弓弦の誕生日と茨「本日はおめでとうございます☆」
敬礼〜☆などと、キラキラお星さまを撒き散らしながら社交辞令を隠そうともしない茨からプレゼントを受け取ったのでございます。
腐れ縁がとうに切れずここまで続いてしまった昔馴染みの愛弟子は相も変わらず悪ガキのようで、なにか企んでいるようですね。
とはいえ、わたくしのために用意して頂いた祝いの場で怪訝な顔をするわけにはいきません。
「わざわざお越しいただき恐縮です」
こちらも笑みを深めてさも他人行儀な振る舞いをすれば茨はピクリと動いた眉と一緒に口角を吊り上げた。
「あっれ〜〜?弓弦ったらずいぶんと他人行儀な物言いですねえ?昔したふたりぼっちのお誕生日会なんてもう忘れてしまいました?」
「いえいえ。忘れるなんてとんでもありません。茨から頂いた蛇の抜け殻や水切り用の小石はちゃんと保管しております」
「うそばっか。蛇の抜け殻は自分の誕生日に栞に加工して送り返されたし、小石は目の前で素晴らしい回数を叩き出したの覚えてますからね」
「頂いたものは活用してこそでございましょう。茨だって、わたくしが贈った木版画のセットで花札を複製なんかしてずいぶん荒稼ぎしてましたよね?あれこそ、とても心外でしたが」
「それとこれ話繋がってなくないですか?」
「思えばあの頃のプレゼントはお互い手元に残っていないのですね」
「いや、木版は上官殿にセットごと没収されたからノーカンですよ。手元に残しようがなかったんだから」
「でも、いまはこうしてプレゼントを贈りあうことができるのは僥倖でありますね」
「いい話っぽくまとめるつもりですか」
「ええ。わたくしの誕生日ですから。どんなプレゼントだったとしてもこの場は綺麗に終わらせますよ」
「……別に変なモン入れてないんで安心してください。今度は送り返されないように加工済みのを入れましたから」
「そうですか」
「ええ!それじゃあ自分は忙しいので!この辺で失礼いたします!」
そういって胡散臭い笑顔を絶やさないまま、踵を返す茨の首根っこを掴んだ。
「うぐっ!?なにしやがるんですか!?」
「いえ、感謝を伝えそびれたので。ありがとうございます」
「……っ!どういたしましてっ!!」
今度こそ去っていく茨の背中を見ながら、ふと小物入れにしまい込んでいた蛇の抜け殻の栞を思い出した。今度お屋敷に帰ったら見てみましょうか。
さて、こちらを窺ってた周りのみなさんがなにやらお待ちかねのご様子。サプライズかなにかでしょうか?
いつも通り、執事らしく。いえ、今回は主役として振る舞いましょう。
懐かしい思い出はほんの少しで十分です。
ちなみに茨からのプレゼントは蛇革の手帳と平たい石でした。