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    Adam秀越学園時代

    #凪茨
    Nagibara

    戦争映画大画面のモニターから土煙が舞う。時代を感じさせる白黒の世界、その画面の向こう側から息も絶え絶えに這い蹲る兵士が塹壕から銃を構えた。鋭い銃声が一面に鳴り響く。
    敵を殲滅した兵士が生気のない目を携えたままゆっくりと立ち上がる。まわりを見渡し何かに気づく。遠くから乾いた銃声がひとつ。
    それまでずっと彼を映していたカメラが、仰向けに倒れた彼の目線の先を辿るように大空を映した。皮肉なほど美しい。

    ピッとエンドロールが流れる前にリモコンで消された映画は第一次世界大戦の異国の地に生まれたひとりの青年の人生を描いたものだった。リモコンを持ち上げた茨はそのつまらなそうな顔を一転させ、いつも通り貼り付いた笑顔を見せた。

    「閣っ~下?んもう、レッスンの時間ですよ!ここ最近のブームは戦争映画なのでしょうが時間は平等に有限であります!ご趣味は程々にと口酸っぱくして言ってますよね!?」
    「茨は戦場に出たことある?」

    ほんの一瞬、口角をひくりと上げた茨は私の発言から意図を読み取ろうと、じっと探るように私を見つめた。でも深い意味はないのだろうと断じたのかすぐに舌に言葉をのせる。

    「それは自分の生い立ちにご興味があっての発言でしょうか?ならばYESとお答えましょう!それでこのお話は終わりです」
    「いや、もう少しだけ付き合って」

    多分、私相手でなかったら舌打ちのひとつはしてただろう。そういうことがわかるぐらいには同じ時間を過ごして来た。名前も覚えられないような輝きのない有象無象でなく、私が認めた、この子が。

    「茨がどんな生い立ちをして、なにを思って、どんな思いで私に構ってくれてるのか。知りたくなるのは不自然なことじゃないと思うのだけれど」
    「何度もご説明しましたが……?軍事施設出身で、収益を上げるために自らアイドルになり、更なる栄光と発展のために純真で至高たるアイドルである乱凪砂閣下を運用させて頂いております!納得して頂けましたか?」
    「それは知ってる。私が知りたいのは、私が知らないことだよ」
    「知らなくとも我々の活動になんら影響はありませんよ」

    言いながら茨は私をソファから立たせ、脱いだまま放置されていたジャージの上着を甲斐甲斐しく着せた。ジャージの背に入り込んだ髪を外に広げたついでに、どこからかサッと取り出した櫛で整えられる。

    「それにいつだってこの世は戦場です。世の中はずっと社会で競争という名の戦争を続けています。気を抜いた奴や運の悪い奴から死んで行きます。過去を振り返るのも必要ですが、目の前の戦場を駆け抜けるためのレッスンがいま自分たちには大事なのです。さあ!行きましょう!」
    「ずいぶん性急にことを進めるね。機嫌悪いの?」
    「とんでもないっ!!もうすでにトレーナーの方が待機されてるな~……なんて、大した問題ではありませんもんね!閣下には!」

    茨に腰のあたりをぐいぐい押されて、『Adam』専用応接室からレッスン室へ向かう廊下に足を進める。これはタイミングが悪かった、かな。

    本当は茨が本物の戦場にいたことが、茨にどんな影響を与えたのか少しだけ気になったのだけど。
    きっとこの会話は他のことでいっぱいいっぱいな茨の頭からは抜けてしまうのだろう。
    私にとっても多分、普通に忘れてしまうような何気ない日常のひとこま。

    戦場で散っていった兵士の虚ろな眼差しが頭を過ぎって、消えていった。あくまで映画の話。
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