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    しいな

    @_onigokko_

    ✍️真ワカ
    名鑑で無理でした。

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    しいな

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    自分探しの旅から戻ってきたワカと、なんとなくで壁を乗り越える真ちゃんの話。

    夏の終わり どれだけ近づいても、見えない透明の膜があるようだ。
     知り合って、肩を並べて、背中を預けて、それなりに経つ。なのに、オレはワカのことを、ちっとも理解できていない。そんな気がしては、苦い何かが口の中に広がった。
    「は?」
    「……ワカと連絡がつかねえ。旅に出るって」
    「なんだそれ」
     初代黒龍を解散してほどなく、それぞれがそれぞれの道を進み始めたころ。ベンケイから、そういう連絡がきた。
     ワカが旅に出た。
     もともと気ままな性質ではあったが、ベンケイと共にジム開業を目標に掲げたと聞いていた。そんなワカが、いったいどこに旅立ったのだろうか。
     確かにメールの返事はなく、電話も出ない。
     わずかな不安はあれど、心のどこかで「やっぱり」と思ってしまう自分もいた。
     あれは、自由な男だ。
    「……まあ、ワカなら、帰ってくると思う」
     解散を告げたあとの、横顔に滲んだ寂しさがふいに浮かんだ。
     きっと、オレが作ってしまった穴を埋めにいったんだと、確信はないけどそう思った。
     それからしばらくして、一枚の絵ハガキが届く。那覇の消印に、こっちはまだ暑い、の一言。ワカだ。
     ベンケイに聞けば、ベンケイのもとにも届いていたらしい。いちおう、無事の知らせをしてくれるならと、このままワカの旅を見守ることにした。
     沖縄、福岡、広島、高知、兵庫、京都。とびとびではあったが、一応北上してきている様子が、溜まっていく絵ハガキから読み解ける。静岡からのハガキが届いたときには、そろそろだな。とか、思っていたのに。
    「マジ?」
     次に届いたのは福島のハガキだった。このまま日本一周するつもりなのか、そもそも日本でとどまるのか。
     一抹の不安を覚えたのは、ワカが旅に出てから三か月が経ったとき。季節もひとつ変わった。
     相変わらずメールの返事はなかったけど、絵ハガキに添えられていた一言に、オレも一言だけ送るようにした。
     そんな奇妙な関係のまま夏が終わり、足音も立てずに秋がやってきた。
     終わりは、唐突だ。
     
    「真ちゃん、ひさしぶり」
    「わ、ワカ……! 帰ってきてたのか」
    「さっきね。はい、お土産」
     そう言って差し出されたのは紙袋一杯のものだった。これまでの絵ハガキで行った場所の、お菓子や謎のオブジェ。
     一番上の目立つところには、木彫りのクマがあった。
    「北海道まで行ってたの?」
    「そうそう。賞味期限長いヤツ選んでるから全部大丈夫だと思うけど、ヤバいのあったらごめんネ」
     そういっておどけるワカは、旅に出る前と変わらない笑顔を携えていた。
     けれど、目に見えなかった膜が、少しだけ分厚く存在感を増したような、そんな気配がした。
     このまま解散したら、何かが変わりそうだ。それだけは避けたくて、その手首を掴んだ。
    「あのさ、土産話。聞かせてくんね?」
    「え……、いいけど」
     切り出した内容がよほど意外だったのか、目をまんまるに見開かせていた。
     長旅の疲れも引きずっているだろうに、半ば無理矢理ワカをバブのケツに乗せて、海沿いをめがけて走り出す。
     どこか静かで、人に邪魔されない場所。別にあのまま自室に連れ込んでもよかったけど、あの瞬間は直感でそうしなかった。結局選んだふ頭公園は、案の定人影がほとんどなかった。
     欄干にもたれ掛かって、遠くの海をじっと見ていた。
     ――なんで旅に出たんだ。
     ――なにかあったのか。
     浮かんでは消えて行く質問は、どれも、投げかけてはいけないもののように思えて口をつぐむ。
    「……沖縄の海、すげー綺麗だったよ。暑かったけど、海ん中はきもちーの」
    「あー、そうだよな。あっちの海見たあとじゃ、東京の海は汚えよな」
    「まあ、でも、オレにはこっちのがいいや。綺麗すぎるモンに囲まれてると、自分がすげえ汚えな、って実感しちまう」
     静かに紡がれる言葉には、あまり抑揚が乗っていない。
     一体どんな表情を浮かべているんだって、ちらりと隣を盗み見て、心臓が止まった。
     長く、頬に影を落とすまつげが、濡れていた。
    「――っ、ワカ!」
    「わ、なに? 真ちゃ、ん」
     喧嘩に強くても、怪我をすることはもちろんある。それでも、ただの一度も見たことが無かった雫に、酷く動揺した。
     その瞬間、どうしてか身体の芯がカッと沸き立って、気がついたらワカを抱きしめていた。喉元で暴れる心臓の音も、ごまかせない距離だ。
    「真、ちゃんさぁ……、そういうの、マジでやめたほうが良いよ。そのうち刺されてもおかしくねーって」
    「……ワカだから、泣いてたのがワカだから」
     ワカだから、抱きしめた。泣いて欲しくなくて、隔たりが嫌で、抱きしめた。
     すっぽりと納まるほど小さい身体が、さらに強ばっていく。
    「それ、どういう意味」
    「わっかんねぇ……。でも、ワカには笑っててほしい」
     心底楽しくてどうしようもないそれじゃなくても、呆れたような笑いでも良い。ただ、泣いていてほしくなかった。
     それでも、もしも。一人で抱えきれない孤独や絶望、哀しみに襲われたとき。
    「泣くなら、オレの前で泣いて……。オレは、ワカを一人にしねえから」
    「……っ、も、いいよ。いまは、それで」
     一瞬の緊張が緩んで、肩に痛いくらい額を擦りつけられた。おずおずと回された腕が、オレの服を掴む。
     その瞬間に、心が満たされていった。ずっと、ワカにこうしてほしかったみたいだ。
     ワカの泣き顔は、綺麗だった。
    「オレ、もしかしたら、ワカのこと、好きかも」
    「……は? 一緒にチーム組んでたのに、好きじゃ無かったの?」
     剣呑な声が小さく震えた。
     そこでようやく自分の間違いに気がついて、慌てて言葉を付け足した。
    「ち、ちげえよ! そうじゃなくって、その、好きって。あれ、恋してる、ってこと」
    「……こい?」
     まるで人生で初めて覚えた単語を発するような危うさで、繰り返されたその二文字が、すっと腑に落ちた。
     恋をしている。
     喜怒哀楽のすべてを分かち合いたくて、一人にしたくない。ずっと、傍にいてほしい。
     これを、恋と言わずになんと言うのだろうか。
     ただ可愛くて、一緒にお茶したり、おしゃべりしたい。そんな今までの恋が、どれほど未熟なものかを突きつけられた。
     そうだ。頭のてっぺんから爪先まで、抱えるすべてを、オレのものにしたい。
    「……オレも、好きだよ」
    「…………えっ⁈」
    「好きだよ、真ちゃんのこと。だから、……ちょっと逃げてた。黒龍がなくなったら、オレたちを繋ぐモンは何にもないから」
     黒龍が無くなっても、友達のままだと思っていた。
     ただ、そこに横たわる恋心が、どれほどワカを苦しめたのだろうか。明言されなかった傷に、オレも勝手に傷ついて、もう一度強く抱きしめた。
    「でも、これはこれで、旅出て良かったワ」
    「……オレは寂しかった。メールも返ってこないし、次の絵ハガキが届くころには、ワカはそこにはいねーし」
    「ん、この旅で全部忘れようとしてたから。でも、気付いたら真ちゃんへの土産ばっか増えてって」
     あの、紙袋一杯のものひとつひとつに、一体どれほどのおもいが詰まっていたのだろうか。
     帰ったら、もう一度ちゃんと全部たしかめなきゃ。それよりも今はまだ、この腕の中の温もりを堪能していたかった。
    「ワカ、ごめん」
    「え?」
     少しだけ身体を離して、小さい顎を掴む。
     セオリー通りなら、付き合って一ヶ月は待たないといけないんだっけ。でも、今は、離れていたこの一夏分を、はやく埋め尽くしたかったのだ。
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    しいな

    PROGRESS8/20インテ新刊「ドラマティックな恋じゃない」

    ⚠ 真一郎が非童貞
    ※直接描写なし

    あらすじ
    真一郎は十二年こじらせたワカへの片思いに決着をつけようとするも、幼馴染みの武臣に「無理だから諦めろ」と一蹴されてしまう。それでも今のままではいけないと悪あがきをしながら、ある日酒の勢いでワカを抱いてしまい――……。

    真一郎→→→→→(?)ワカの話。
    推敲・校正前なのでサンプル未満の尻叩き進捗。
    ドラマティックな恋じゃない 恋とは、きらきらと輝いて、そっと触れなければ壊れてしまうほど、うつくしくて尊い思い。――なんて、そんな言葉とは到底無縁だった。
     自分自身でも抑えきれなくて、おぞましい色で蠢いて、直視することが嫌になる。そのくせ手放そうと思えば思うほど、強くて太い根が張って心から離れない。ほんとうに、簡単に捨て去ることができればどれほど楽になるのだろうか。
     もう、十二年。
     まだ十代の青臭さが残る少年が見つけた宝物は、今となっては手に負えない呪物になっていた。
    「あー……」
     ぼんやりと眺めた夜空は相変わらずで、東京のあちこちにそびえ立つビルで切り取られている。
     決して綺麗なものではないのに、見慣れているからこそ落ち着けるのか、気がつくといつからか夜空を見上げるクセがついたらしい。仕事終わりに店の裏で煙草を吸いながら、ゆっくりこの十二年間抱えた片思いに別れを告げた。
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