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    mimuramumi

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    蛇と影 024イライラでワロタ

    「『打草驚蛇』……だ。まさか自分が藪を突く立場になるとは思わなかったろう?」
     感情の読めない声でシャドーマンは言った。同時に乱雑な手つきで投げ捨てられる金属片。サーチスネークのコアだ。破壊されて歪んだ識別コードは、反応がロストしていたうちのひとつと合致している。
     ああ、次の任務で使おうと思っていたのに──場違いにそう思いながら、スネークマンは眼前に佇む弟機を見る。さて、彼の赤い瞳は、果たしてあんな色をしていただろうか。
     何も言葉を返さないスネークマンに、シャドーマンはゆっくりと首を振る。
    「驚いてもくれない。お主のことは嫌いじゃないけれど、つくづく思いどおりにならないね。拙者に望むものがあるのなら、そっちも同じように差し出すのが礼儀じゃない?」
    「分かってるだろ、シャドー。贈り贈られ感謝しあって、なんて俺の柄じゃない……音もなく近付いて丸呑みが基本さ」
    ごっこ遊びロールプレイが好きなのも共感できるのになあ。半端に反りが合うぶん尚タチが悪い……」
     とん、とん、と規則的な音。シャドーマンが爪先で床を叩く音だ。苛ついているのだろうか。このロボットのこんな態度は初めて見る。スネークマンは頭をもたげかけた興奮になんとか蓋をした。未知を開拓する高揚感は己のパーソナリティを形成する重要なファクターのひとつだが、それに夢中になっていては身を滅ぼす。
     シャドーマンの中には、未知のベールに覆われた暗闇ばかりが広がっている。
    「……怒らせるつもりはなかったんだぜ? いたずら気分だった。本気で嫌だったんなら謝る」
    「いいよ、謝罪がほしいわけではないから。でもやりすぎでござるよねえ。ちょっとむかついちゃった。久々……んん、初めてかもしれない」
     と、そう言うシャドーマンだがその口調はいやに落ち着いている。表情にも変化はない。感情のない顔で、彼はじっと、スネークマンを見つめている。
     スネークマンは焦らなかった。危機感を抱いていないのではなく、半分諦めているのだ。自分は失敗した。尻尾を掴まえられて引きずり出された斥候が辿る道は死のみである。
     とはいえシャドーマンも怒りに任せて同胞に大きな害を為すほど愚かではあるまい。スネークマンの命を、等価交換の卓上に乗せることはできない──その上で、どう出てくるか。何にせよ危険な取引だがこれで怯むようではワイリーナンバーズの情報屋など務まらない。少しでも多く、未知を引き剥がすのだ。機体か、記憶か、それともそれ以上のものか、それらを抵当に入れてでも。
    「……率直に訊こうかな。何を見た?」
     静かな問いが投げられる。スネークマンは小さく肩をすくめる。
    「お前が使われてない資材倉庫に入っていった。中にもう一機反応があったが、普段使いのデータリストじゃ照合できなかったから誰か分からない。部屋の中を覗こうとした瞬間にお前に打ち落とされた。……粉々にする必要は無かったんじゃねえの?」
    「サーチスネークのセンサーがそれぞれどこにあるのか分からなかったから、ぜんぶ砕いた。ふうん……倉庫のこと知ったのは今回が初めて?」
    「知ってたらこんなヘマしねえよ」
    「そうかなあ? ……じゃあ、次はなんで拙者が怒ってるか、推測してみて」
     やはり怒っているらしい。こいつキレると静かになるタイプだったのか、と感心しつつスネークマンは電子頭脳を回した。推測、推測か。データが少なすぎて普遍的な回答しか思いつかない。だがここで答えなければ状況は悪い方へ進むだろう。
    「まあ……相当大事な用だったんだろ? 内容は想像つかねえけど」
    「そうでござるねえ。でも、知られて困ることでもないんだよね。拙者が怒ってるのは、」
     だん、と鋼の爪先が床をひときわ強く叩く。シャドーマンは口許にゆるく笑みを浮かべた。だが、目が笑っていない。
    「……安全な場所から一方的に見られて、気分がとっても悪かったから。それだけ」
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