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    フィンチ

    @canaria_finch

    🔗🎭を生産したい妄想垢

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    フィンチ

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    ラジオパーソナリティ×カフェ店員な現パロ🔗🎭

    #Sonnyban
    sonnyban

    アイを注いで アルバーンはとあるラジオ番組を聞くのが好きだった。正しくはその番組のパーソナリティであるサニー・ブリスコーの声が。普段の優しい響きの低音は落ち着くし、驚いたり楽しそうにしている時に高くなるところは失礼ながら可愛くも感じる。そんな彼の声を聞いていると落ち込むようなことがあっても元気になれて、夜もゆっくり休むことが出来たから疲れも取れた。
     所謂、おたよりというものも出したこともあったがそれなりにリスナー数の多い番組であるから読まれたことはない。でも、それで良かった。応援の言葉を送るのはただの自己満足で、それ自体を書くことが楽しかったから。大勢いるリスナーのうちのひとりとして楽しんでいられればそれで良かった。多くは望んでいない、というかそんなこと考えたことすらない。
     だから、自分にとって思いもよらない出会いが待っているなんてアルバーンは想像もしなかったのだ。





     それはいつものようにバイト先のコーヒーショップでレジに立っている時。自動ドアの開く音で顔を向けると、黒いキャップに金髪の見慣れない男性客の姿が目に入った。もしかすると黒いマスクで顔のほとんどが隠されているから覚えていないだけかもしれないが、それでもあのキラキラと輝く金糸の髪と涼やかな瞳は随分と目を引く。とはいえ今は仕事中。どんな容姿であってもお客様には変わりない。いつものようににっこりと営業スマイルを浮かべてオーダーの聞き取りを始めたアルバーンだったが、男性客の口から出てきた言葉に思わず固まった。
    「ブレンドひとつ」
     注文自体はごく普通の内容。でも問題はそこじゃない。アルバーンが反応したのはその声にだ。
     いやいや、そんなまさか。似てるだけだと思ってみても、どうしても聞き慣れたあの声と重なってしまう。勿論、彼はこんなぶっきらぼうな喋り方はしないけれど、番組中に様々な声を聞かせてくれていたからこそ、そのうちのひとつと記憶の中で合致してしまった。
     思いがけないアクシデントからの衝撃に咄嗟に反応出来ずにいると、男性客は怪訝そうに言葉を重ねてくる。
    「…あの?」
    「は、はい、ブレンドをおひとつですね」
     こんな私情で固まっている場合ではない。普段よりもだいぶぎこちなくはあったがなんとか会計まで済ませると、アルバーンは受け取り口の案内をして注文された商品の準備に取り掛かった。
     オーダー自体はシンプルなものであるから、やることはコーヒーメーカーにカップをセットしてスイッチを押すくらいなのだが、ここでカップに一工夫。左手にカップ、右手にマジックを握るとアルバーンは手早くカップの表面にメッセージを書き込んでいく。
     
    ≪Enjoy your drink≫

     そして仕上げにデフォルメされた猫の絵を添えたら準備はOK。カップを満たし、プラスチックの蓋をすると、アルバーンは受け取り口から先ほどの男性客へとそれを渡した。
    「お待たせしました!ミルクと砂糖はご自由にお取りください」
     今度こそにっこりと笑顔は崩さずに。カップに描かれたものへの反応は特になかったが、それを期待して行っていることではないから構わない。
     そもそも、突然のことに動揺して妙な挙動になってしまったけれど、まだ同一人物と決まった訳ではないのだ。ものすごくよく似た声の持ち主という可能性だってある。そうだ、そうに違いない。
     そう結論づけたアルバーンはあっさりと気持ちを切り替えると、その後の仕事は恙無く終えて退勤した。最初のレジでのやり取り以外、あの男性客の声を聞くことがなかったのも大きかったかもしれない。あまりにも聞きすぎて似た声に過剰に反応してしまったとか?なんて、今日の一件を笑い話として消化しようとしていたのだが、残念ながらそうはいかなかった。

    『そういえば、今日コーヒーショップでカップにメッセージを書いてくれた子がいたんだ。他の店でもああいうのはあるし、メッセージ自体はなんてことなかったんだけど猫を書かれたのは初めてだったな』
    「僕じゃん!!!」

     いつものように一日の終わりのリラックスタイムとしてラジオを楽しんでいたはずが、スピーカーから聞こえてきた内容に思わず声をあげる。ああ、やっぱり聞き間違いではなかった。そうだよ、これだけ聞いてるんだから聞き間違えるはずがない。好きな声を聞き間違えるはずがなかったんだ。
     言いようのない恥ずかしさからアルバーンは枕に突っ伏してしまう。そして、続いて湧きがってきたのはこれからどうしたらいいのかという大きな困惑だった。
     今日の来店がたまたま近くに用があったからという理由でなら『次』はないだろう。でも、これからも彼がバイト先に来るのだとしたら。あの声を聞く度に今日のように挙動不審になる訳にはいかないし、何より絶対に彼にリスナーだとバレるわけいかない。そうだ、何も知らないただの店員に徹しなければ。
     アルバーンはプライベートの彼とお近付きになりたい訳ではないのだ。ただ彼の声を、トークを、ラジオを通して楽しませてもらえればそれでいい。むしろ、それがいい。認知など以ての外。彼の迷惑にならないよう、完璧にやりきってみせる。
     そんな固い決意のもと、アルバーンの密かな奮闘が始まった。





     まずは笑顔。絶対に笑顔は崩さない。そして余計なことは喋らない、あくまでも接客としての会話のみで。最後に、特別扱いはしない。彼がどこの誰であろうと、大勢いるお客様のうちのひとり。軽んじるつもりは勿論ないけれど、他のお客様と同様に対応すること。この3点を心がけてアルバーンは仕事に励むようになった。
     やはり彼の声は好きなので間近で聞けるとつい嬉しくなってしまったが、それは決して表には出さないように注意している。カップに書き込むメッセージもあくまでもありきたりのものを。
     そんな細心の注意を払った勤務態度が功を奏したのか、彼が来店するようになってから一月ほどが経過してもボロが出ることはなかった。始めの頃こそ妙に意識してしまって彼の接客を終えた後はどっと疲れがくるなんてこともあったが、彼が思った以上に頻繁に店にくるものだから最近ではすっかり慣れてしまっている。オーダーは決まってブレンドを一杯。だから手間取ることなくスムーズに対応できていた、その日までは。
     いらっしゃいませと、お決まりのスマイルを向けたものの、普段ならすぐに聞こえてくるはずのオーダーの声はなかなか聞こえてこない。おやと思いつつ様子を伺えば、何やら視線は珍しくメニュー表に注がれている。そこでふっと思い出したのは昨夜番組内で話していた内容。

    『最近気になってるメニューがあるんだ。蜂蜜を使ってるんだけど、どれくらい甘いんだろう』

     これまでに聞いている限りでも、サニーは甘いものを好んでいるという訳ではなさそうだった。けれど、気になっているのなら苦手という訳でもないのだろう。最近は忙しくしているようだし、少し糖分を取りたくなったのかもしれない。
     そんな風に記憶と結びついてしまったのがまずかった。それまで上手く対応出来ていたからこそ生まれた余裕が、より良い接客をという仕事への姿勢が仇となるなんて。
    「濃いめのエスプレッソを使ってますから、蜂蜜が入っていても意外と甘すぎないんですよ」
     にっこりと笑顔で話しかけたアルバーンだったが、目の前の相手は驚いたように目を丸くしている。どうしてそんな反応を?一瞬浮かんだ疑問も、すぐにその理由に思い当たりみるみるうちに自分の表情が強張っていくのが分かった。
     彼はメニューを見ていただけで、そこにはいくつものホットドリンクが載っている。そう、アルバーンの言う蜂蜜を使ったメニュー以外にも。だから、彼が何をオーダーしようとしているかなんて分からないはずなのだ、ただの店員であれば。
    「……じゃあ、ハニーカフェ・オレを」
     少しの間を置いてオーダーする彼の声は普段とそう変わらない。違っているのはアルバーンだけ。
     泣きたくなりそうな気持ちをぐっとこらえて会計を終わらせ、震えそうになる手でオーダーされた品を用意していく。今日ばかりはメッセージを添える余裕もない。とりあえずやるべきことをしなければ。それだけを自分自身に言い聞かせて仕事に集中しようとしたアルバーンだったが、いざ品物を渡そうとしたところで決定打とも言える言葉が彼の口から発せられた。
    「もしかしてリスナーさん?」
     そんなこと、答えられるはずがない。上手く出来ていたはずだったのに。やり通せるはずだったのに。
    「ごめんなさい」
     泣きだしそうな笑顔でカップを渡しながら口にしたのは謝罪の言葉。すぐに視線を逸らし、その場を離れてしまったアルバーンには彼がどんな表情をしていたか分からない。今は仕事中だから、次のお客様が待っているから。その行動が例え逃げだったとしても、確認する勇気なんて今のアルバーンにはなかった。





     残りの勤務をなんとかこなし、ようやく退勤時間を迎えたアルバーンはエプロンを外しながら大きな溜め息を吐く。これからどうしたらいいだろう。どんな顔で接客したらいいだろう。そこまで考えて、まだ来てくれると思っている自分自身に思わず自嘲してしまう。今度こそ、『次』なんてないかもしれないのに。
     手早く帰り支度を終え、重い足取りで店を出ると再び溜め息が。落ち込んだ時には必ず聞いていた彼の番組の録音データも、この調子では聞く気にはなれそうにない。
    (聞きたいのに聞きたくないなんて、変なの)
     とぼとぼと歩き出したもののアルバーンはどこか上の空。だからか、声を掛けられた瞬間に大袈裟なほど身体を跳ねさせてしまった。
    「お疲れ様」
     驚いたのは、急に声をかけられたからだけではない。その声の主は、今最も顔を合わせたくない人。恐る恐る視線を向けると、感情の読めない瞳でこちらを見据える彼がそこには立っていた。
     逃げ出したくてたまらないのに、まるで金縛りにあってしまったかのように身体はいうことをきかない。
    「少し話せる?」
     アルバーンは口を噤んだままで一度だけこくりと頷く。問われてこそいるものの、ここで首を振るなんて選択肢はなかった。
     店先を離れ、移動した先は街中の小さな公園。遊具なんてものは置いていないそこに配置されているのはベンチだけ。子供の遊び場というよりはもっぱら付近で働く者の休憩に使用されているその場所は、おあつらえ向きに今は人気もない。
     緊張感に包まれながら相手の出方を窺がっていると、振り向きざまに再び問いかけが投げかけられた。
    「なんで謝ったの、俺のこと知ってたから?」
     これは今日の店でのことを言っているのだろう。アルバーンがこくりと一度頷くと、不可解だと言わんばかりの声音で言葉が返る。
    「別に怒ってなんかないだろ」
     それは確かにそうだ。そうなのだけど、
    「で、でも、知らない人にプライベートを知られるのって嫌でしょ?」
     困ったように眉を下げて思わずそう問い返すと、アルバーンの耳に予想もしない言葉が飛び込んできた。
    「じゃあ知らない人じゃなくなればいい」
     言われている意味が分からない。困惑を色濃く浮かべてみても、彼の瞳は全く動じた様子もなく真っすぐにアルバーンを見つめている。なんだかおかしい。本当なら困るのは彼のはずなのに、これではまるで自分が困らされているみたいだ。頭は混乱するばかりで、当事者なのに全く事態についていけない。そして更に重ねられた言葉に、アルバーンは今度こそ絶句した。
    「俺は嫌な思いはしてないし、これからもあの店に行きたい。なら、知り合いになればいいだろ」
     この人はいったい何を言いだすのだろう。そうすることでのメリットは?あまりにも極端な提案に動揺しつつも、アルバーンはなんとか言葉を絞り出す。
    「…僕と、友達になるってこと?」
    「あー…まあ、そういうことになるかな」
     なんだか歯切れの悪い反応だ。だが、それもそうだろう。本当ならもうあの店には行かないようにすればいいだけの話。だからこそ、別の方法を挙げてくれる理由がアルバーンには分からない。でも、それを無下に自分が断ってしまってもいいものかという戸惑いもある。あまり迷惑になるようなことはしたくないのだけれど、本人がいいと言うのなら。
    「……リスナーのままでいてもいい?」
     僅かな躊躇いの後に口にしたのは自分にとって譲れないライン。アルバーンはそもそも『サニー・ブリスコー』の声が好きなので、ただの友達にはどうしたってなれない。それだけははっきりとさせておかなければ。
    「別にいいよ」
     対して返ってきたのはあまりにもあっさりとした言葉。考えるまでもないといった即答っぷりは拍子抜けしてしまうほどで、どうして自分ばかりが深刻に考えているのだろうと別の疑問さえ浮かんでくる。
     とはいえ、こうまで言われてしまっては腹を括るしかない。
    「じゃあ、頑張ってみる」
     神妙な面持ちでそう口にしたアルバーンとは打って変わって、彼の、サニーの反応は随分と柔らかなものだった。
    「なんだよそれ」
     目元がふっと和らぎ、これまでにあまり温度を感じさせていなかった瞳に穏やかな印象が強まる。その変化は声音にも表れていて、まるで包み込まれるような優し気な響きがなんだか妙に気恥ずかしい。
    「っ~…仕方ないじゃん、サニーの声好きなんだもん!いきなり友達なんて言われても難しいよ」
     自分でも何に対しての文句だと思ってしまうようなめちゃくちゃな八つ当たり。とてつもなく恥ずかしいことを言ったような気がする反面、咄嗟に言い返したことで気持ちがほぐれたのかアルバーンの表情からもいつの間にか緊張は消え去っていた。
     これまでにサニーに向けてきたものとは異なる、はにかんだような笑顔をアルバーンは浮かべる。
    「でも、気にしてくれてありがとう。またお店でね!」
     今日のところはまだ恥ずかしいから。それだけ言い残すとアルバーンは返事も待たずに走り去るのだった。




     
    「別に店じゃなくてもいいだろ」
     一方、ぽつんとその場に残されたサニーは呆れたように独り言ちる。引き留める間もないとはこの事。あまりにも不意打ちな反応をされたものだからうっかり逃げられてしまった。結局連絡先も分からないまま、残された言葉の通り次もまた店に行くしかアルバーンに会う術はない。いや、別にこれきりという訳ではないし、焦るような状況ではないだろう。繋ぎ止めることは出来ているのだから…、

    「友達『から』始めるしかない、か」
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    フィンチ

    DONEふわっとしたMHパロ、ガノレク🔗×アイノレー🎭の馴れ初め
    仲良くなれるかな? とある村のアイルーキッチンで働き始めたアルバーンには悩みがあった。仕事自体は新入りということもあって覚えることも多く大変ではあるが違り甲斐がある。コック長は厳しくも懐の大きいアイルーであるし、手が足りてないようだと働き口として紹介してれたギルドの職員も何かにつけて気にかけてくれている。それならばいったい何が彼を悩ませているのかというと、その理由は常連客であるハンターの連れているオトモにあった。
    「いらっしゃいニャせ!ご注文おうかがいしますニャ」
    「おっ、今日も元気に注文取りしてるなアルバにゃん」
    「いいからとっとと注文するニャ」
     軽口を叩きながらにっこりと愛想の良い笑みを浮かべてハンターを見上げるアルバーンは、傍らに控えているガルクからの視線にとにかく気付かない振りをする。そう、このガルクはやってくるとずっとアルバーンを見てくるのだ。しかも、目が合っても全く逸らさない。ガルクの言葉など分からないから当然会話も成立しない。初めて気付いた時には驚きつつもにこりと笑いかけてみたのだが何か反応がある訳でもなく、それはそれは気まずい思いをした。だからそれ以来、気付かない振りをして相手の出方を窺っているのだが、今日も変わらずその視線はアルバーンを追っているようだった。
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