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マクドール邸は赤月帝国の中でも類を見ない裕福なお屋敷である。板の張られた床は木造ではなく、実際は煉瓦造りの床にわざわざ板を張っているのだと聞き、想像よりも遙かに質のいい生活をしていると思ったものだった。
強固に作られた家の廊下を歩いているときに床が軋むなんてことは到底起きようがなく、窓を閉めさえしてしまえば帝都の喧噪を感じることがない。首都のど真ん中に建てられているとは到底思えない静寂に包まれた屋敷は武人としてのプライドを有しているマクドールという名にふさわしい家であるとテッドは思っていた。
靴が床を蹴る僅かな接触、服が擦れる音、息を潜める呼吸音。ただでさえ静寂な屋敷の中で生活を共にする従者や父の部下達が眠りに落ちると、その異様さは特に際立つ。しかしそれが、己の身を脅かす者ではないことをテッドは知っている。
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