったよ)

     印刷が終わって放置されていた冷たい用紙の束を掴み、再び自席に戻る。
     報告書の束を揃えながら、油断すると勝手にほころび始める表情。自分の単純さを叱責しつつも、この後のスケジュールを頭の中でシミュレーションしていく。このまま仕事を進めれば(かつ、外部要因による不測の事態さえなければ)夕食に遅すぎない時間に庁舎を出られるはずだ。
     俺は仕上がった報告書を端に追いやり、再びスマホを手に取った。

     馬鹿正直で愛おしい差出人へ、今夜の予定を尋ねるために。
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    夏メイ(のつもり)(少し暗い)
    2023年3月20日、お彼岸の日の話。

    あの世とこの世が最も近づくというこの日にすら、青年は父の言葉を聞くことはできない。

    ※一部捏造・モブ有
    あの世とこの世の狭間に(夏メイ) 三月二十日、月曜日。日曜日と祝日の合間、申し訳程度に設けられた平日に仕事以外の予定があるのは幸運なことかもしれない。

     朝方の電車はがらんとしていて、下りの電車であることを差し引いても明らかに人が少ない。片手に真っ黒なトートバッグ、もう片手に菊の花束を携えた青年は無人の車両に一時間程度揺られた後、ある駅名に反応した青年は重い腰を上げた。目的の場所は、最寄り駅の改札を抜けて十分ほどを歩いた先にある。
     古き良き街並みに続く商店街の道。青年は年に数回ほど、決まって喪服を身にまとってこの地を訪れる。きびきびとした足取りの青年は、漆黒の装いに反した色素の薄い髪と肌の色を持ち、夜明けの空を彷彿とさせる澄んだ瞳は真っすぐ前だけを見据えていた。青年はこの日も背筋を伸ばし、やや早足で商店街のアーケードを通り抜けていく。さび付いたシャッターを開ける人々は腰を曲げながら、訳ありげな青年をひっそりと見送るのが恒例だ。商店街の老いた住民たちは誰ひとりとして青年に声をかけないが、誰もが孫を見守るかのような、温かな視線を向けている。
    2668

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    PASTanzr 初出2023.7.
    夏メイ
    イメソンは東京j...の初期曲。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》
    青く冷える七夕の暮れに(夏メイ) 新宿は豪雨。あなた何処へやら――イントロなしで歌いはじめる声が脳裏に蘇ってくる。いつの日かカラオケで夏井さんが歌った、昔のヒット曲のひとつだ。元々は女性ボーカルで、かなり癖のある声色が特徴らしい原曲。操作パネルであらかじめキーを変えて、あたかも自分のために書き下ろしされたかのように歌い上げてしまう夏井さんの声は、魔法のように渇きはじめた心に沁み渡っていく。

    《七夕を迎える本日、都内は局所的に激しい豪雨に見舞われますがすぐに通り過ぎ、夜は織姫と彦星との再会に相応しい星空を観測できるでしょう》

     情緒あふれる解説が無機質なラジオの音に乗せて、飾り気のない部屋に響く。私は自室の窓から外を見やった。俄かに薄暗く、厚みのある雲が折り重なっていく空模様。日中には抜けるような青空の下、新宿御苑の片隅で夏の日差しを感じたばかりだというのに。この時期の天候はどうにも移り気で変わり身がはやい。
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    michiru_wr110

    PASTanzr
    初出2022.8.28.
    イベストバレ有(遊園地の怪人+ハイサマーロマンス)
    どうかしている。君も俺も(夏メイ) 夏井流星はけたたましい音を立てながらスマホを伏せた。
     液晶ディスプレイに表示された画像の正体に気づいたからである。

    (…………何なの)

     いつもより比較的静けさ漂う特対内。スマホを叩きつけた勢いで右手が僅かに痺れたまま、夏井は自席のデスクに勢いよく突っ伏す。一連の動作に、休日出勤中の他数名の課員たちは遠巻きに夏井の様子を伺うばかりだ。

     瞼の裏に過ぎるのは、後輩である秋元からFINEに送信された1枚の画像。青い空と透き通るほど眩しい海を背景に寛ぐ七篠メイの写真である。
     海の家らしいチープなつくりのテーブルの上には鮮やかな色味のスムージーが入ったグラスがいくつも乗っており、七篠はそのうちのひとつを口にしながら僅かに目を見開いていた。秋元は「個人的な用件」で春野と行動を共にしていたはずだったが、何がどうしてこうなったのか現時点では予想もつかない。それに、不意打ちの如く無防備な姿を撮られている七篠も七篠だ。身にまとう眩しい色味のチューブトップは七篠の肌の白さを殊更に強調している。しかもわき腹の辺りにはうっすらと不自然な翳りがあり、見方によっては影のようにも古傷や火傷の跡のようにも受け取れる。羽織るものを何も身につけていない点も相まって、夏井の平常心はすっかり隅に追いやられてしまっている最中だった。
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