ポテトを食べるハイジョちゃん「お金持ちがファストフードを知らないみたいな幻想、やめてくださいよ」
「自分でお金持ちって言っちゃうかぁ」
「事実ですから」
五人席はないから、一つ椅子を借りてきて各々座る。四季くんが自分の席のことを、お誕生日席だと言っていた。なるほど、言い得て妙だと思う。
人もまばらもこの時間、時間が経っているであろうポテトは買ったばかりでもしなしなとしている。僕はわりとこれが好きだ。ふにゃ、として、油と塩の味。食べ盛り育ち盛りの僕らに必要なジャンクな栄養が、これにはギッシリ詰まってる。
「俺、見てみたかったんだけどなぁ。お金持ちが庶民に誘われて、マックのポテト初めて食べて感動するやつ」
「それ、オレもっす! ジュンっちが『これが庶民の食べ物ですか……』とか言うの、チョー聞きたかったっす!」
「僕が一度だってあなた達のことを庶民だなんて言ったことがありますか……?」
呆れたように言えば、いや、事実呆れながら口にすれば、春名さんと四季くんはへら、と笑った。
みんなこのあとに夕飯があるから、トレイに乗せられたのはジュースとポテトだけ。金持ちだろうが腹は減る。買い食いくらい、したことあるに決まってる。
「あ……初めて、ジュンと買い食いしたの、俺だよ……」
だよね、とナツキが首を傾げてくる。そうだよ、と返せば、ナツキはどこか誇らしそうな表情を浮かべている。
「先を越されたー!」
笑いながらハヤトが天を仰ぐ。そんなの、いつの話だと思ってるんだか。
「でも……これからは、みんなで……食べるから……」
「そうっすよ! これからはみんなで、ガンガン、思い出作るっす!」
「ポテトを食べるだけで思い出ですか」
「そーいうこと! ついでにジュンの食べたことのないもん、探そうぜ」
人のことをエンタテインメント扱いしないでください。そう呟いたものの、少しだけそれを楽しみにしているのも事実。
きっと、誰も気づいていない。もしかしたら、ナツキは気づいているのかもしれないけど。
次は、どこに連れて行かれるんだろう。何を、見せてくれるんだろう。
彼らが見せてくれた、ステージの上から見る景色。それに匹敵する何かが、まだ見ぬなにかが待っているのだろうか。
そして、僕は彼らに何を見せてあげられるんだろう。貰いっぱなしは性に合わない。引っ張られて、引っ張って。五人で見る景色は一体どんな色をしているんだろう。
夢想しながらポテトを一つ。ふにゃ、と曲がった塩辛いポテトをコーヒーで流し込んで、僕らはまた大事な話とくだらない話を交互にするのだ。