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    Enuuu

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    【呟】借金の型に嫁いできたげんぶちゃんには嫁の自覚がないから、アニさんがよその女に言い寄られてても「女遊びの1つや2つ、目くじらを立てる話じゃないだろう」って言えるし、(以下略)

    大正パラレル雨玄♀*あらすじ*
     仕事で女性と一緒に歩いているところを玄武に見られた葛之葉は誤解を解く暇もなく九州へ数日間の出張へ出かける。出張の間に玄武が実家(育った施設)へ帰ってしまうかもしれないと、いらぬ心配をした葛之葉は同僚である山下に玄武に心配をかけぬ様、さりげなく誤解を解いてくれと頼み込む。


    「心配? ああ、確かに施設への援助が打ち切られるのは困るな。だが、葛之葉さんは約束は破らねぇから」

     玄武は僅かに口元を緩めると、目蓋を伏せた。睫毛の一本一本が白い肌に影を作る。分厚いガラス越しにも確かに見えた。
     たしかに美人だ。葛之葉が自慢したがるのも分かる。

    「よく私のことを揶揄っているが、嘘はつかねぇんだ。だから考えなかったな」
    「あー、そう」
    「それで、山下さんが葛之葉さんから頼まれた言伝ってのは一体なんだい?」

     山下は言葉に詰まった。
     葛之葉からは、玄武が気を病んでいるかもしれないから、女性と歩いていたのは職務であり疚しいことは何もないと、さりげなく伝えてほしいと言われている。だが玄武の言葉を聞くに、葛之葉が想像しているほど気に留めていない様子だ。
     いつまでも口を開かない山下に、玄武は小首をかしげた。

    「……くずのはが心配してましたよ」
    「アニさんが? やっぱり嫁いで日が経たねぇうちに私みたいなのに任せるのは不安か」

     途端に顔を曇らせ、眉間に皺を寄せる。玄武は溜息を吐くのを躊躇うように口元を結び直した。
     そんな表情の変化を眺めながら、山下はいやね。と声を出した。

    「げんぶさんは確りしているから、何かと抱え込んでしまうだろうって。それに自分のことを卑下してばかりだから、もっと自分はよくできていると思っていいし、たまには息抜きも必要だって」
    「アニさんがそんなことを?」
    「嫁ぎたてですし、そうじゃなくても頼って欲しいんですよ。アイツは玄武さんのことが大好きですからね」

     玄武は、だいすきと言葉を繰り返す。呆気にとられた様子で、何度か瞬きをした。

    「ま、ぶっちゃけてしまうと格好つけたいんですよ。惚れた女の前ですからね」

     こんな言葉は、今後は頼まれたって言わないだろう。
     山下は気恥ずかしさを隠すように笑い、払っておきますから。と席を立つ。玄武も慌てて立ち上がり、かばんの中から葛之葉に渡された財布を取り出す。山下はそれを片手で制し、

    「誘ったのは俺ですし、ここは奢られてくださいよ。それにげんぶさんに払わせたなんて知れたら、くずのはに叱られちゃう」

     と言った。

    「これは私がアニさんから頂いたお金だ。それに自分ばかりが食べておいてお金を出させるのは山下さんに悪い」

     玄武は財布を握る。

    「せめて自分が食べた分は払わせてくれ」

     しっかりしているなあ。
     むしろ、昨今の女性としては珍しすぎるほどだ。

    「くずのはから貰ったお金なら、それで新しい髪飾りのひとつでも買った方がアイツは喜びますよ」

     山下の言葉に玄武は居心地が悪そうな顔をする。
     玄武も自覚していることだが、彼女にとって頂いたお金をそういう風に使うのは難しいことだった。葛之葉も、玄武が化粧品や指輪を買った方が良いと思うのだろうか。
     アニさんが喜ぶ方がいい。
     玄武が考えている間に山下は二人分のお茶代を支払ってしまう。高い店ではない。山下も葛之葉と同じく、それなりの給金を貰っている。この程度の支払いで生活に困ることはない。山下は妙な居候を一人抱えているが、暮らしに不自由はしていない。それに、こういったことにも慣れさせておいた方が良いだろうと山下は兄の様な心持ちで考えた。

    「ありがとうございます、山下さん」

     店を出ると、玄武は山下へ頭を下げた。

    「うん。俺もくずのはからの伝言を伝えられたから助かったよ」
    「気を付けるって、アニさんに伝えておいてくれ」

     山下は苦笑した。

    「りょーかい。げんぶさん、帰りは気をつけてね。あ、家まで送って行こうか? アイツの家なら知ってるし」
    「いや、まだ日も高いし大丈夫だ」

     玄武は首を横に振る。

    「そう? なら、気をつけてね」
    「ああ。山下さん、今日はありがとうございました」

     玄武は再度、深々と頭を下げた。よく手入れをされた黒髪が一房、首から肩へと流れる。彼女は慣れた手つきで髪をまとめ直し、リボンをきゅっと結んだ。幅の広いリボンは淡い空色だ。薄氷のような模様が入った半透明の布地が合わせてあり、気をつけて見れば手の込んだ品だと分かる。
     素朴な柄の着物に対し、凝ったリボンが浮いて見える。
     去っていく玄武を見送りつつ、山下はああ。と声を上げた。
     葛之葉の髪の色だ。

    「……ヤなことに気づいちゃったな」
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