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    注意
     ※ 同級生の葛之葉雨彦と黒野玄武。
     ※ 黒野が女体化。

    無題 葛之葉は黒野に思いを寄せるようになってから、彼女が図書委員の仕事をする曜日には仕事が終わるまで図書室に入り浸るようになっていた。図書室の隅にある閲覧席で小説を読むふりをして、彼女が帰る時間になるのを待つ。司書に黒野が挨拶するのが聞こえてきたら、まるで読み終えたばかりだという風に彼女の前へ出て「もし良ければ一緒に帰らないか」と誘っている。いつも決まりきったことをしているので司書には葛之葉の気持ちが筒抜けだ。しかし黒野は鈍いのか、そういったことに興味がないのか一向に気づく様子がない。葛之葉としては面白くない部分もあるが、ありがたかった。だが、そろそろ新しいアプローチの方法を考えなければいけないだろう。このままでは週に一度、一緒に帰宅しているだけの人間だ。
     そう思い、葛之葉は図書館へ行くのを我慢して、かと言って今日に限って早くに帰宅すれのも気まずいので、だらだらと教室に居残り続けていた。
    「今日は行かねぇの、葛之葉」
     クラスメイトの言葉に葛之葉は怪訝そうな顔をする。
    「ここんとこ毎週、図書室に行ってたろ」
    「まあ、な」
    「もしかして失恋とか?」
     茶化すような声音で発せられた言葉に、他のクラスメイトが「あそこおばちゃん先生しかいねぇじゃん」と笑う。
    「葛之葉が恋とか想像できねー。あ、前に噂になってた綺麗な女の人はなんだったんだよ。フラれたん?」
    「母さんだ」
     葛之葉は話題がすっかり自分へ移ってしまったことに気づき、面倒くさそうに頭をかいた。
    「あ、もしかして図書委員? でも葛之葉が好きになりそうな奴いたかな」
    「葛之葉の好みってどんなん?」
     葛之葉はそれらの言葉に応えず、机の横にかけていた鞄を手に取った。
    「あ、帰んの?」
    「じゃあなー」
    「おう」
     若干つまらない顔をしたクラスメイトに別れを告げ、葛之葉は足早に教室の外へ出た。窓越しに教室の時計を見れば、普段よりも早い時間には変わりないが不自然に思われることはない時間だった。
     階段を降り、下駄箱へ向かう。
    「あ」
     背後から声が聞こえたので、自分に向けられたものかと振り返る。わずかに驚いた表情をした黒野が立っていたので、今度は葛之葉が驚く番だった。好きな子の手前、醜態を見せるわけにはいかず咄嗟に声を抑えた。
    「く、くずのは。今日、学校に来てたんだな」
    「え? ああ、朝からいたぞ」
     葛之葉の言葉に、黒野がわずかにショックを受けたような表情を浮かべる。葛之葉は何かまずいことを言っただろうかと大急ぎで考えながら、
    「黒野こそ、今日は委員会じゃないのか? 早いな」
     と言った。
    「そ、そうなんだ。司書さんが今日は閉めちゃうから帰りなさいって、言ってくれたから」
    「どこか悪いのか?」
     葛之葉は下駄箱からスニーカーを出してしまい、黒野のそばへ近づいた。心なしか普段よりも顔が赤いような気がする。葛之葉は初めて見る黒野の表情に可愛らしいと口元を緩めそうになって、彼女は辛い思いをしているかもしれないんだぞと真面目な表情を作り直した。
    「季節外れの風邪は拗らせると良くないって聞くぞ。早めに帰ったほうがいいんじゃないか」
    「うん。ありがとう」
    「……心配だし、駅まで送らせてくれないか」
    「葛之葉はそればっかりだな」
     黒野はふわりと微笑んだ。


     黒野が図書館の奥を窺うような動作をする度に微笑ましく見ていた司書は、時計と肩を落としている黒野を見比べてから
    「今日は誰も来ないだろうし、早めに閉めちゃいましょうか」
     と言った。
    「黒野さんも仕事にならないようだし、ね?」
    「注意散漫だったな、すまねえ」
    「可愛らしいと思うけどね。待っているんでしょ? 葛之葉さんのこと」
     黒野は図星を刺され、顔を赤くした。
    「司書さん、もう勘弁してくれねぇか……」
    「あらら、ごめんなさいね。じゃあ今日はもう閉めちゃうから、黒野さんは向こうの戸締りをお願い」
     黒野は赤くなった顔をどうにか冷ましながら、司書に言われた通り窓を施錠していく。カウンターで片付けをしている司書に挨拶をして、黒野は図書室を出た。
     黒野が奈良にある高校へ引っ越してきたのは数ヶ月前のことだった。転校したての頃は目立つ身長もあって遠巻きにされていたが、最近は浮かない程度には馴染めていると思う。黒野が葛之葉に会ったのは図書委員を任せてもらってから、すぐのことだった。彼は放課後になると、いつの間にか奥まった閲覧席に座って文庫本を読んでいる。そうして図書室が閉まる頃になると、決まって黒野に「一緒に帰ろう」と声をかけてくるのだ。最初のうちは怪訝に思っていた黒野だったが、今では葛之葉と一緒に帰れると週に一度の委員会の日が楽しみになっていた。
     葛之葉と一緒に帰るようになってから、黒野が委員会の日に彼が図書室へ来ない日はなかった。
     もしかして風邪だろうか。
     黒野がそんなことを考えながら下駄箱へ向かっていると、色素の薄い髪色をしたひょろりと長い背が見えた。思わず声を上げると、彼はこちらを振り向いた。
    「く、くずのは。今日、学校に来てたんだな」
     黒野は驚いて、どうにか平静を装って葛之葉へ話しかける。
    「え? ああ、朝からいたぞ。黒野こそ、今日は委員会じゃないのか? 早いな」
     葛之葉にそう言われ、黒野は少なからずショックを受ける。葛之葉が図書室へ来るのが当然と思っていたのが恥ずかしい。葛之葉だって、たまには図書室へ来ない日があって当然だろう。自分ばかりが気にしていたようだ。
    「そ、そうなんだ」
     黒野は葛之葉の顔をまともに見られなくなって、視線を逸らしながら言った。
    「司書さんが今日は閉めちゃうから帰りなさいって、言ってくれたから」
     ふと顔を開けると、葛之葉の顔が近くにあって驚いた。葛之葉は黒野の顔を覗き込んで、不安そうに眉をハの字に曲げる。
    「どこか悪いのか? 季節外れの風邪は拗らせると良くないって聞くぞ。早めに帰ったほうがいいんじゃないか」
     見当違いの言葉だったが、葛之葉の心遣いが嬉しくて黒野は思わず口元を緩める。
    「うん。ありがとう」
     そんな黒野を見て、葛之葉はふと口を開く。
    「……心配だし、駅まで送らせてくれないか」
    「葛之葉はそればっかりだな」
     黒野は心の奥でずっと待っていた言葉が聞けたことが嬉しくて、にこにこと微笑んだ。
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