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    いちご

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    いちご

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    左銃で30日CPチャレンジ11日目です。
    合歓ちゃんとモブ舎弟が登場します。

    #左銃
    cannonStreet
    #30日CPチャレンジ
    30-dayCpChallenge

    Day.11【きぐるみを着て】 碧棺左馬刻、職業・ヤクザ。まさか、着ぐるみの中に入る日が来ようとは……。

     碧棺左馬刻には生涯をかけて大切にすると決めている人間が二人いる。
     一人目は、左馬刻にとって唯一の肉親である、妹の碧棺合歓。数年前、まだ高くそびえ立つ壁が存在していた頃、合歓はその壁の向こう側──中王区で行政監察局副局長として、その職務を全うしていた。内から再生する合歓と、外から破壊する左馬刻。両者それぞれの方法で中王区に立ち向かい、やがて崩壊したあとは、合歓は左馬刻の元に戻ってきたのだった。合歓の受けた真正ヒプノシスマイクによるマインドハックで兄妹が対立したこともあったが、折れかけた心を立ち直らせてくれた仲間のおかげで、こうして今を過ごすことができている。
     そして、その左馬刻を立ち直らせてくれた仲間──左馬刻と共にチームを組んでいた男の一人、入間銃兎が、左馬刻が生涯をかけて大切にすると決めている二人目の人間である。「叶えたい願いがある」というあの日の啖呵を聞いて、俺様の隣に在るべきはコイツだ、と直感したのだ。「俺様について来れば叶えてやる」と、差し伸べた手を取った銃兎は、「俺の願いを叶えてくれるなら、俺も全力でお前の願いを叶えてやる」と本当に願いを叶えてくれた。これまで何度も裏切りを受けてきたが、銃兎だけが左馬刻の目に狂いはなかったと証明してくれたのだ。だから左馬刻は、薬物撲滅という銃兎の途方もない願いを文字通り一生をかけて叶えてやらなければならないのである。そして、何やかんやあって現在は恋人という関係に落ち着いている。
     そんな二人が、ヨコハマ随一のテーマパークで、左馬刻に無断でデートをしているのを見た、という情報が耳に入ったのが一時間前。現在の左馬刻は、着ぐるみを着てそのテーマパークに立ち、二人を尾行していた。
    「オイ、界田ァ……テメェこの俺様に着ぐるみなんざ着せるたァ覚悟できてンだろうなァ……?」
    「うス!アニキ似合ってるッスよ!」
    「……いや、着ぐるみに似合うも何もねぇしそういうことじゃねぇよ……」
     どうしてこんなことになってしまったのか。事の発端は、この界田という左馬刻の事務所に最近新しく入った舎弟が、「テーマパークなら俺にツテがありますよ!」と意気込んできたことにあった。どうやらこの世界に足を踏み入れる以前、着ぐるみの中に入るバイトをしていた経験があるらしく、話はあれよあれよと進み、気がつけば左馬刻は着ぐるみの中にいたのだった。
    「アニキ!早く合歓さんと銃兎さん追いますよ!」
    「ンなこたァわァってるっつの!!」
     格好こそ不本意ではあるが、合歓と銃兎が気になるのは事実である。左馬刻は仕方なく着ぐるみに入ってのさらなる尾行を続けた。合歓はともかく、銃兎は現役警察官であるため、怪しまれないよう、適度に距離を保ちながら、慎重に二人のあとを追う。
    「せっかくのテーマパークなのに、二人ともアトラクションとか何にも乗らないんスね」
     界田がポツリと呟く。確かに、現時点での合歓と銃兎は様々なアトラクションやショップ、フードコートなどを見て回っているのみで、ただテーマパーク内を楽しそうに談笑しながら練り歩いているだけなのである。いくら入場無料が売りのテーマパークとはいえ、世界に誇る大観覧車にすら乗ろうともしないとは、本当に一体何をしに来たのだろうか。
    「…………」
    「アニキ?」
    「……もういい。直接聞いてやる」
    「え、ちょっとアニキ!?」
     困惑の声を上げる界田はそのままに、左馬刻はベンチに座っている二人に向かって歩き出す。ただならない様子の着ぐるみが自分たちの方にやって来ていることにいち早く気付いた銃兎は、合歓を後ろで庇うようにして眉を顰めた。
    「……合歓さん、一応下がっていてください」
    「は、はい……」
     やがて、着ぐるみ姿の左馬刻は二人の前で立ち止まると、低く呟いた。
    「…………ったよ……」
    「……?何でしょうか……?」
     銃兎が聞き返した時だった。勢いよく着ぐるみの頭部分が脱ぎ捨てられて、そこから現れた人物に銃兎は顰めていた眉を驚きのあまり持ち上げた。
    「合歓!銃兎!これはどういうこったよ!!」
    「さ、左馬刻!?」
    「お兄ちゃん!?」
     合歓の兄であり、銃兎の恋人であるその人物──碧棺左馬刻は、汗でぺたりとした髪など気にも止めず、銃兎と合歓に詰め寄った。
    「ンで俺様に内緒で二人が一緒にいンだよ」
    「それは……、ていうかそれよりお前こそどうしたんだよ、その格好……」
    「ア"ァ?ンなこたァ今はどーだっていいんだよ。早く俺様の質問に答えろや」
     左馬刻のその言葉に、合歓が銃兎を覗き込む。
    「どうしましょう銃兎さん……」
    「……もうこうなった左馬刻は止められませんからね……仕方ありません、全て話してしまいましょう」
    「いいんですか……?」
    「はい、このまま誤解されたままだと合歓さんにも悪いですから」
    「銃兎さん……」
    「……ンだよ、二人してどうしたんだよ」
     二人の会話を聞きながら、左馬刻は困惑した表情を向けた。
    「お兄ちゃん、あのね、お兄ちゃんは誤解してるみたいだけど、私と銃兎さんは別にデートしてたわけじゃないの!」
    「ンじゃあなんで二人であんな楽しそうにしてたんだよ……」
     合歓の言葉に左馬刻はますます困惑する。しかし、それを制するように前に出たのは銃兎だった。
    「それはな、今日一日ずっとお前のことを考えてたからだよ、左馬刻」
    「俺様のこと……?」
    「ああ。今日合歓さんと一緒にいたのは、左馬刻とのデートプランを一緒に考えて貰っていたからなんだ」
    「……は?」
     空いた口が塞がらないとはこういう時に使うのだろう。左馬刻はらしくもなく思った。
    「銃兎さんが、いつもリードしてもらってばかりじゃ悪いからお兄ちゃんを喜ばせられるようなデートがしたいって私に相談してくれてね、ここは義妹いもうととして力にならなきゃ!って思って……!本当はこのままお兄ちゃんには内緒にしてサプライズってことにしてあげたかったんだけど……」
    「……ンだよそれ……」
    「まあ、でもお前に誤解を与えてしまったのは事実だからな。すまなかった」
    「……謝ってンじゃねぇよ……」
    「ふふ、お兄ちゃん顔真っ赤〜!」
    「ヤメロ!」
     左馬刻をからかうように合歓が頬をつつく。それを見ながら笑う銃兎の顔が何よりも綺麗で、左馬刻の胸が高鳴ったのはここだけの秘密である。
    「合歓、銃兎、その……お前らが考えたデートプラン、楽しみにしてっから」
    「ふふ、期待しててねお兄ちゃん!きっと可愛い銃兎さんが沢山見られるから!ね、銃兎さん!」
    「え、私に振るんですか!?」
    「銃兎さんの可愛さは私が保証しますので!」
    「ふーん?ンじゃ滅茶苦茶期待してるわ。なァ、銃兎?」
     アニキ、良かったスね……!と泣いている界田に左馬刻は一発蹴りを入れてやりたくなったが、銃兎とのデートを思い浮かべて良い気分になったお陰で抑えることができたので、界田は銃兎に感謝するべきである。まあ、そもそも着ぐるみでは上手く蹴ることなどできやしないのだが。
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