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    かもがわ たかお

    @ttk2234

    雑多

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    POIPOI 9

    小国の姫であるあんずが、えでんの人たちが治る大国に嫁いできた!みたいなやつです 茨あんです
    ふわっとファンタジーなのでオ?と思っても見逃してくれると助かります 続きはありません

     緑と資源豊かな小国の姫が、隣接する雪で閉ざされた帝国へ嫁いで来たのは、ある春の頃であった。春、と言っても、寒冷地に根を下ろした帝国で、花の咲く季節は極めて短い。姫が帝国に輿入れしてきた時も暦の上では春を謳いながらも、土地には未だ雪景色が広がり、寒々しい灰色の雲が青空を覆い尽くしているような、そんな時節であった。
     姫と呼ばれた娘は、未だ少女と言えるような柔らかい肢体に花嫁衣装を纏わせて、厳かな謁見の間に於いて膝跨いて顔を上げない。まるでその純白は死装束の様だと、王の隣に控え立つ宰相-茨は思った。雪で閉ざされる期間が長いこの国で、資源確保の問題は現在過去未来に至るまで永劫の問題である。その中で隣接する豊かな小国とのいざこざは絶えず起こっていたが、現帝は争いを好まず侵略も是としないため、当代は双方珍しく穏やかな時代を過ごしていた。その中でその平穏を確固たるものにしようと送られてきたのが、姫-あんずと呼ばれる少女であった。
     有り体に言えば、自国の礎の為に送られてきた生贄だった。

    「…面をあげよ」
    「はい」

     現帝-凪砂の重い一言が室内に響き渡る。それに鈴の様な声が返った。豪奢なレースのヴェールを上げながら顔を擡げた少女の表情はどんなものだろうと茨は視線を投げる。だが、そこには敵国に於いても絶望も畏怖の色さえもない、しっかりと前を見据えた少女がいるだけだった。成る程、小国でも君主の娘の表情だ。

    「…こんな寒く冷たい国に、よく来てくれたね」
    「………、閣下、威厳を」
    「…もうこの国の者になるのだし、繕ったところで結局は徒労に終わると思うけれど?」

     要するに歓迎する、ということなのだが、やりとりを見ていた小さな姫は、現帝のあまりの変貌ぶりに目を丸くする。その様子に凪砂はくすりと笑った。それを見た茨は、もうここまで来たら確かに取り繕うもの無駄だろうとため息を吐く。良き傀儡だと思っていた帝王は近頃自我を持ち始め、ちっとも自分の思い通りになってくれない。

    「…じゃあ茨、彼女を君の邸宅へ案内して」
    「は?」

     先ほどと異なりゆったりと足を組んで玉座に座ったその人は、長い銀色の髪を優雅にかきあげながらそう言った。
     現帝には妃がいない。それをいいことに同等の血筋を以って和睦に講じる為に送られてきた姫は、現帝の隣が然るべき居場所であるはずだ。なのに何故自分の邸宅へと、その意図を汲めずに素の声を上げた宰相は、未だ帝王の真意を測れない。

    「…だって彼女は、君にと思って輿入れをしてもらったのだから」

     出来のいい彫刻の様なつくりの美しい相貌が、心底嬉しいというような表情を灯す。だが、いきなりの急展開を告げられた茨には、そんな感情は知ったことではない。
     貯めて、一拍。

    「…はぁ?!」

     後にも先にも、優秀有能な宰相殿がこの様な素っ頓狂な声を上げることはなかったと云う…というのはまた別の話である。
     近くにいた近衛騎士たちがその声に釣られて吹き出すが、当の帝王は自分は何か不味いことを言った?と首を傾げている始末である。あんずはあんずで何が起こっているのか現状を理解できずに帝王と宰相を交互に見ながら困惑しているようだった。





    「ど、どうか末長く、よろしくお願いします…?」
    「御免被ります」
    「えぇ…?」

     花嫁の言葉に間髪入れず茨は非を吐き出した。
     豪華なベッドの上で恭しく正座をしているあんずは、未だ困惑の表情で顔の険しい宰相を見つめている。だが、それに対して当の茨も気を遣ってやれる余裕はもはやなかった。困惑を通り越して怒りの感情を露わにした宰相は、兎にも角にも現状がとても許容できないらしい。

     現帝から思ってもみなかった決定事項を告げられた後の騒動は、思い出すだけでも未だに頭が痛くなる。醜態を晒したという怒りばかりか、どうしてそうなったと詰ったところで現帝の涼やかなかんばせは一つも歪むことはなかった。だが、こちらも引く訳にはいかないと言葉を尽くしてみたところで、…茨、などと有無を言わせぬ重い声色で、その後の言の葉を黙殺されてしまったのだ。
     結局、何を説いても王が首を縦に振り、あんずを自分の邸宅へ連れて行くことはなかった。諦めた方がいいね!なんて溌剌と言い放った近衛騎士団長の笑顔と声は、もう二度と見たくも聞きたくもない。
     あんずを元の国へ送り返すわけにもいかず、ならば謁見の間にそのまま置いていくこともできず。王は話が終わったと自身が終止符を打った瞬間に、豪奢な玉座から立ち上がり楽しそうにるんるんと退席してしまい、それに倣って周りの者たちも自身の持ち場へ帰って行ってしまった。残されたのは未だ物事を許容できない哀れな自分と、どうしていいかわからず途方に暮れて自分を見上げる姫だけだった。そうして、仕方なくこの女を引き取ってきたのだ。
     一連の騒動を見つめていた女は、最初の厳かな表情も忘れ、ぽかんとした表情のまま、あれよあれよという間に自分の邸宅の客間へ押し込められて今に至る。さてこれからこれをどう現帝に送り返すか、どう許容させるべきかと思案しながら部屋を後にしようとしたら、これだ。ベッドの上で跪き、三つ指をついて頭を垂れ、末長くなどと言われても反吐が出る。これにとったらこの国の人間と契れれば幸い、それこそ和睦!それこそ我が役割!と言ったところなのだろうが、生憎、自分は現帝より先に伴侶を定めるつもりはない。

    「そもそも貴方は閣下のために誂えた品物で、自分のために用意されたものではありませんので」
    「でも、先程それは違うって」
    「自分のために用意されたものではありませんので」
    「復唱…」
    「大事なことですからね」
     
     言えば、あんずは息を吐いた。そして困惑の中に安堵を滲ませる。彼女が着ている銀糸が施された純白のネグリジェが、それが動くたびにさらり、音を立てていた。そこから伸びる手足は白く細く、噛み跡でもつけたらさぞ映えることだろう。
     …だが、食べてやるものか。この馳走はこの国の王のために用意したものなのである。一瞥をくれ、まるで逃げるかのように入り口のドアに手をかける。茨にとっては、何もかもが忌々しかった。

    「…褥を共にする理由もありません。閣下に、必ず、突き返しますので、その時までどうぞご自由になさって下さい」

     言えば、少女の身体がぴくりと跳ね、そうして安堵したように瞳が柔らかくなった。王女といっても女は女。相手が整った彫刻のような美丈夫であれ、自分のような一際目を引く外見の男であれ、初花を散らすのはやはり、それなりに緊張するものなのだろう。
     だが、それでいいのか。
     ドアノブを回そうとした手を引っ込めて、もう一度女を見る。まだ何かと首を傾げるそのひとの中に、もう困惑の色はない。ただただ純真に、動きを止めた自分をじっと見つめていた。

    「貴方は今の状況が不本意ではないのですか」

     王なら王の、女なら女の役割がある。それこそ自国では、口を酸っぱくしてこの国に来た時の自分の役割を説かれたであろう。だったら、一宰相の邸宅の客間が一時であれ住居になるなど言語道断、早く王の元へと急かされ詰られても仕方がないとさえ思っていた。夜にかの王の褥に忍び込むような気概も、この女からは感じられない。ならば、自分を籠絡してやろうなどと言う下心もある様には見えず。
     自分の質問にぴくりと反応したその女は、微笑んだ。何もかもを享受する様な、柔らかなかんばせだった。

    「この国に来れた、と言うだけで、わたしの目的の八割は達成できているので」

     …その言葉の真意がわからぬほど自分も馬鹿ではない。あんずの含ませた言い方に舌打ちをし、成る程、と笑ってやった。初花を散らすことに身体を緊張させながらも、この女は一国の王の娘なのだ。花を誰に散らされるなど恐らく二の次、そもそもの目標は生存、とでも言うのだろうか。敵国に片手で足りぬ程度の従者だけ付け、輿入れをするだけの気概を持ち合わせているだけは、ある。

    「…なぁに、我が国は寝首を掻くなどという無作法を忘れて随分と経ちますので、安心して!この邸宅で過ごしていただければと思います!貴方も本日から我が国に名を連ねる大事なお方!…蔑ろには致しません。それだけは、ご理解いただければと」

     言って、部屋を後にした。後ろは振り向かない。自分の言葉を聞いて女がどんな顔をしていたかも、わからない。
     廊下を歩いていた適当な従者を捕まえて、麗しき姫に最高級の晩餐を用意する様にと指示をする。これに毒でも盛れれば自分の悩みも一つ減るのだろうが、あれはきっと、それに毒が入っているとわかっても、あのやわらかな表情のまま口をつけるのだろう。それが自分の運命だとでも言う様に。
     …侮られたものだ。何もかも。
     茨は足早に王宮へ踵を返した。まずはあるべき、元の姿に全てを戻さなくてはならない。自分の思い描いていた、未来の形へ。
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    かもがわ たかお

    MOURNING小国の姫であるあんずが、えでんの人たちが治る大国に嫁いできた!みたいなやつです 茨あんです
    ふわっとファンタジーなのでオ?と思っても見逃してくれると助かります 続きはありません
     緑と資源豊かな小国の姫が、隣接する雪で閉ざされた帝国へ嫁いで来たのは、ある春の頃であった。春、と言っても、寒冷地に根を下ろした帝国で、花の咲く季節は極めて短い。姫が帝国に輿入れしてきた時も暦の上では春を謳いながらも、土地には未だ雪景色が広がり、寒々しい灰色の雲が青空を覆い尽くしているような、そんな時節であった。
     姫と呼ばれた娘は、未だ少女と言えるような柔らかい肢体に花嫁衣装を纏わせて、厳かな謁見の間に於いて膝跨いて顔を上げない。まるでその純白は死装束の様だと、王の隣に控え立つ宰相-茨は思った。雪で閉ざされる期間が長いこの国で、資源確保の問題は現在過去未来に至るまで永劫の問題である。その中で隣接する豊かな小国とのいざこざは絶えず起こっていたが、現帝は争いを好まず侵略も是としないため、当代は双方珍しく穏やかな時代を過ごしていた。その中でその平穏を確固たるものにしようと送られてきたのが、姫-あんずと呼ばれる少女であった。
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    かもがわ たかお

    DONEあんずさんの墓参りをする茨の話
    ネコ視点
    味付けも設定も濃い。大丈夫な方だけどうぞ。
    ツキイチオウセ わがはいはネコである、ナマエはまだない。なんてコトバがニンゲンたちの世界にはあるらしいが、そのコトバよろしくワタシにもナマエなどという大層なものはない。カラダが明るいチャイロだから、チャイロとか、キャラメルとか、タマとか、ソコノネコとか、いろんな呼ばれ方をしているが、ここに来るヒトは一様に別々の音でワタシを呼ぶので、コレは多分、ナマエなどという大層なものではないと思っている。
     ここに住むジュウショク、と呼ばれるボウズなどはコノギャング!などと意味不明な音で自分を呼ぶけれど、その意味はネコとよばれる自分には全く理解できない。ただ、声が荒ぶっているので、怒られているということはわかる。多分あまりいい意味じゃないんだろう。でも、オソナエモノといわれるタベモノを食べたくらいで、なぜそんなに怒るのだろうか。どうせ雨ざらし、風の中でも出しっぱなしなそれがキレイなうちに食べてやろうとモグモグしているのに、ニンゲンはそれが気に食わないらしい。ニンゲンは贅沢なイキモノだ。来世はニンゲンになりたいものである。
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    かもがわ たかお

    MOURNING別に付き合ってもいないのにワンナイトしてしまって子供ができてしまいこのままじゃぃばの足枷になる障害になると姿を消したんずさん。一人で子供を産んで育てていた所、茨サンがそれを探し出して、子供と接触する話。
    子供の名前出てきたりなどするし、あんスキャラと音が被ったりなどしている。
    ネタが人を選ぶアレなので心の広い方のみどうぞ。子供視点なので平仮名がめちゃくちゃ多いです。
    こどもとおとな おれのおかあさんは忙しい。仕事はいろんなイベントのきかく、うんえいっていうのをしてるんだって。町の大きなホールでやったスゴイひとのコンサートとか、年に一回、夏にある大きなおまつりをつくったりだとか、冬はとなりの町といっしょになって、ぜんぶぜんぶをクリスマスでいっぱいにしたりして、とにかくうちのおかあさんは忙しい。そんでもって、スゴイ。
     うちにはお父さんってやつがいないから、おれが小さいときから、おかあさんは大変だった。保育園でも、おれは帰るのが一番遅かったし、小学校にはいってからはがくどうに通っている。それでも、おかあさんが帰るのがおそくなる時は、となりのおばちゃんのうちで晩御飯を食べたり、時々くるおかあさんのおとうと?おじさん?が家にとまってくれたりして、そうやっておれを一人にしなかった。
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