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    フィンチ

    @canaria_finch

    🔗🎭を生産したい妄想垢

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    フィンチ

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    ファンタジーパロ
    🔗🎭と、4人の子供達🛸🤟♦💖の話

    #Sonnyban
    sonnyban

    愛に繋がるalchemy とある村はずれの工房に、錬金術師がひとり住んでいた。始めこそ村人からも奇異の目を向けられることもあったが、その人当たりの良さであっという間に村人達と打ち解け、いつの間にか受け入れられる。城下町からは少し離れた場所に位置する場では錬金術によって作られる日用雑貨の数々が有益だったというのも大きい。交易の機会が限られている村にとってその恩恵は絶大で、錬金術師の持つ知識は得難いもの。そして不思議な術に好奇心が旺盛な子供達が関心を持つのも当然で、錬金術師の住む工房から賑やかな声が聞こえてくるのも珍しくはなくなっていた。





    「あー、また鏡にばっかり教えてる!」
     扉が開くのが早いか否か、不満そうな少女の声が響きわたる。彼女の視線の先には、大きな壺を前に何やら指導を受けていた様子の小柄なおかっぱの少年と、この工房の主である錬金術師の姿が。錬金術師はその言葉に困ったような笑みを浮かべたが、少年はその勢いに臆するどころか目を据わらせて口を開いた。
    「どうせコトカはすぐ飽きちゃうだろ」
    「~っ、そんなことないもん!」
     やり取りだけ聞けばケンカが始まってしまったようにも思えなくはないが、このふたりはこれが日常茶飯事であるものだから小さな子供達の戯れにしか見えない。そしてここに仲裁の声が入るまでもがいつもの光景だ。
    「こら、ふたりともあんまりアルバンを困らせるなよ」
     口を挟んだのは睨みあっているふたりよりも少しばかり年長に見える背の高い黒髪の少年。言葉では窘めているものの、その口調は穏やかで咎めるような響きは感じられない。そんなものだから仲裁されているはずのふたりの視線はキッと彼に向き、まるで図ったかのように同時に口を開く。
    「レンは黙ってろ!」
    「レンは黙ってて!」
     はいはいと言わんばかりの肩を竦める仕草に気分を害した様子はない。いつものやり取り、いつもの光景。だが、いつもと違う様子の声がその後に続いてやってきた。
    「アルバン!帰ってきたよ!」
    「ヴェール?」
     慌ただしく工房に飛び込んできたのは赤みがかった黒髪の少年。その言葉を耳にした錬金術師―アルバーンは不思議そうに首を傾げたが、ハッとして視線を扉へと向けると金髪の長身の人物が工房の中へと足を踏み入れる姿が目に入る。そして視線が絡まり、その表情がふわりと綻んだ瞬間にアルバーンの身体は自然と動き出していた。
    「サニー!!」
     出迎えの言葉も続けられずに、ただ名前だけを呼んで飛びついてきたアルバーンを金髪の男―サニーは難なく受け止める。
    「ただいま、アルバン」
     耳元で聞こえる優しい低音。その響きに胸がいっぱいになり思わずぎゅうと抱き着くと、それに応えるようにアルバーンの身体が力強く抱きしめられた。苦しいほどの抱擁から齎されるのはそれを遥かに上回る充足感。しばらくの間、互いの存在を確かめるように抱き合っていたふたりだったが、ゆっくりとその拘束が緩められたのを合図にアルバーンは少しばかり上向くようにして微笑みかける。
    「おかえり、サニー」
     ようやく口にされた出迎えの言葉を受け取る瞳は随分と甘い。アルバーンはうっとりとその色に見惚れ、まるで誘われるようにふたりの距離が再び近付きかけたが、それ以上はさすがに許さないとばかりにわざとらしい咳払いがその空気をぶち壊した。
    「っ!」
    「チッ……お前ら少しは空気読め」
     驚いて離れようとしたアルバーンをぐいと抱き寄せ、サニーが視線を向けた先には4人の子供の姿。
    「何のこと?何も見てないけど?」
    「あ、あたしも!ぜーんぜん見てないよ!」
    「は?俺が先にここにいたのに誰に空気読めって?」
    「はいはい、噛みつかない噛みつかない」
     不自然に視線を逸らしてしらばっくれるヴェールに、その隣で両手で顔を覆いながらも指の隙間からちらと様子を伺っているコトカ。鏡はムッとした表情で受けて立つとばかりに見返していたが、どうどうとレンに横から宥められるものだから苛立ちを隠しもせずに片眉をピクリと吊り上げていた。
     だが、そんな様子の子供達を前にしてもサニーが譲る気配はない。アルバーンを解放する素振りもなく、それどころかさらにがっしりと抱え込んでくる。そうなってしまえば選択の余地はないわけで…
    「その……みんな、ごめんね?」
     抱き寄せられたまま、困り眉で謝罪を口にするアルバーンに子供達はそれぞれ違った形で仕方ないなぁと反応してみせた。子供達とてふたりの邪魔をしたい訳ではないのだ。むしろ、サニーと顔を合わせるのは久しぶりなものだから絡んでいる節さえある。けれど、そんなやり取りもひとまずはここまで。また明日と言いながらぞろぞろと工房を出ていく一向の最後尾でレンがにっこり笑って手を振ったのを最後に、扉が閉まり室内はすっかり静まり返った。
     扉を見つめ、どちらからともなく向けた視線が再び交わり、それからアルバーンがふっと笑みを零す。
    「もう、大人げないんだから」
     言葉だけは窘めているものの、その顔に浮かぶ感情は全く別のもの。対してサニーも先ほどまでの仏頂面はどこへやら。
    「久しぶりなんだ、今日くらいいいだろ」
     そう口にしてアルバーンの頬へと指を這わせると、続きを促すようにその瞳が閉じられ、ゆっくりとふたりの唇は重なった。





     ひとり気侭な工房暮らしに同居人が増えたのは、村人達ともそれなりに良好な関係を築けてからのこと。綺麗な顔を蒼白にして訪ねて来た男が毒に侵されているのだと気付き、介抱したのがサニーとの出会いだった。
     すぐには手持ちがなくて治療費を払えないとバツが悪そうに告げてきたのに対して、フリーの傭兵をしていると聞いたから採集をする際の護衛をしてもらえると助かると口にするとそれはふたつ返事で受け入れられる。ほんの思い付きだったのに。そんな僅かな動揺は内に秘め、1,2度付き合ってもらえればそれでなんて軽く考えていたアルバーンだったが、それが今の関係に発展する転機でもあった。
     看病もしてもらったからと複数回の同行を提案され、帰りが遅くなれば宿の手配をしている様子もないようだったので工房に泊め、その分の貸しも上乗せしてと繰り返していれば何か目的があることくらいは察せられる。いつの間にか気の置けない友人のような存在となっていたサニーとの生活は楽しくはあったが、それを見過ごせるほどアルバーンも呑気な性質ではない。名残惜しくはあるがはっきりさせなければ。そう覚悟をきめて問いただした結果、気付けよとやけくそ気味に告白をされてしまって今に至る。
     ふたりで暮らすようになってからもサニーが職を変えることはなく、請け負った仕事内容によっては数日、長ければ半月ほど家を空けることもあった。今回は特に長く、予め聞いていたとはいえひとりで夜を過ごすことが2週間も続けば寂しさは否めない。だからこそアルバーンも子供達の前であんな行動をとってしまった訳だが…
    (昨日はあの子達に恥ずかしいところ見せちゃったな)
     思い返すとさすがに頬が熱くなってしまう。別に隠すような関係ではない。というか周知の事実ではあるのだが、それでも恋人として触れ合っているところを見られるとなると話はまた変わってくる。少し気を付けないと、と顔の熱を冷ます為にアルバーンが両手を振って風を送っていると目線の高さでキラリと何かが光った。
     その正体は左手の薬指にはめられたシンプルな銀製の指輪。今朝贈られたばかりのそれを見ていると鮮明に記憶が呼び起されてしまい、顔の熱は冷めるどころか上がる一方。そして、治まれ治まれとアルバーンが両頬を押さえている横では、ふたりの子供達が何やら神妙な顔で頷きあっていた。
    「見た?」
    「見た見た、急がないと」
     こそこそと話しているつもりのようだがしっかりとその声はアルバーンの耳に届いている。いったいこの子達は何について話しているのか。でも声を潜めているからには一応自分には隠しておきたいことだろうしと、なかなかに判断が難しい。すると、どうしたものかと思案しているアルバーンに子供達の方から話しかけてきた。
    「ねえアルバン、サニーはまたすぐにお仕事行っちゃう?」
     あまりに真剣な表情のコトカに目を丸くしていると、答える前にヴェールも重ねて問いかけてくる。
    「いつまでいるの?」
     本人が思っている以上に彼が子供達に懐かれていることは知っているが、こんなことはこれまでに聞かれたことがない。何か余程重要な用事でもあるのだろうか。アルバーンの知る限りすぐに出立しなければいけないというような話は聞いていないが、急な依頼が入ってしまえば予定などいくらでも変わってしまうものだ。
    「うーん、今のところはいるみたいだけどちょっと分からないな」
     申し訳なさそうにアルバーンがそう答えると、ふたりはその曖昧な返事に不満を表すでもなく顔を見合わせて頷くと、揃って視線を向けて口を開いた。
    「あたしたち用事が出来たから今日はもう帰るね!」
    「アルバン、また明日」
     用事が”出来た”のか、と引っかかる点はあるものの子供達の事情に首を突っ込み過ぎるのも良くない。また明日、気を付けてとだけ返して慌ただしく工房を駆け出していくふたりの姿をアルバーンは見送る。そして扉が閉まったのを見届けると、今度は難しい表情で唇に指先を当てて考え込むポーズを取った。
     気付かない振りは出来る。後ろめたい様子も感じられないから危ないことをしている訳でもないはず。だから出来るだけやりたいようにさせてあげたい。でもあの子達が気にしていたのはサニーの所在だ。それならこれは、
    (サニーには言わない方がいいんだろうなぁ…)
     彼にあまり隠し事はしたくないのだけどと思いつつも、困ったような笑みを浮かべたアルバーンのとる行動は既に決まっていた。





    「鏡ー!レーン!大変大変!」
     随分と離れた位置からでもはっきりと聞こえる自分の名を呼ぶ声に、鏡があからさまに表情を顰めて振り返る。その隣では全く同じ状況であるにも関わらず、レンが真逆と言っていいほどの笑顔で駆け寄るふたりを迎えた。
    「ちょっと、あんまり大きな声で呼ばないでよ」
    「コトカ、とりあえず一旦深呼吸しようか」
    「レンは落ち着きすぎ」
     慌ててほしい訳ではないが、あまりに動じないレンに少々呆れた様子でヴェールがつっこむも、本人は全く気にする素振りもなく問い返す始末。
    「焦ったって仕方ないだろ?」
     普段ならばそのまま他愛のないやり取りに興じる4人だったが、今はそんな場合ではないのだとコトカが焦れたように声をあげる。
    「もうもう!急がないとなんだってば!」
    「だからなんだってのさ」
     彼女が賑やかなのはいつものことだが、それにしても様子が違う。不可解そうな表情で鏡が先を促すと、コトカに代わってヴェールが言葉を続けた。
    「してたんだよ、指輪」
     至極真面目に告げられたその言葉を疑う者はこの場にいない。しばしの沈黙の後、全員の顔を見ながら彼にしては珍しく思案顔で問いかけたのはレン。
    「……準備ってどれくらいできてるんだっけ?」
     4人は内密にとある計画を進めていた。それを成功させる為には4つの品を用意する必要がある。いや、なくてもそれを行うこと自体は出来るが、その条件を満たすことこそが4人にとっては重要であった。
    「母さんに話して貸してもらえることにはなってるよ」
     すぐさま答えたヴェールの視線を受け、言葉少なに鏡も続ける。
    「買ってはある」
    「俺のところもこないだ咲いたばかりだから時期としては丁度いいかな」
     そう、3つまでは用意が出来た。けれども最後のひとつが見つからない、思いつかない。4人でどれだけ知恵を絞っても、どうしてもここで行き詰ってしまう。
    「う~…どうしよ、せっかくもう少しで揃うのに」
     なまじ他の品は揃えられただけにそう簡単には諦められない。そんな思いから出てきたコトカの言葉は誰しもが思っているもの。しかし、黙りこくってしまったその輪の中で、ぽつりと呟かれた問いかけに3人の視線が集まった。
    「それならさ、サニーに相談してみるのはどう?」





    「お前達そんなこと企ててたのか」
     あまり驚いた様子が見られないサニーの言葉に鏡の眉がぴくりと反応する。それに気付くや否やレンがさっと両手で開きかけた口を塞ぐと、その隙にとばかりにコトカとヴェールが矢継ぎ早に言葉を連ねた。
    「でもあとひとつがどうしても思いつかなくって!」
    「それで、サニーならいい考えがないかなって思ったんだ」
     子供達の言わんとしていることはサニーにも分かる。手詰まりであるし、他の知恵が欲しい。それが近しい距離の人間であればなおよしといったところだろう。ただ、問題があるとすればその相談相手としてサニーを選んだのは妥当だったのかということだ。
    「それは俺が知ってていいことなのか?」
     知恵だけでなく、手を貸すのだって別に構わない。ただそれは、4人だけでやり遂げたかったことなのではないかと問いかけると、ようやくレンの手を引き剥がした鏡からムッとしたような声があがる。
    「何言ってんの、アルバンが喜んでたらあんただって嬉しいでしょ」
     当たり前のことを言わせるなと言わんばかりの口振りは生意気の一言に尽きる、が、それは確かにそうだ。優先すべきものが何かなんて考えるまでもない。しかし、子供達の探す品の条件はなかなか厳しいものだった。
    「家族にまつわる古いもの、か」
    「そうなの、サニーは何か思いつくものある?」
     正直に言うならない。アルバーンが必要最低限の荷物だけを持ってこの地にやってきたのは本人から聞いているし、それはサニーとて同じこと。故郷に戻ればなにがしか使えるものはあるかもしれないが、それをするにはあまりにも遠くそう簡単には出来そうにない。なら、何か代用するという手はどうだ。単に年季の入ったものを用意するのであればやりようはあるかもしれない。だが、それではきっと意味がないのだろう。これは確かになかなかの難題だ。思案するサニーに子供達の不安気な視線が集まる。
     行き詰まってしまうのは当事者には内密にことを進めようとしていたから。確かに必要なものは当事者の助力がなければ用意をすることは難しい。特にアルバーンに関わるものは。しかし、当事者のひとりであるサニーが考えるのなら話は変わってくる。そして、”品物”ではなく別の形で用意が出来るのであれば…
     思い浮かんだのは母親が作ってくれたとあるメニューのレシピ。凝ったものではないけれど、祖母から教わったものと聞いているから少しばかり無理矢理ではあるが”家族にまつわる古いもの”という条件を満たせなくはない。問題はそれで子供達が納得するかだったが、思いの外反応はいいものだった。
    「いいじゃんそれ!それにしよ!」
    「うん、アルバンもきっと喜ぶよ」
     すぐさまコトカとヴェールの声があがり、レンも笑顔で頷く。だが、鏡だけが難しい顔で考え込んでいたかと思うと、サニーを真っ直ぐに見据えて問いかけてきた。
    「その材料は揃えられるものなの?」
     そう、そこがネックになる。日常的に作っていたものであるから、高価なものを使用していたということはない。ただ、この村の立地が問題となる。一般的には流通しているものであっても、物によってはこの村では希少な品になってしまうのだ。
     薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩に卵。このあたりがキッチンにあるのはサニーも把握している。けれど、最も重要な材料だけがない。他の材料と違い、嗜好品としての側面が強いそれを村の雑貨屋で取り扱っているかというと可能性は低いだろう。いっそのこと城下町にまで足を伸ばすか。そう、サニーが気落ちした様子の子供らを見ながら考えていると、鏡の言葉を受けて何やら考えていた様子のレンが口を開いた。
    「それ、作ることはできないのかな」
     普通なら無茶を言うなと一蹴されてもおかしくないところだが、錬金術という方法を用いたなら或いは。
    「依頼で果実酒を作っていたこともあるし、出来ないことはないと思う」
     確証がないせいか鏡もはっきりとは言い切らなかったが、それを聞いたヴェールが同意するかのように確かにと呟き、コトカはしょげかえっていた表情をパッと晴れやかなものにする。
    「うんうん、いけるよ!」
     そうして4人で顔を見合わせて頷くと、子供達は作戦会議再開とばかりに真剣な面持ちで口々に話し始めた。落ち込んだり喜んだり忙しいわりに切り替えが早いというかなんというか。呆れ半分、感心半分でサニーがその様子を見ていると、視線に気づいた鏡がムッとした表情で振り返る。
    「ちょっと、なに他人事みたいな顔してんのさ」
     そんなつもりはないのだが、訴えるような視線をいくつも向けられてはさすがに据わりが悪い。ダメ押しとばかりにレンに手招きもされ、やれやれと息を吐くとサニーもその輪の中に加わるのだった。





     近頃アルバーンには気になっていることがあった。それは工房によく顔を出す子供達のこと。4人がこっそりと何かを計画しているらしいことは気付いていたのだが、どうやらそれにサニーも協力しているらしいのだ。
     用事が出来たとコトカとヴェールが早くに帰っていったあの日。夕方頃に今度は4人揃ってやってきたかと思えば、その口から出てきたのは予想していなかったお願いごと。
    『林檎ジュースを作りたい?』
    『そうなの!どーしても必要で!』
    『材料はちゃんとこっちで用意するから作り方を教えてほしいんだ』
     両手をあわせてお願いのポーズを取るコトカの隣では、ノートとペンを手に鏡が既に準備は出来ていると主張していた。元々、簡単な調合の仕方などはレクチャーしていたからそれ自体は構わない。目当ての品も危険なものではないし。おそらくサプライズに必要なものなのだろう。しかし、気になったのはそこではない。
    (サニーに隠してる訳じゃないんだ…?)
     その場にいたのは子供達だけではなかった。後ろに見えるはまるで子供達の付き添いのように控えているサニーの姿。てっきり秘密にしているのだと思っていたが、あの分ではむしろ協力しているようにすら見える。いったい何をしようとしているのか。いくら考えてみても見当もつかなかった。
     結局その日は時間もかかってしまうからと必要な材料だけを伝えて続きは翌日に。材料のひとつである蜂蜜の調合に必要な蜂の巣の入手に関してだけ難色を示してみたものの、サニーに採ってくると言われてしまえばそれ以上言えることもない。気になりはするがまずは子供達の望みが優先。私情はひとまず置いておく。
     そして翌日、普段の調合とは異なりあくまでも指導することに徹したものだから思った以上に時間がかかってしまい、ようやく完成にこぎつけたのは夕暮れのこと。だが、丸一日かけただけあって蜜色の透きとおったジュースは見た目も味も売り物と遜色ないと言っていい出来に仕上がった。
     子供達が喜んでいる姿を見るのは嬉しい。それが自分の教えた知識によるものならなおのこと。だが、ひと段落したからこそ気になってしまう訳で、子供達に気付かれぬようこっそりとサニーの隣に移動すると、アルバーンは指先で服の裾を引っ張り意識をこちらに向けさせた。
    「サニーは何しようとしてるか知ってるの?」
     目線は正面を向いたまま、小声で問いかけてはみたものの返ってきたのはまあ…という歯切れの悪い言葉だけ。誤魔化す訳でもない態度にちらと視線を上向けると、同じく様子を窺おうとしていたらしい瞳とかち合い、つい唇をとがらせて拗ねたような態度を取ってしまう。
     子供達の隠し事は余程のものでない限り構わないけれど、サニーにそれをされるのは面白くない。僕だけ仲間外れにするの?なんて、悪戯心も疼いて視線で訴えていると不意にその距離が詰められる。そしてふっと視界が陰ったかと思えば、柔らかな分け目から覗く額にサニーの唇が触れていた。
     予期せぬ行動に一瞬驚いで目を丸くするも、アルバーンはすぐに眉尻を下げて仕方ないなぁと笑う。戯れにのったご機嫌取りの効果は絶大で、不機嫌なポーズを保つことなどできるはずがない。とはいえついつい漏れてしまった笑い声が気付かれないはずもなく、いつのまにか4対の視線が集まっていることに気付いたアルバーンはまた違った意味で困ったように笑うしかなかった。





     翌日、空は雲一つない洗濯日和の快晴。丁度いいから仕事道具の日干しもしてしまおうと朝から忙しなく動いていたアルバーンが室内に戻るとサニーの姿が見当たらず、どこに行ったのだろうとキッチンを覗くとようやくそこで姿を見つけることができる。彼がそこに立つことは珍しくはない。その際に作り出される料理の数々は楽しみでもあり、今日はいったい何を作るのだろうといそいそと近付くとアルバーンはその手元を覗き込んだ。
     並んでいるのはボウルと小鉢に入った白い粉、シュガーボックスと塩の入った小瓶に卵。そして、昨日子供達が完成させた林檎ジュースの入れられたピッチャー。どうしてこれを?そう問いかけるように視線を向けたアルバーンだったが、サニーは素知らぬ顔で作業を続けるばかり。その態度に思わずむぅと目を据わらせていると、ふっと笑って後方を示された。
    「お前はあいつらの相手な」
     促されるままに振り向くより早く、聞き慣れた声がアルバーンの耳に飛び込んでくる。
    「アルバン、こっちこっち」
     そこにはいつの間に来ていたのか、にっこりと笑って手招いているレンの姿が。それにサニーは”あいつら”と言っていたからには他の子等もいるのだろう。これからいったい何が起こるというのか。戸惑いつつも部屋を移動すると、そこには思った通りコトカ・鏡・ヴェールの姿もあった。
    「みんな揃ってどうしたの?」
     これが子供達の計画していたサプライズなのだと気付いてはいる。それでもいつもと変わらぬ調子でアルバーンが問いかけると、目くばせをし合う3人に代わってレンが口を開いた。
    「今日はね、俺達からアルバンとサニーにプレゼントを用意したんだ」
     半分は予想通り、けれどもう半分にアルバーンは首を傾げる。そこでサニーも対象に入っているのに、本人も協力しているらしいのは何故なのだろう。そんな疑問を抱いている間に、一歩進み出た鏡が両手に収まる程度の小箱を差し出してきた。
    「まず一つ目は”新しいもの”」
     不思議そうに受け取ったアルバーンが箱を開けると、中に入っていたのは光沢のある柔らかな黄金色のイヤーカフ。色味や輝きの感じからいって真鍮だろうか。まさか子供達からアクセサリーを贈られるとは思ってもみない。そんな驚きからアルバーンが目を丸くしていると、コトカが期待を隠しきれない様子で口を開いた。
    「ねねっ、つけてみて!」
    「う、うん」
     ねだられるままに姿見に向かいつけてみると、クロスするふたつのフープは耳たぶを囲うようにゆったりと弧を描き、デザイン自体はシンプルながらも光を受けてキラキラと輝き目を惹く。その品を気に入ったのは勿論、やはり子供達からの贈り物だということが嬉しい。自然と表情が綻び、感謝の言葉を伝えようと振り向いたアルバーンだったが、声を発するより前にヴェールに手を引かれ次のサプライズへと導かれる。
    「次はこっち、座ってアルバン」
     手を引かれ移動した先は食事などに使用しているテーブルセット。言う通りに腰を下ろし、何が始まるのかと待っていると、目の前に立つヴェールが後ろ手に何かを隠したままニンマリと笑みを深めた。
    「二つ目は”借りたもの”だよ」
     そう言うが早いか、アルバーンの頭にふわりとあるものが被せられる。上半身まですっぽり覆っているのは細かな刺繍が施されたレースの生地。ビーズ刺繍を取り入れたデザインは動く度に華やかに煌めいて美しい。そして、それの正体を察することが出来ないほどアルバーンも鈍くはなかった。

    ――これじゃあまるで、

     しかし、それを確かめる前にキッチンに続く扉が開き、白いプレートを手にサニーが姿を表す。目があった瞬間は少しばかり驚いた様子も見えたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべ、ゆったりと歩みを進めてアルバーンの傍らでその足を止めた。
    「お待ちどうさま。三つ目は”古いもの”、うちのレシピで作ったパンケーキだ」
     テーブルに置かれたプレートの上には綺麗な焼き色のパンケーキが3枚重ねられ、中央にはバターが一欠片。シロップなどはかかっていないものの、じわりと溶けだしたバター液が生地に染みこんで食欲をそそる。
    「まあ、こじつけみたいなもんだけどな」
    「ちょっと」
     他人事のように付け加えたサニーに鏡が噛みつきそうになると、さっとレンが間に入ってそれ以上続けさせないのも見慣れたもの。しかし、その手にはいつの間にか小さな可愛らしい花をいくつも咲かせた長い花茎があった。
    「最後の四つ目は”青いもの”なんだけど、これは俺からじゃなくてサニーから渡した方がいいね」
     そう言いながら向けられた視線にサニーは僅かに目を据わらせる。けれど、そんな態度に臆する様子もなく、レンはにっこりと笑顔を保ったままでその花をサニーへと差し出した。
    「…ったく、こういうのにノるのはこれっきりだぞ」
     わざとらしく溜め息を吐いてから受け取られた花は、そのままアルバーンの目の前に。
    「ここまで揃ったら、こいつらが何をしようとしてたのか分かるよな?花嫁さん」
     分からないはずがない。でも、こんなサプライズが待っているなんて予想もしなかった。戸惑いながらも青い小さな花―デルフィニウムを受け取ったアルバーンが視線を巡らせた先では、子供達がやりきったと言わんばかりの満足気な表情を浮かべている。そして再びサニーに向き直ると、その瞳が穏やかに細められ、吸い込まれてしまいそうな碧にアルバーンは思わず胸を高鳴らせた。
     そうしている間に、青い花を持つ手を包み込むようにサニーの両手が重ねられ、触れられた場所が熱を持つ。目を逸らすことも、瞬きひとつすることも出来ない。すると、触れていた片方の手が不意に離れ、薄っすらと紅潮した頬へと添えられる。そして次に聞こえてきた言葉に、アルバーンはハッと息を呑んだ。

    「病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、俺に愛されて一緒に生きてくれますか?」
    「――っ…」

     結婚式ではお決まりの誓いによく似た言葉。特別、結婚式に憧れをもっていたなんてことはなくて、指輪だって左手の薬指にはめる為に用意されたものであったから自然とそこに納まっただけ。だからそこに思い入れなどないはずなのに、胸がいっぱいになってしまってうまく言葉が出てこない。こんなの、泣いてしまいそうだ。
     声を詰まらせ、こみ上げるものを堪えようとアルバーンが唇を引き結ぶ。するともう片方の手も伸ばされ、両頬が包み込まれたかと思えばふたりの距離は吐息がかかるほどに近づいていた。額がこつりと合わせられ、目を伏せたままサニーの言葉が重ねられる。
    「アルバン、答えて」
     穏やかに促す声につられてアルバーンの表情が綻ぶと、その瞳からはぽろりと涙が零れ出た。

    「はい、悲しみ深い時も喜びに充ちた時も、共に在ると誓います」

     そうして誓いの言葉を紡いだ唇はすぐに柔らかな感触に塞がれる。そこでわぁと小さくあがった声でようやく子供達の存在を思い出したけれど、それでふたりが離れることはない。触れるだけの口付けは普段のものとはまるで違ったけれど、唇から伝わってくる温度の心地よさにアルバーンはしばし浸っていた。
     どれくらいそうしていただろう。たっぷりと時間をかけた誓いのキスはどちらからともなく唇が離れていったことで終わりを迎えたものの、代わりとばかりに今度はぐいと腰を引き寄せられる。予期せぬ行動にアルバーンが驚いてその顔を見ると、視線の先では打って変わってサニーが不遜な笑みを浮かべていた。
    「ほら、これで満足か。お前ら後はパンケーキ食ったら帰れよ」
    「「「言い方!!!」」」
     子供達に見せつけるような言動に対してあがった不満の声は3つ。動じずに切り分ける準備を始めようとしているのはレンくらいのものだ。先ほどまでのムードはどこへやら、一気に戻ってきた日常の空気にアルバーンもやれやれと笑うしかない。けれど、それこそが平穏の証。ロマンチックではないかもしれないけれど、胸に広がるこの幸福感はあまりにも温かで優しくて、何ものにも代え難い。
     しかし、それとは別に少しだけ欲張りな心も疼きだしていた。わいわいとパンケーキを囲んで切り分け方について話し合っている子供達を見守りながら、アルバーンは未だに腰を抱き寄せたままのサニーに視線を向けてから自らも身を寄せる。
    「後で続きする…?」
     すり、と甘えるような仕草で囁いた言葉はたったひとりにしか聞こえない。欲張りになってしまったから、優しく触れられるだけでは物足りないと胸の奥に灯った熱が訴えていた。それに対しての答えは分かりきっている。言葉の代わりにふっと微笑んだ瞳にもよく見知った熱が。そして掠めるように落とされたサニーからの口付けにまた、アルバーンは幸せそうに笑うのだった。
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    フィンチ

    DONEふわっとしたMHパロ、ガノレク🔗×アイノレー🎭の馴れ初め
    仲良くなれるかな? とある村のアイルーキッチンで働き始めたアルバーンには悩みがあった。仕事自体は新入りということもあって覚えることも多く大変ではあるが違り甲斐がある。コック長は厳しくも懐の大きいアイルーであるし、手が足りてないようだと働き口として紹介してれたギルドの職員も何かにつけて気にかけてくれている。それならばいったい何が彼を悩ませているのかというと、その理由は常連客であるハンターの連れているオトモにあった。
    「いらっしゃいニャせ!ご注文おうかがいしますニャ」
    「おっ、今日も元気に注文取りしてるなアルバにゃん」
    「いいからとっとと注文するニャ」
     軽口を叩きながらにっこりと愛想の良い笑みを浮かべてハンターを見上げるアルバーンは、傍らに控えているガルクからの視線にとにかく気付かない振りをする。そう、このガルクはやってくるとずっとアルバーンを見てくるのだ。しかも、目が合っても全く逸らさない。ガルクの言葉など分からないから当然会話も成立しない。初めて気付いた時には驚きつつもにこりと笑いかけてみたのだが何か反応がある訳でもなく、それはそれは気まずい思いをした。だからそれ以来、気付かない振りをして相手の出方を窺っているのだが、今日も変わらずその視線はアルバーンを追っているようだった。
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