仮面の君に、百面相 2話目 (途中)「あぁ…、ゔぅうっ……、あぁあ………っ、」
「どうして……どうして……っ…………」
彼は手を前に伸ばしたまま、依然として泣き続ける。目前にあるものがどうしても掴めないと、そんな風に。
涙でぐしょぐしょになった彼の顔をちらりと覗けば、悔恨の情と哀傷が滲んでいた。
私はどうしていいか分からず、泣きじゃくる彼を呆然と眺めていた。
しばらくして、彼はこちらに気がついたのか、
ふ、と彼は顔をあげ、くるりとこちらを向いた。
咄嗟に落としていた表情を作り直し、彼に問いかける。
「大丈夫ですか?」
すると突然、彼は花のような笑顔を咲かせて言った。
「嗚呼すみません!不安にさせてしまっただろうか…………。
実はオレ、ショーのキャストをやっている者でして、今はそのショーの練習を…………って朝比奈さんではないか!?久しぶりだな!シブフェス以来だったか?!」
シブフェス………。
そう言われて、やっと彼のことを思い出す。
確か神代さんとショーをやっていた………
「天馬くん……だったっけ?」
「その通りだ!!天翔けるペガサスと書き天馬、世界を司ると書いて司、その名も天馬司です!!!」
ドン、と彼は胸に手を当て、自信満々にポーズを決める。
だが、涙で顔が濡れて、目元が赤く染まったままでは、あまりに格好がついていなかった。
「あの時は類が本当に世話になった………。」
「いや、私は当然のことをしただけだよ、
それと、とりあえず顔を洗ったほうが良いんじゃないかな、涙でぐしゃぐしゃだよ」
「なにっ、これではスターとして格好がつかないではないか…すまない朝比奈さん、感謝する。」
そう言って彼は水道の方に駆けていく。
(嵐みたいな人だな………………。)