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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    漣。SF。100本チャレンジその27(22/6/3)

    ##100本チャレンジ
    ##牙崎漣
    ##プロデューサー
    ##カプなし

    と或る白蛇の伝承 世界が氷に覆われてしまった。数日前から地球は絶賛氷河期真っ只中だ。
     人類もこれまでかと誰もが思ったのだが、我々はどうしようもなく神に愛されていたらしい。敬虔な信者と都合のいい無神論者の祈りを受けて、神様は私たちに不思議なストーブをくださった。
     この不思議なストーブは人の思い出を燃やし尽くして熱にする。思い出が大きく美しいほど、目に見えない炎は燃え上がって地球をわずかに暖める。
     そこかしこに設置されたストーブには定期的に人が思い出を焼べなければならないが、誰だってそんなことはやりたくない。大きすぎる思い出を燃やした人間がどうなるのかはストーブの前でうなだれている死刑囚の様子から見て取れた。だから、人々はささやかな思い出を焼べて暖をとる。私は財布にいつの間にか入っていたミサンガの思い出を失って、今日も元気に働いている。仕方のないことだ。暖めなければ洗濯物は乾かないし、万物は死に絶える。
     アイドルの出番だ、と思った。アイドルが人々の心に思い出を作り、それを焼べてもらう。彼らの与える熱狂なら、路面を覆った氷ですらも溶かせるだろう。もちろん思い出はずっと大切に持っていてほしいけど、とても合理的で現実的だと思ったのだ。
     いや、違う。私は私のアイドルたちを守りたかっただけだ。思い出を生み出す存在になって、その心を支える記憶を切り売りする必要のない『特例』になってほしかった。そう思っていた。
     それなのに、願いは叶わない。
     私がなけなしの思い出を焼べて事務所を暖めていたら漣さんが来た。漣さんは私の隣で少し眠って、不満そうに「寒い」と呟いて立ち上がった。そして、漣さんはその白く冷えた手をストーブへとかざす。
    「ダメです、漣さん」
     この人の思い出を燃やすわけにはいかない。あなたは欠けてはいけない。あなたは損なわれてはいけない。
    「くだらねー」
     ためらいもなく彼は吐き捨てる。目の前で、ストーブが煌々と輝いた。

     地球には平和が戻った。氷河期が終わったのだ。
     世界は疑問に満ちているけれど、私は知っている。世界を暖めて氷から解放したのは漣さんだ。漣さんの思い出を喰らい尽くして、世界は熱を取り戻したんだ。
     漣さんはどんな思い出を捧げたんだろう。熱は思い出の大きさに比例する。地球をまるまる暖めるほどの熱を生み出した思い出が欠けて、漣さんは大丈夫なんだろうか。
    「……漣さん、大丈夫ですか?」
    「ハァ? なにが?」
    「とても大きな思い出を燃やしたのではないですか?」
    「別に」
     漣さんは何も変わらないように見えた。誰の目から見ても、いつもの彼だ。

     数日後、私は打ち合わせの資料を広げていた。うちのアイドル数名に、とある民族に伝わる伝承を再現したVTRへの出演依頼がきていたのだ。
     だが、脚本に関わる民族学の専門家が、困ったように首を捻る。
    「……いくつかの伝承の記憶が消えているんです」
     資料に、記憶に、心に、ぽっかりと空白が浸食しているようだと彼は言う。
    「……まるで、燃やし尽くしてしまったかのように」
     専門家は所々が真っ白になってしまった和綴じの古い本を指でなぞる。一週間前には、氷河期がくる前にはそこにあったはずの文字を私は思いだそうとする。
     ふと、漣さんが燃やした記憶について考えた。
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