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    DummとDartsとKleine Klinge

    綺麗の裏側 vol.1渡された書類に目を通す前に、思わず口が動いた。

    それはいつものことだが、上司が自分の顔を見たときに苦い顔をしている辺り、余計嫌な予感が的中した気がする。


    「メンバーが知らないやつだけども、僕でいいの?」

    「潜入捜査だ、ここにそれが向いている人間がいるか?」

    「僕も向いてるとは思わないんだけど」


    眉間のシワが深くなった。わかってると言わんばかりの顔だったが、どうやら上からのご指名らしい。誰かと間違えているのではないかと思うくらい、この手の任務で呼ばれるのは初めてだった。


    「僕指名の潜入捜査って全くもって想像つかないんだけど、誰か間違えてない?スペルミス?」

    「…どう見たらこれがスペルミスに見えるんだ」

    「子役としての潜入捜査じゃないか?適役だろう」


    そうやって笑う声に舌打ちをすると、余計笑いやがった。振り返らずとも、後ろから書類を覗き込んでにやついているのがわかる。

    「家族ごっこしてこいって?冗談でしょ」 

    「まぁ、それはなさそうだな。こいつがお前の父親役にしては、随分若すぎる」

    「ぶん殴るぞ」

    向かいでため息が聞こえた。正直後ろで笑っている豪快な男や、向かいで頭を抱えている強面の上司よりも適役なのかもしれないが、自分の名前の下に並ぶ文字に見覚えがなかった。


    「これ何て読むの」

    「Dummだ」

    「ドゥム、知ってる?」

    「あぁ、クソガキの隣によくいる坊主だろ」

    「お前にとってのクソガキ多いからわかんないよ」

    「ドクターの元で仕事をしているケイだ。歳はお前とあまり変わらない」


    ドクター。
    眉間にシワを寄せている顔に、傷があるところがうちのボスに似ていると思っていたが、その周りに誰かいた記憶はない。怪我をしても医務室に世話になることは少ないからか。

    「ほんとに僕とそのドゥムってやつなの?」

    「記載してある通りだ、A地区の富裕層が行う展示会にて、ケイの潜入捜査の依頼がはいったらしい」

    「まじかよ、展示会なら警備でよくない?潜入する理由って」

    言いかけてから気がついた。なるほど、この街でならよくあることだ。警備ではなくケイを潜入させる理由。

    「裏取引か」

    「数ヵ月前からとある薬物が流通している。それなりの金が動いている辺り、富裕層の中にその手のドロが紛れているらしい。運営側にドロがいれば身元確認もパスできる、その可能性があると判断したからだろう」

    「路地裏とかじゃなくて、華やかな舞踏会で薬の取引ってか?随分と金持ちなドロがいるもんだね」

    「金があれば動くドロもいるからな」

    さっきまで笑っていた声のトーンが少し低くなった。遭遇したことはあまりないが、確かに裏で雇われて動いていた、なんて話はよく聞くことだ。


    「なるほどね。ドゥムも潜入向きなの?」

    「潜入というよりは、彼は薬の売人の経験と知識がある。相手も売人だ、生半可な知識はすぐ疑われる」

    「へぇ、それって合法なやつとは思えないけども、平気?」

    「元、売人だ」

    強めに言われた"元"という言葉に、つい言葉が出そうになった口元を書類で隠した。

    こちらもドロのことがいえる立場ではないとつくづく思う。ドロあがりのケイは少なくない、ましてその時のスキルを活かして仕事ができるのは、違法から合法に変わったようなものじゃないか。なんて言うと空気が悪くなることくらいわかってる。

    ドロが嫌いでもなければ恨みもないが、純粋にそう思ったことが口から出てしまいそうになる、気を付けないと本人の前でもでてしまいそうだ。


    「対象のドロとの取引の窓口として彼が選ばれた、そのドロの確保と、彼の警備がお前の仕事だ」

    「潜入っていっていいのそれ」

    「展示会の警備として配属される人間の中に潜入する形だ。警備の人間にも疑いをかけているのだろう、警備にもケイを配属しているわけではないからな」

    「最初からそうすりゃいいのに、狼を吊りたいっての?」

    「その話はすぐにでた、ただ」

    「小僧、この街の金持ちは金で買えるものは何でも買うが、金で買えねぇものを失うのは大嫌いなんだよ」

    「わかるようにいってくんね」

    喉をならすように笑ってきた。少しバカにされた気もするが、例えがわかりやすいどころか余計わかりずらいのが悪い。


    「身内の中にドロが紛れていたなんてことがバレれば、上流階級としての信用がなくなる、もしくは本人達が許せねぇってことだ。じゃなきゃケイを配属するのを渋らねぇだろ」

    「自業自得じゃん、めんどくさ」

    「それで片付きゃ楽だがな。俺もその話は聞いたが、ケイを警備として配属するくらいなら展示会をやらないというもんだ。品がねぇやつが多いからっていったらしい。よっぽどプライドもお高いようだ」

    「もう行きたくなくなってきたんだけどボス」

    見上げたボスはうつむいた顔に手を当ててため息をついていた。余計なことをと言わんばかりに目線だけあげるが、おしゃべりな部下は後ろで笑っているのが見なくてもわかる。こいつ最初からわかってたのか。

    「そんな注文の多いお金持ちのところに選ばれたってことは、品があるって自覚していい?」

    「…………」

    「僕がすべったみたいじゃんか!」

    「違うのか?」

    「お前なぁ!」

    耐えきれないと吹き出した顔に一発かまそうとするも、いとも簡単に避けられた。こういう時でもちゃっかりかわしたりするのが腹立たしい。

    もう一度、自分の名前とその下に並ぶ名前を目で追う。正直、いつも忙しいボスが時間を割いて自分に説明してくるあたり、簡単な仕事ではないのは何となく思っていた。

    『対象の発見、確保、もしくは取引の相手の特定。依頼者より、展示会開催期間中に騒動になることは控えるようにとのこと』


    「もうちっと賢いケイを選べばいいのに」

    理由はわからないが、振られた仕事を断る理由もない。なんならやってやろうじゃないか、騒動にならない保証はしないけど。
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