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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    焼き芋と道漣ちゃん タケルくんを添えて(2020/03/09)

    ##道漣

    焼き芋食べる道漣ちゃん「らーめん屋……いや、これがデザートって無理あんだろ……」
    「おいオマエ、円城寺さんがせっかく買っておいてくれたんだぞ。……食べきれなくてすまない、円城寺さん」
    「いや、これは自分が買いすぎたんだ。気にしないでくれ」
     たくさん食べてくれてありがとうな。懐かしいアナウンスに釣られて買ってきた焼き芋は、半分以下まで減っている。でも、九本も買ってしまったんだ。子供の腕くらいある大きな焼き芋はあと三本残っていた。あと一本ずつ、とはいかない。ただでさえたらふく食べた後のデザートに出したんだ。ここまで減ったのは二人がよく食べるからにほかならない。
     焼き芋がこんなにあるのに、でっかいハンバーグを焼いて、ご飯を五合も炊いてしまったんだ。歯止めが効かない、というのは違う気がするが、二人にはいくらでも食べさせたくなってしまう。きっと、今まで自分にたらふく食わせてくれた人たちもこういう気持ちだったに違いない。
    「すまない円城寺さん……ちょっと動けない。食べ過ぎた」
    「おお、なんなら泊まっていくか?」
    「ん……いや、帰る。朝は用事があるんだ」
     ありがとう、と呟いて、タケルが畳に寝っ転がる。横を見れば漣も同じように仰向けになっていた。そういえば、漣に泊まるかと聞かなくなってからしばらく経つ。それくらい漣は当たり前に我が家にいて、自分もタケルもそれを受け止めている。きっと、漣は今日も自分と一緒に眠って、同じ朝を迎えるんだろう。



     数十分もしないうちにタケルは帰ってしまった。あんまりゆっくりすると行動が鈍るし、風呂の時間だってどんどん遅くなってしまう。ストイックなタケルらしい。
     一方、と。つい比べてしまう銀の髪は未だに畳の上をゆらゆらと揺蕩っている。別に漣は風呂が嫌いじゃない。むしろ好きな方だろう。ただ、それ以上に我が家の床を転がるのが好きなだけだ。
     放っておけば勝手に入るだろう。長い時間をかけて、あまり干渉しないことがうまくやっていくコツだと、わかったつもりになっている。自分は自分でやることがある。台所に立って、腕をまくった。さて、なんちゃってスイートポテトを作ろう。
     手のつけられていない大きな焼き芋の皮を丁寧に剥いていく。食べれなくもないのだが、これは菓子には入れられない。黄金色の身をほぐしながら耐熱ボウルにうつして、電子レンジへ。そういえば、このきれいな色は漣の目の色に似ている。さつまいもに喩えられたと知ったら、漣は怒るだろうか。そんなことを考えて後ろを見やれば、漣がげんなりとした顔をしている。きっと、まだまだ食べさせられると思ったんだろう。「明日、みんなにあげる分だからな」と声をかけた。
     身がホクホクに温まったら、そこにたっぷりのバターと少しの牛乳を入れて混ぜる。本当は生クリームがあればいいんだが、余り物にそこまで力を入れる必要もない。いや、生クリームくらい常備してもいいんだ。今の自分は一人じゃない。この冷蔵庫は三人分の胃袋を預かっているのだ。それなら、という気もしてくる。まあ、今はないから牛乳で。
     ぽてっとしてきたら雪うさぎの形にしてアルミホイルに並べていく。中途半端に残ってしまった分はまん丸くして、雪うさぎの隣に座らせる。あとはオーブントースターに入れて、焦げ目がつくまで焼けば完成だ。
    「んだよ、これ」
     いつの間にかそばに寄ってきた漣が問いかけてくる。
    「スイートポテト……もどきだな。さっきの焼き芋をリメイクしたんだ」
    「りめーく……ふうん。で、それうめえのか?」
     さっきまで満腹でひっくり返ってたくせに、興味津々といったふうにオーブンを覗き込んでる漣が微笑ましくて仕方がない。小さいやつは食べていいぞ、と言ったら焼きあがる前に取り出してあっという間に口に含んだ。
    「んん……ん! 悪くねえな! あんまさっきとかわんねーけど……うん。悪くねえな」
    「たいしたことはしてないからな。バターを入れて牛乳で伸ばした程度だ」
     しかし、腹いっぱいじゃなかったのか。そう問えばうるせーと声が返ってくる。そうしてじゃれあっている間にもトースターは仕事を続けて、部屋にあまいバターの香りが満ちてくる。
    「……紅茶でも飲むか」
    「あ? 珍しいじゃねーか」
    「甘い匂いにあうだろう? 幸広にもらった茶葉があるんだ。急須で大丈夫かな……」
     小さな鍋で湯を沸かす間にオーブンからチン、と音が鳴る。粗熱を取るために取り出せば、より一層香りが濃くなった。
     急須から無骨な湯呑に、あまり我が家では見ることのない琥珀色の液体が注がれる。二人でそっと口をつけて、ほう、と息を吐いた。
    「……オレ様、これ好きだ」
     好きだ、と漣は言った。漣は最近、たまにだけれども『好き』という言葉を使う。それを自分は嬉しく思う。
    「いいにおい……」
     ふにゃ、と紅茶をすごい速さで飲み終えた漣がちゃぶ台に突っ伏して、夢を見るように呟いた。幸せそうに細められたまぶたに、黄金色の双眸が隠される。
    「ああ……バターのにおいか? そういえば漣はバターが好きかもなあ。このまえだって……」
     くぅ、かぁ。返事の代わりに寝息が聞こえる。風呂も入らずに、歯も磨かずに、幸せそうに、こんなに無防備に寝てしまって。
     相当満腹だったんだな。そっとブランケットをかけてやり、さらさらと流れる髪を手で撫でた。風呂に入れないといけないし、歯も磨かせないと。それでも、あと一回、残りのスイートポテトが焼けるまでは寝かせておいてやろう。
     オーブンがまたじじじと動き出す。自分は漣を撫でながら、もう一度部屋に甘い匂いが満ちるのを待つ。珍しく紅茶なんか飲みながら、漣のことだけを考える。
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