行きつけのキャバクラを出て家路に着こうかと足を踏み出した時だった。聞き覚えのあるご機嫌な鼻歌が聞こえ、ギョッとして目を向けるとそこにはふらふらとした足取りで往来をゆく真島がいた。こちらに気づいたら面倒だなと思った瞬間に目が合い、桐生ちゃんや!と呼びかけられた。殴りかかってこないか警戒したが、酔っ払いの顔をした真島はどうもそんな気分ではないらしい。喧嘩がらみでなく話しかけられる珍しさもあって、一軒行こうや、なんて肩を組まれてもあまり悪い気はしなかった。
どこそこ構わず襲ってくるから忘れていたが、ドスさえ持っていなければなかなか話せる男である。酔いに任せた会話は思いの外弾み、真島のペースに合わせて飲めば自然と舌も軽くなる。足元が軽くふらつくほどには酔っていた真島だったが、桐生が先ほどまでどの店にいたのかはちゃんと見ていたらしく、話題はキャバクラの話に及んだ。
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