Day.5【キスをする】 ひと仕事終えた後の一服は格別だ。マイクを使い終わった後の独特な高揚感を落ち着けてくれる。ふう、と煙を吐き出す銃兎は、隣で舎弟に連絡を入れている左馬刻を眺めていた。
元The Dirty Dawgの碧棺左馬刻。以前、一度だけ世話になったことがあるが、そんな彼に口説かれてチームを組んでいるなんて、なんとも不思議な縁だと思う。彼の隣で共に紡ぐリリックは、銃兎にとって特別なものだった。
通話を終えた左馬刻は紫煙を燻らせる銃兎を見つけると、自身も煙草を取り出して口に銜える。続けてライターを取り出そうとポケットに手を突っ込んだかと思うと、顔を顰めてから舌打ちを零した。そして、じい、と銃兎を見つめる。
「ん」
左馬刻が煙草を咥えて、口先で揺らす。銃兎はそれが火をくれという合図だと察して、自身のライターを取り出そうとしたのだが、その手は左馬刻に制されたのだった。
「ちげーよ」
ぐっと顔が近づけられる。長い睫毛が至近距離で揺れたかと思うと、触れ合った煙草の先端がジジ、と音を立てて火を移した。左馬刻の呼吸をすぐそこで感じて、銃兎は瞬きさえもできなくなった。
「ん、サンキュ」
ゆっくりと顔が離されて、左馬刻が煙を吐き出す。思わず固まる銃兎に、左馬刻はフハ、と楽しげに笑った。
「ンだよ、その顔」
自分でもどんな顔をしているのかなど分からない。それ程に衝撃的だったのだ。
「ウブなウサちゃんかーわい」
「……悪かったな、ウブで」
「んーや、その逆」
「逆?」
「銃兎がウブで良かったってことだよ」
「なんだそれ……」
肩を組まれて、コツンと額をぶつけられる。左馬刻の重めなフレーバーが舌に乗って、銃兎のフレーバーを染めていった。