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    しいな

    @_onigokko_

    ✍️真ワカ
    名鑑で無理でした。

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    しいな

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    2023/05/04 SUPER TOKYO罹破維武2023 お疲れ様でした!
    会場でお渡しした無配小説です☺

    ・黒龍解散後くらい
    ・真(→)←ワカのお話

    恋に気がつく三秒前 大変不名誉な告白二十連敗という大記録を樹立してしまい、いよいよオレは腹を括った。
     ありのままの自分を好きになってもらう、では限界がある。
     だから、恥も外聞もなくオレはいちばんのモテ男に縋りついた。それはもう、少しの恥じらいもなく。
    「お願いします! 次の合コンに向けて、オレのコーディネートをしてくださいッ!」
    「……いいけど」
    「本当か⁉ ありがとう!」
     男のオレでさえドキっとするくらい整った顔。心地いい声に、優しい目つき。それで目を細めて笑えばもう、ひとたまりもない。加えて女に優しくて、喧嘩が強い。
     そりゃあ、モテ男の名を欲しいがままにしているわけだ。大変悔しいが、目の前のこの人――ワカが女に苦労しているのを見たことがない。
     いや、しいて言うならモテすぎて苦労しているらしい。なんだそれ。ちっとはモテ運を分けてほしい。
    「コーディネートって、何すんの?」
    「頭のてっぺんからつま先まで良い男にしてくれ」
     目の前で手を合わせて深々と頭を下げる。
     もう、なりふり構っていられない。
     絶対につぎの合コンでオレは念願の彼女を作る! そして、二十歳になる前に童貞を捨てるのだ!
     
    「まずは……髪型な」
    「髪型……」
     仲間からも家族からも、どうしてか不評だったリーゼントは卒業している。
     とはいえ、セットをするのも大変だからとただ切っただけの状態で放置――なのだが。
    「ウン。リーゼントをやめたのは正解だから、ちょっと整えよ。せっかくだし、サイドをちょっと刈り込んでもらいな」
    「刈り込む」
     ワカに背中を押されてやってきたのは、原宿の美容院。普段近所の床屋で済ませる身としては、こんな場所に踏み入ってもいいものかと思わず躊躇する。
     キラキラした店内に入ると、ひときわ店員がさわやかな笑顔を浮かべて近づいてきた。
    「おお、若狭さんいらっしゃい」
    「ども。今日はオレじゃなくて、コイツ。とびきりいい男に仕立ててくんね?」
    「ふむ……分かりました! 任せてください!」
     どうやらここはワカが通っている美容院のようだ。
     あれよあれよと席に連れてこられ、ワカは店員と二、三会話を交わして頷いた。
    「んじゃ、オレ時間潰してくるから」
    「えっ⁈ ここに居てくんねェの⁈」
    「ガキじゃねぇんだから。じゃーね。期待してるから」
     軽やかに手を振って出て行ったワカに、突然心細くなる。鏡越しに満面の笑みを浮かべる店員と目があって、こちらも笑うしかなかった。
    「じゃあ、お任せってことで良いですかね。一応、NGありますか?」
    「いや……まあ、パンチパーマとかじゃなければ……?」
    「ハハ うちではそんなのやりませんよ」
     言われるがままにシャンプーをされ、ぱっぱと髪の毛が切られ、バリカンでがっつりサイドを刈り上げられる。
     スースーする耳元にそわそわしていると、あっという間にカットが終わった。
    「ウン、似合いますね! 若狭さんもですけど、お兄さんもめちゃくちゃイケメンじゃないですか」
     ワックスのついた手でぱっぱと整えられ、前髪は少し立ち上げられた。何をされたのかはさっぱりだ。ただ、十数年ぶりのサイド刈り上げは思っているより、似合っていた。
    「お、おお」
    「真ちゃん、終わった? ン、いいね」
    「ワカ!」
     数十分ぶりのワカが満足気に頷いて、こちらも一気にテンションがあがる。あの稀代のモテ男にお墨付きをもらった。
     これで、オレもモテ男に一歩近づいた!
    「よっしゃ、次は?」
    「服見に行こ。真ちゃん、服に遊びっけがねェんだよなぁ」
    「……そう?」
    「白いTシャツ、シャツ、ジーパン、ダサくはないけど、シャレてもない」
    「ウッ」
     いわゆる、フツウの格好が一番楽だ。仕事ではどのみち汚れるから、楽な服が増えていった。正直、これといったこだわりは無い。
    「せっかく真ちゃん、無駄に足長いんだからスキニーパンツが似合いそう。上はちょっとゆるっとしたパーカーかな」
    「もう何も分かんねえから好きにしてくれ……」
    「最初からそのつもり」
     連れて行かれた服屋は、普段なら素通りするような店だ。何着も身体に当てられて、最終的に渡されたグレーのパーカーと、黒のデニムを持って試着室に転がり込む。
    「……どう?」
    「似合ってる。インナーは黒のタイトがいいね。はい、これ中に着てきて」
    「おう」
     再び試着室に押し込まれて、パーカーの下に黒いロングTシャツを着た。ぶっちゃけオレには白でも黒でも同じように思えるが、ここでこだわるのがおしゃれというものだろう。
     言われるままに髪を切り、服を替え、試着室を出るとワカが真剣な表情でこちらを見つめる。頭のテッペンからつまさきまでじっと何度も往復して、最後に深く頷いた。
    「完璧」
    「どう? オレもこれならモテる?」
    「んー」
    「ちょっと若狭さん⁈」
     心底面白そうに笑うワカに揶揄われたのだと気付いて、がっくしと肩を落とした。どうせ、ワカにはモテない男の嘆きなんて分からないのだ。
     こっちがどれほど切実にモテたいのかなんて、ちっとも気付いちゃいない。
    「で、これでいいのか? あとは?」
    「アクセサリーと、香水。それで仕上げ」
     シルバーアクセサリーのショップには初めて踏み入れた。
     何十本と並んでいるチェーンは大体同じに見えるし、指輪とは無縁の人生だった。拳を振るうのに、指輪は邪魔だ。
    「真ちゃんが今なにを考えているか分かるけど、ソレ、絶対口にすんなよ。モテないのはそういうとこだからな」
    「……ッス」
     結局指輪はやめて、ネックレスにした。あんまり派手なのは恥ずかしくて、結局シンプルなチェーンにした。
     パーカーのフードに隠すように付けると、隣からジトりとした視線が飛んできた。仕方ねえだろ、慣れて無いんだって。
    「次!」
    「はいはい」
     ワカの背中を押して店を出た。渋谷はいつも通り人が多かった。ただ、今日は服装もすべて違うからか、ちょっとだけ誇らしいような気がする。
    「香水って、どんなの? オレさっぱり分かんねえんだけど」
    「任せろって。ほら、こっち」
     連れて行かれたショップには、ところ狭しと香水瓶が並んでいたが、どれを手にして良いか分からなかった。
    「これと、これ。どっちが好き?」
    「え、うーん。こっち」
    「……これ?」
    「うん。なんか、ちょっとワカっぽい匂いするし」
     ぴしりとワカが固まって、大きなため息をつかれた。どうしてそんな反応をされるのかさっぱり分からず、差し出されたボトルを一つ受け取った。
    「これ、買ってくるワ!」
    「……いい。これはオレがプレゼントする」
     ボトルを奪いとられ、スタスタとレジに向かうワカの背中をじっと見る。何かおかしいことを言ったのかと頭をぽりぽりと掻く。短く刈り上げられたうなじが、くすぐったかった。
    「はい。分かってると思うけど、浴びるように付けるなよ。オレのオススメは首の後ろと、ココ」
     細い指先で胸元を叩かれて、思わずどきりとした。見上げられている視線の色っぽさは、やっぱりモテる男の余裕なのだろうか。
    「……ハイ、先生」
    「ん。よろしい」
     一歩前をしゃんと歩いて行くワカに追いついて、今日一日のことを振り返る。
     髪型を変えて、服装を変えて、無縁だと思っていたアクセサリーに、香水。手元に増えていくショッピングバッグの数を見て、頬を掻きながらワカに声をかけた。
    「オレ、これでモテるかな」
    「さあね」
    「えっ⁈ ちょと、話がちげーじゃん!」
     ニヤニヤとしながらこっちを見るワカの手首を掴むと、するりと振りほどかれてしまった。
     人混みを縫うように少し走ったワカが、突然立ち止まってこちらを振り向いた。
    「だって、ソレ、頭のてっぺんからつまさきまでただのオレ好み。女受けが良いかどうかより、オレ受け抜群なだけ」
    「は? ……っは⁈」
    「真ちゃんの鈍感野郎、そっから先は自分で考えろ」
     言葉の意味が分からずに立ち止まっていると、あっという間にワカを見失った。その日から何をするにしても頭の隅にワカが居て、あの日貰った香水がワカの愛用品だと気がついた時には、ダメだった。
    「えっ……もしかして、そういうこと⁈ っていうか、オレって、アレ……?」
     寝ても覚めても、ワカのこと。メシを食ってても、バイクを弄っていても、流していても、ワカのこと。
     これってもしかして――……。そういうことか?
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    しいな

    PROGRESS8/20インテ新刊「ドラマティックな恋じゃない」

    ⚠ 真一郎が非童貞
    ※直接描写なし

    あらすじ
    真一郎は十二年こじらせたワカへの片思いに決着をつけようとするも、幼馴染みの武臣に「無理だから諦めろ」と一蹴されてしまう。それでも今のままではいけないと悪あがきをしながら、ある日酒の勢いでワカを抱いてしまい――……。

    真一郎→→→→→(?)ワカの話。
    推敲・校正前なのでサンプル未満の尻叩き進捗。
    ドラマティックな恋じゃない 恋とは、きらきらと輝いて、そっと触れなければ壊れてしまうほど、うつくしくて尊い思い。――なんて、そんな言葉とは到底無縁だった。
     自分自身でも抑えきれなくて、おぞましい色で蠢いて、直視することが嫌になる。そのくせ手放そうと思えば思うほど、強くて太い根が張って心から離れない。ほんとうに、簡単に捨て去ることができればどれほど楽になるのだろうか。
     もう、十二年。
     まだ十代の青臭さが残る少年が見つけた宝物は、今となっては手に負えない呪物になっていた。
    「あー……」
     ぼんやりと眺めた夜空は相変わらずで、東京のあちこちにそびえ立つビルで切り取られている。
     決して綺麗なものではないのに、見慣れているからこそ落ち着けるのか、気がつくといつからか夜空を見上げるクセがついたらしい。仕事終わりに店の裏で煙草を吸いながら、ゆっくりこの十二年間抱えた片思いに別れを告げた。
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