愛しいと言う気持ちとは何だろうか。
不機嫌そうな顔をして隣に立っている男をチラリと横目で見て思う。彼にとっては不本意な流れで自分と共にいる事になってしまい隠すことのない不機嫌さをみせている。自分以外の相手だと、こんなあからさまに表情を変える事はない。それが彼が自分に心を見せているのだと思うと嬉しい。こんな事を言ったらもっと彼の眉間の皺は深くなるのだろうけれど、きっと「甘えている」のだ。自分には感情を隠さず見せてくれている。そうしても良い相手なのだと甘えているのだ。
ふふ、と小さく笑えば不満そうな目がこっちを睨む。
「可愛いね、ボーラ。」
盛大なため息と舌打ちが返される。その反応に更に笑みを深めれば気色悪いと暴言が返ってくる。
好きの反対は無関心だと言う。それがアンドロイドにも適応されるのかはわからないが。彼は事あるごとに私に突っかかって来るのだ。そんなに嫌なら無視でもすれば良いのにと思うのだけれど彼はそうしないのだからきっと甘えているのだ。
「ねぇボーラ、これが終わったら一緒にお酒でも飲みに行かないかい。」
自分が任された仕事をこなす為、手元のキーボードを見たままに誘ってみる。答えは分かりきっているのだけれど、なんとなく今の間を持たす為に口にしていた言葉だった。
「……終わって俺がそんな気分だったら、な。」
作業をしている手がとまる。思わず見上げた彼の表情は見えなかった。
こんな気まぐれがあるから彼の事が堪らず愛しいとプログラムされただけのkokoroが跳ねるのだ。
「なら、今の作業を頑張って終わらせないとね。」
静かな空間に私が生み出すキーボードの音と、聞こえるはずのない弾む心臓の音が聞こえる気がした。