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    フィンチ

    @canaria_finch

    🔗🎭を生産したい妄想垢

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    フィンチ

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    付き合ってないふたりの🎭🎤の話

    #Sonnyban
    sonnyban

    月をも超えて 血の気が引くとはまさにこの事。目覚めて最初に目にしたものは、11時過ぎを示している目覚まし時計。ぼんやりとした頭はまるで冷や水を浴びせられたように覚醒し、文字通り俺は飛び起きることになった。
     どうしてこうなったと混乱しながらもぼやぼやしてる暇はない。もしかするとまだ間に合うかもしれないと一縷の望みをかけてパソコンを起動し、同時に携帯端末からも彼のツイートを頼りに配信枠を開く。するとそこに映し出されたのは愉快な画像に囲まれて歌うアルバーンの姿だった。まだ終わっていなかったことに安堵をしつつも、何故そんな絵面になっているのかと思ってしまったのは許してほしい。ひとまず端末の小さな画面から流れてくる歌声を聞きながら、デスクトップ画面の表示されたパソコンの前に座ると急いでブラウザ画面からも同じ枠を開いたところでようやく一息吐くことができた。
     端末から開いていた枠を閉じ、代わりにSNSから起床を意味する二文字を送信する。そしてそのまま彼の告知投稿を拡散すると、一旦端末は置いて目の前の画面に集中することに。
     画面に表示されたセットリストを見る限り既に5曲を歌い終えて今は6曲目。予定の時間としては本来配信を終えていてもおかしくはないが、開始が少し遅れていたようだからまだ聞ける可能性はある。多分、いや、そうであってくれ。
     今歌っているのは以前に自分も歌ったことのあるアニメ映画の挿入歌。既に何曲も歌った後だからか少し疲れが見えるものの、それでも精一杯歌い上げようとする姿からはTakaradachiを始めとした視聴者を楽しませたいという彼の想いが伝わってくる。歌の進行と共に兵が強くなっていくシーンで流れるため力強く歌われる楽曲ではあるが、少年めいたアルバーンの歌声は成長途中のキャラクターを連想させてまた違った良さが感じられた。
     だからこそ、始めから聞けなかったことが悔やまれる。本当にやらかした。なんたる失態、いくらこのところ立て込んでいたとはいえよりにもよって今日にだなんて。
     聞くことの叶わなかった曲達を彼はどう歌い上げたのだろう。自分でも歌ったことのある曲は勿論、過酷な生活をリズミカルに表現しているあの曲や、好奇心旺盛な人魚の少女の歌をどんな歌声で奏でたのかと、もう聞く術はないというのについ考えてしまう。純粋な興味と、アルバーンについてはなんであれ知っていたいという欲。それは願いと呼ぶには執着に塗れた感情だ。
     そしていよいよ最後の一曲。楽しそうに身体を左右に揺らす姿が可愛らしくてつい表情が緩んでいると、耳に届いたよく知るイントロにハッと目を見開く。ああ、これを聞き逃していたら後悔なんて言葉では到底足りなかったに違いない。
    『Fly Me to the Moon!』
     切り替わった画面はやっぱり小さな子供が用意したのかと思うような愉快なもの。どうにも気が抜けてしまうその絵に苦笑しつつ、コメントの反応を見て楽しそうに笑い、曲にあわせてチューニングする声を一瞬たりとも聞き逃してなるものかと耳を澄ます。そうしているといてもたってもいられず、いつの間にか指はキーボードをたたき始めていた。
     気付いてもらえなくたっていい。聞きに来ていると存在を主張したい訳でもない。こんなことはただの自己満足だと分かっているけれど、直接伝えることはできなかった言葉をせめて送るくらいはしておきたい。
    《GANBARE AUBAN》
     けれど、その短いメッセージを送信してすぐに画面の中のアルバーンはそれに反応した。
    『~~♪♪ハイ、サニー!さーにぃ!やっほー!』
     どうして君はすぐに気付いてくれるんだ。期待なんてしていなかったつもりだというのに、そんな無邪気に返されては自分は特別なのだと自惚れてしまう。それが例えなんてことのない言葉だったとしても、大勢の中から俺を見つけてくれたのだという事実にいくつもの感情が胸の内から溢れだしてしまいそうになる。
    『これから月に行ってくるよ。じゃあねサニー、また後で』
     勿論、会話を続けられるような場でないことは承知しているから短いやり取りで終わってしまうのは当然。ここはふたりの場ではないのだから。なのに、それを理解しながらも更にキーボードを叩いてしまう。
    《get some cheese for me》
    『OK~』
     アルバーンはその間にも浮奇やファルガーが見に来ていることにも楽しそうに触れ、まるでなんてことのないことのように俺の追加で送ったメッセージにも了解の返事を口にした。困惑など微塵も感じさせない軽い口振りはその意味が通じているからに他ならない。そうだ、深くなんて触れなくていい。これで十分。あとはもう、記憶にしか残すことの出来ない歌声をしっかりと聞き届けよう。

    『Fly me to the moon
     And let me play among the stars』

     静かな歌いだしはメロディと同じように落ち着いたもので、まるで月明りを浴びながらひっそりと口ずさんでいるようだ。ゆったりとした曲調にあった歌い方は普段の彼とはまた違った魅力を引き出していて、またひとつ知れたという喜びと、もっと知りたいという渇きを覚える。

    『In other words hold my hand
     In other words darling kiss me』

     そして、どこか囁いているようにも聞こえるそのフレーズにドキリと胸が高鳴った。叶うなら今すぐその手を取りたい。許されるのならその唇にだって。

    『Fill my heart with song
     And let me sing forevermore』

     君が望みさえするならいくらでも歌うのに。君が歌ってくれるのならいくらでも聞いていられるのに。聞けば聞くほど抑えつけていた思いが溢れだしそうになる。俺にとって、この曲は君が歌うからこそ意味を持つ。

    『In other words please be true
     In other words――』

     この後にどんな言葉が続くのかだって、よく知る曲だからこそ分かっている。それがただの歌詞の一部だったとしても、彼の口からその言葉を聞けると思うと気分が高揚して仕方がない。けれど、目に、耳に届いたのは予想とは少しばかり違った趣向のものだった。

    『I love ...you♡』

     それまでは確かに歌っていたというのに、少し間を空けてから続けたのは話しかけるような口調の言葉。そして、自然な流れでのウィンクからのいつもの悪戯っ子のような笑い声。これは完全にやられた。思わず口元を押さえてこみ上げる様々な感情を飲み込む。可愛いばかりではないと思っているのは本心からだというのに、結局のところは可愛いそこにまた戻ってきてしまうのだ。
     すっかりいつもの調子で体を揺らしてリズムを取り、子供のようにメロディを口ずさむ姿にまいったなと気が抜けてしまう。そのくせ、歌い出したらすぐに切り替えて程良い低音を響かせるのだから本当にズルいったらない。

    『You are all long for
     All I worship and adore』

     低音から高音に変化していく時の少し舌ったらずな歌い方。同じフレーズでも先ほどよりも少年っぽさが際立つその響き。

    『In other words please be true』

     そして、終盤にかけて盛り上がりを感じさせるメロディに対して、願うような声の伸び。

    『In other words
     In other words
     I love you――yeah』

     最後は【アルバーン・ノックス】らしくきめて、得意げに笑っている姿についつられて俺も笑ってしまうと、口からは自然と想いが溢れていた。

    「I love you too」

     マイクスタンドを前に立つ彼の頭を指でそっと撫ぜてみる。そんなことをしてみても触れられるのはディスプレイにだけ。それくらい分かっている。だとしても、そうせずにはいられなかった。
     すると、リスナーからの無事に着陸できたかというコメントに触れて画面の中のアルバーンが口を開く。
    『うん、戻ってきたよ!サニーにチーズを渡さないとだしね』
    「っ…!」
     不意打ちで出された自分の名前に思いの外驚いてしまった。確かにそう振ったのは俺からだけれど、それをまた持ち出されるとは。驚きと、後からじわりと広がっていく歓喜。ああ、ダメだダメだ、喜ぶな。遅れてきておいて優越感に浸るなんて。
     そうこうしているうちに配信は終わり、一息吐いてからAFTERPARTYの待機所へと移動をしておく。あとはゆっくり声を聞いていようと大きく伸びをしたところで、ようやく起きぬけだったことを思い出した。
     飛び起きたものだから当然ベッドはぐちゃぐちゃ。服も寝巻きのままで、当たり前だが顔だって洗っちゃいない。次の枠の開始までにせめて顔と服くらいはなんとかした方が良さそうだ。
     それに、先程から目には入ってくる端末に連絡がきていたことを知らせるランプの点滅。先にこちらを確認しておくかと画面を開いた次の瞬間、目に入ったものに顔が引きつったのが自分でも分かる。一画面では収まりきらないほどの着信通知は、数回はファルガーから、そして数えるのも恐ろしい回数が浮奇から。その時間帯から要件など分りきっていて、鬼の形相の浮奇の後ろで肩を竦めるファルガーの姿が容易に想像できた。
     そのままにしておく訳にもいかないが、さてどうしたものか。この状況下ですぐに連絡を入れるのは躊躇われる。ひとまず顔は洗ってこようと洗面所へと向かい、部屋に戻ってくると新たな通知を意味するランプが点滅しているのが目に入った。
     誰からだ。残念ながらこのタイミングでアルバーンから連絡が来ているとは考えにくい。そう思い覗き込んだ画面に表示された名前はファルガー・オーヴィド。
    《間に合ったみたいだな、寝坊助》
     ニヤニヤと面白がっている声音が脳内で再生されてしまうメッセージが憎たらしいったらない。とはいえ、今回に関しては自業自得であるから文句の言いようもないのだが。
    《おかげさまでよく寝たから最後くらいは聞けたよ。ふーちゃんは最初から聞いてたんだろ、どうだった?》
     自分が聞くことの叶わなかったものの感想を聞いてどうすると思わなくもないが、それでも気になるものは気になる。出来は勿論のこと、アルバーンの様子も。
    《少し手間取ったりもしてたが、本人も楽しんでいたし良かったんじゃないか。あいつらしく歌えてたよ》
     その文面を目にした瞬間に、すぐには文字を打ち込むことが出来なかった。原因は分かってる。分かっていながらも聞いたのは自分だ。
    《なら良かった》
     端的に返した言葉は嘘ではないが、それだけではないのも事実。
    《本音は?》
     そして、それを察しているだろうにすぐさま送られてきたメッセージにひくりと口元が引きつり、反射的に抑え込んだはずの感情を打ち込んでいた。
    《すっげぇ悔しい》
     それまでは間髪入れずに返ってきたメッセージの通知がピタリと止まる。その理由は決して深刻なものではない。断言できる。何故って、十中八九あのやかん笑いを部屋に響かせているからだ。これだから信頼と嫉妬が両立してしまう相手は厄介なことこのうえない。
     PARTYが始まるまでもう間もなく。丁度いいからここで切り上げてしまおうと一旦端末をおいて着替えていると、再び見た画面には新たなメッセージが表示されている。
    《時間ができたら浮奇にも連絡してやれよ》
     それは勿論。反応が怖いところではあるが、そこまで不義理なつもりもない。
     分かったとだけ返してパソコンの前に戻ると、タイミングを見計らったかのように配信の開始を報せるBGMが流れ出した。PARTYの後の時間を貰えないか、配信終わりに誘ってみようか。そう思いたったら早速メッセージを打ち込み始めてしまう。送信するのはこの配信が終わってからだというのに我ながら気が早いこと。
     でも仕方がない、今日はまだまだ彼が足りていないんだ。


    《お疲れ様、良かったら頼んだものチーズを届けてくれないか?》
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    フィンチ

    DONEふわっとしたMHパロ、ガノレク🔗×アイノレー🎭の馴れ初め
    仲良くなれるかな? とある村のアイルーキッチンで働き始めたアルバーンには悩みがあった。仕事自体は新入りということもあって覚えることも多く大変ではあるが違り甲斐がある。コック長は厳しくも懐の大きいアイルーであるし、手が足りてないようだと働き口として紹介してれたギルドの職員も何かにつけて気にかけてくれている。それならばいったい何が彼を悩ませているのかというと、その理由は常連客であるハンターの連れているオトモにあった。
    「いらっしゃいニャせ!ご注文おうかがいしますニャ」
    「おっ、今日も元気に注文取りしてるなアルバにゃん」
    「いいからとっとと注文するニャ」
     軽口を叩きながらにっこりと愛想の良い笑みを浮かべてハンターを見上げるアルバーンは、傍らに控えているガルクからの視線にとにかく気付かない振りをする。そう、このガルクはやってくるとずっとアルバーンを見てくるのだ。しかも、目が合っても全く逸らさない。ガルクの言葉など分からないから当然会話も成立しない。初めて気付いた時には驚きつつもにこりと笑いかけてみたのだが何か反応がある訳でもなく、それはそれは気まずい思いをした。だからそれ以来、気付かない振りをして相手の出方を窺っているのだが、今日も変わらずその視線はアルバーンを追っているようだった。
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