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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    牙崎メイン。全員死ぬ。(2020/01/25)

    ##牙崎漣
    ##カプなし

    河岸の白魚 全員死んだ。
     
     
     最初はらーめん屋が血を吐いた。ケホ、と一度咳をしたと思ったら、次の瞬間には両膝をついてアスファルトを血まみれにした。円城寺さん、って言いたかったんだろう。チビが口を開いて「え、」と言ったが、次いで口から出たのは言葉ではなく血で、ぐらりと倒れたチビは派手に倒れて鈍い音を立てた。
     意味がわからなかったが、異変は止まらない。あらゆる人間が血を吐いて地面に突っ伏していく。あっという間に人間の絨毯が出来上がった。
     らーめん屋の電話を取り出して片っ端から電話を掛ける。下僕、四季、それからもう事務所の人間全員。誰も出やしない。電話の鳴る音をかき消すように派手な衝突音が聞こえていた。
     振り向けば、車がそこかしこに突っ込んでぶっ壊れていくのが見える。コンビニだとか、知らないビルだとか、定食屋だとか。割れたガラスが太陽をきらきらと反射していて、今日は日差しが暖かいってことに気がついた。
     派手に燃えだした定食屋は熱かったので離れる。覇王は無事だろうか。もう人間が生きてるなんて考えは捨てていた。通りにはカラスもいる。人間以外は生きているんだ。なんでオレ様は生きているんだ。
     
     
     覇王はいつもの裏路地に居た。覇王、って声をかけて、背負っていたチビを地面に横たえた。意味わかんなかったけど、覇王に合わせてやろうと思ったんだ。覇王のためなのか、チビのためなのかは知らねえ。
     覇王はくるる、と喉を鳴らしてオレ様の足元とチビの頬を行ったり来たりしていた。それを見ているうち、オレ様にも兆候が現れた。
    「っ……がはっ……ごほっごほっ……ぁ……」
     苦しかった。呼吸をしなければ生きていけないことを改めて思い知るような衝動。喉に異変はないのに、肺の中いっぱいに埃が溜まったような、泥を流し込まれたような感覚がした。膝をつくような無様な真似はしなかったが、立っていられなくてその場にしゃがみ込む。オレ様を覗き込む、覇王の目。これは覇王に移ったりするんだろうか。離れたかったけれど、からだが動かない。
     ぺたん、と座り込む。数分おきに咳が出る。チビの、血まみれの口元が見える。自分の末路を重ねたが、その時は一向にこなかった。ただ咳が出て、開いた喉に胃酸があがってくる。胃が空っぽになるまで吐いて、なんでだろうって思った。なんでオレ様だけ吐き気があるんだ。なんでオレ様は血を吐かない。なんで、オレ様だけ生きている。
    「……離れろ」
     オレ様の子分はオレ様に似てかしこい。離れていく覇王をぼんやりと眺めながら、徐々に削れていく体力と精神力の限界を考えていた。
     
     
     オレ様は死なない。オレ様は死ねないのだろうか。死にたくはないが、こんなのは嬲り殺しだ。
     夜がきて、昼がきてもオレ様は生きていた。いろんな建物が燃えたり壊れたりして、この路地裏もいつか安全ではなくなんだろうと考える。チビの死に顔を見て、らーめん屋を置いてきたことがなんだか不公平な気がしてきた。
     もう座る体力もなかった。地面に転がって、ただ呼吸をすることに専念する。時々、耐え難い空腹を思い出す。何度も血を吐いたけれどこれは違う。喉が切れただけだ。アイツらのとは、違う。
     
     瞬間、気配がした。
     
     生き物の気配とは違っていた。ただ、視線だけを向けると足が見えた。真っ白い、裸足。ぺたぺたと、こっちに寄ってくる歩幅。
     顔を上げる。人間の形をした、得体のしれないものと目があう。とろりとしたはちみつ色の双眸と、さらさらとした長い銀の髪。ニコリと笑う、女性に似たなにか。
    「れん」
     それは笑った。鈴が鳴るような声だった。
    「ねえ、おとうさんといく? それとも、おかあさんとくる?」
     どこに、と聞く前に結論だけが空気を揺らす。
    「……オレ様に母親はいねえ」
     つっても、親父だってもういないんだろう。親父が人間である限り。そうして、これが証明みたいなもんだった。生きている、人間にそっくりのもの。それにそっくりな髪と目をした自分。この世界で唯一、死んでいない自分。
    「……どこにもいかねえよ。らーめん屋を迎えに行って、下僕も探して、チビと、四人で、」
     本当はこんなこと望んじゃいない。望みはもうわからなくて、不条理を憎む気にもならなくて、ただ、ぼんやり結論を受け止めようと努めていた。きっと、オレ様は、
    「そこにいければいいの?」
     キョトンとした目。子供の目に似ている。今まで見た中で一番白く、細く、美しい指がこちらに伸びてくる。
    「……いっしょに、いたかったなぁ。だって、はなれてたけど、あたしのこどもだもん」
     ぐっ、と息が止まる。信じられない力で喉を潰される。
    「でも、しょうがないね。おともだちによろしく」
     それじゃあね。きれいな声が鈍い音にかき消される。呼吸が止まる前に首が折れたのだと理解したときにはもう死んでいた。いや、少し違う。死に絶える寸前、周囲を取り囲むはちみつ色の視線がオレ様を見送った。
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