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    しいな

    @_onigokko_

    ✍️真ワカ
    名鑑で無理でした。

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    しいな

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    2023/08/20 SUPER TOKYO罹破維武2023夏 お疲れ様でした!
    会場でお渡しした無配です☺

    ・最後の世界線
    ・なんとなく7月は調子を崩す真一郎と、それに気付いていてずっと支えてきた若狭

    さよらな、バッドエンド いつからか、七月のおわりが近づくにつれて体調を崩すようになった。最初のころは、油断して夏バテをしてしまったと思っていたが、どうもそういう単純なモンではないらしい。
     それに気がついたのは、わりと最近。いやな夢をみて、うまく眠れない日が続く。
     ひとりで耐える夜はいつの間にか沈み、ごうごうと押し寄せてくる濁流に呑まれる。深く息を吸い込みながら目を覚ますと、夢の欠片は記憶からぽろぽろと落ちていく。
     だから内容は覚えていないのに、澱みが心を濁すのだ。
    「……いつもの?」
    「おー……」
     飛び起きてから、肩で息をする。夏用のブランケットを握り締めていると、腰に腕が絡みついてきた。視線を落とせば、見慣れた金糸が目に入った。
    「……わかぁ」
    「んー、はい、はい」
     まだ心臓がどくどくと暴れているが、もう一度ベッドに横たわって恋人を抱きしめた。
     華奢な肩に鼻筋を埋めれば、馴染んだワカの匂いにあれすさぶ心が凪いでいく。
     そうすれば、まるでタイミングをはかったかのように、ワカがゆっくりと語り出すのだ。
    「今日ね、ジムに入りたいって若いにーちゃんが来たんだけどさぁ」
    「うん」
    「それがさぁ、ソイツの兄貴が黒龍の六代目にいたらしくって。ずっとオレらのことを兄貴から聞かされて憧れてんだってよ」
     その日のジムのこと、ベンケイの面白い話、武臣の愚痴。話題はその日によって違うけど、まるで歌うように語り続ける。その内容に耳を傾けながら、ときおり相槌をはさみながら、もういちど眠気がやってくるのをひたすら待った。
     オレはもう、ひとりではうまく眠れない。

     悪夢に魘されながら、下手くそな眠りから覚めると、いつもワカがいた。
     七月末が近づくにつれて浅くなる睡眠は、体力を削っていくけど、寝起きは幸せな光景に包まれるのだ。
     そこから暫くじっと眺めて、頬に落ちる影の形を観察した。
     どれくらいそうしていたかは分からないけど、アラームが鳴るまでは好きにさせてほしい。そうしていたら、ゆっくりと淡い紫が姿を現す。
    「……ん、しん、ちゃん」
    「起こした?」
    「んー? いまなんじ」
     まだ覚醒しきっていない意識で言葉を続ける姿は、年齢のわりには可愛らしくって、愛しさが募る。
     たぶんこんなにも気が抜けた姿は、オレにしか見せていないはずだ。だってオレも、ワカの前でしか気を緩めないし、ワカもそれに気付いている。
    「六時。まだ寝てて」
    「しんちゃん、も」
     ぐっと寝間着を握り締めた腕には、それなりに力が篭もっている。それに抗うことはせず、大人しくベッドに逆戻りした。布団のなかはワカの体温で満ちている。
     どうせ眠れないと思っていたけど、ぎゅっと目を瞑っているといつの間にか睡魔がやってきた。
     七月三十日。毎年のように、この日に悪夢は去って行く。
     ああ、そうか。もう、この朝は七月三十一日だ。





    「真ちゃん、起きて」
    「んー、んん……ッ、ワカ! 今何時っ⁈」
    「九時五分」
    「は、焦った……」
     順調な二度寝は、寝坊寸前まで続いた。こんなにスッキリとした目覚めは一ヶ月ぶりで、そこでようやく日付を思い出す。今年も無事に悪夢の日々を、抜けたらしい。
     寝坊じゃないと分かっていても、ゆっくりしている時間はそんなに無い。
    「おはよ、よく寝られた?」
    「うん……いつもどーりだったワ」
    「そっか、じゃあ良かった」
     ベッド際に座り込んでいたワカが、安心した様子でゆっくりと立ち上がる。すでに寝間着から着替えていたから、きっとオレよりずいぶん早くに起きてきたのだろう。
     そのままキッチンの方に向かい、コンロの前に立つ背中を見送った。オレが使うと少し低くて、ワカにはぴったりの調理台。その景色を何度も見てきたはずなのに。
     いつからか始まったこの悪い癖を見抜かれたあと、この期間はほとんどうちに泊まり込む。
     そして七月三十一日は自分の家に戻って、八月一日にまた泊まる。それを、何年も繰り返してきていた。
     それが当たり前だと思っていた。
     思っていたのに――……。
     ほこりが日の光を浴びてキラキラとうつくしく輝くように。普段は目にもとまらない当たり前が、素敵なものに見えたとき、人はどうやら形のない衝動に背中を蹴り飛ばされるらしい。
    「ワカっ!」
    「ん?」
     大きな声で名前を呼べば、穏やかな表情がこちらを向く。手にはおにぎりが納まっていて、オレのために作っているんだとすぐに気がついた。
     それにお礼をいうよりも早く、オレの口からついて出た言葉は、とくべつな響きを帯びていた。
    「結婚しよう」
    「えっ……?」
     突然のそれに、ワカは目を大きく見開いた。
     びくりしてる? オレも、びっくりしているよ。このまま、昨日みたいな明日が続けば良いと思ってきた。そもそも、形に囚われるような二人じゃなしい、それはただの口約束となにも変わらない。
     だから、いいじゃん。いつもみたいに、好きだと思ったときに好きと言って。
     幸せを分かち合いたいときに身体を抱き寄せて。
     寂しいときに唇を塞いで。
     そういう当たり前を繰り返したら良い、と思い続けていたオレは、いつのまにかすごく欲張りになっていたみたい。
     両手では数え切れないほどの思い出と、誰にも知られていない初めてを見つけて、最期まで独り占めにしたい。
     幸せも、恋も、愛も全部、ワカと二人で半分こにしたい。
    「オレ、もう、ワカがいないと生きていけねえワ」
    「……そんなの、オレだってそうだけど」
    「だからさ、結婚しよう。世界中に、ワカがオレの最愛だって、言わせてよ」
     一歩ずつ近づけば、ワカの両目からぽろぽろと雫が転がり落ちていくのが見えた。悲しさで溢れたものではないと知っているから、ためらわずにその身体を抱きしめた。
    「なん、で、人が飯握ってる時に言うんだよ……これじゃ、抱きかえせねーじゃん……バカ……」
    「ごめん、でも、今言いたくなって」
     行き場の無い両手を宙に浮かばせているのだろう。背中でどんな葛藤が現れているのかは分からないけど、今腕の中にあるのが世界で一番、愛しくてたまらない人だとは分かる。
     二十センチと少し、頭一つ分くらい低い場所にある若狭のつむじにキスをした。
     ぐりぐりと胸板の中心に擦りつけられている額は、きっと赤くなっていそうだ。
    「しん、」
    「ん? なあに?」
     弱々しく名前を呼ばれて、名残惜しくも半歩分後ろに下がる。ワカの顔を覗き込むと――……。
     口にいきなりおにぎりが押しつけられる。
    「ん、ぐ」
    「……それ、食べてからもう一回言って」
    「んんッ」
     離れていくワカの姿はよく見えなかった。ただ、服についた涙の染みが冷えていくついでに、どれほど泣いたのかを間接的に伝えられる。
     一人で泣かせるのは、今日が最後だ。
     もうどんなことが起きても、二人を別つものはなにもない。
     オレが弱っているときは、ワカに支えて貰う。ワカが辛いときは、オレが支える。
     言葉にするよりもずっと前から、オレたちはそうだったけど。これからは、笑って眠りにつくその日まで、それをありふれた当然のひとつに変えていきたい。
    「ワカ――」
    「真ちゃん」
    「オレと、結婚してください」
     ワカが作ってくれたおにぎりを飲みこんでから、もういちど。
     少し間抜けかもしれないシチュエーションで、大きな愛を叫んで。
    「は、い」
     小さな身体を強くつよく、抱きしめた。
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    しいな

    PROGRESS8/20インテ新刊「ドラマティックな恋じゃない」

    ⚠ 真一郎が非童貞
    ※直接描写なし

    あらすじ
    真一郎は十二年こじらせたワカへの片思いに決着をつけようとするも、幼馴染みの武臣に「無理だから諦めろ」と一蹴されてしまう。それでも今のままではいけないと悪あがきをしながら、ある日酒の勢いでワカを抱いてしまい――……。

    真一郎→→→→→(?)ワカの話。
    推敲・校正前なのでサンプル未満の尻叩き進捗。
    ドラマティックな恋じゃない 恋とは、きらきらと輝いて、そっと触れなければ壊れてしまうほど、うつくしくて尊い思い。――なんて、そんな言葉とは到底無縁だった。
     自分自身でも抑えきれなくて、おぞましい色で蠢いて、直視することが嫌になる。そのくせ手放そうと思えば思うほど、強くて太い根が張って心から離れない。ほんとうに、簡単に捨て去ることができればどれほど楽になるのだろうか。
     もう、十二年。
     まだ十代の青臭さが残る少年が見つけた宝物は、今となっては手に負えない呪物になっていた。
    「あー……」
     ぼんやりと眺めた夜空は相変わらずで、東京のあちこちにそびえ立つビルで切り取られている。
     決して綺麗なものではないのに、見慣れているからこそ落ち着けるのか、気がつくといつからか夜空を見上げるクセがついたらしい。仕事終わりに店の裏で煙草を吸いながら、ゆっくりこの十二年間抱えた片思いに別れを告げた。
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