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    帽子屋(とある星の語り部)

    うちよそは、穏やか雰囲気で。
    うちの空は、ほんのりビターな雰囲気で。

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    POIPOI 26

    蠋とにこ君
    柴郡と愉快な仲間たち

    邂逅「この間言っていた知り合いに会ったよ」

    各エリアの導き手同士の定例会議の後、帰り支度をする蠋に柴郡が話しかけてきた。この後、旧知の仲間で飲みに行く予定のため、自分を待っているのだろう。

    「峡谷で会ったのか?よく分かったな?」
    「偶然ね。協力を頼んでくれたそうだね?ありがとう。お蔭で良い結果を得られたよ。」

    まだ他の導き手たちが室内にいた為、彼らは普段の気安い話し方ではなく、所謂『立場を守った話し方』を続ける。

    「探しものは見つかったのか?」
    「いや…近付いたといったところかな」

    「無茶と無理はするなよ。お前は昔から…「分かっているよ。…どうして弟子たちと言いお前といい、説教くさい事を言うだい?私の保護者でもあるまいに」…自分の胸に手を当てて今までを考えてみろ」
    「身に覚えがないな」

    笑顔でしれっと答える柴郡に呆れた目を向けると、柴郡はクスクスと笑う。蠋や親しい仲間の前でのみ見せる砕けた笑い顔だ。

    「おーい!まだ準備終わらないの?早く行こうよ〜」

    出入り口の扉の前で、仲間の星の一つが手を振って彼らを呼ぶ。蠋と柴郡は軽く返事をし肩をすくめて、彼らの後を追った。

    ―――――

    「さっきわぁ二星だけで何を内緒話してたのぉ?怪しいなぁ面白い事なら一口噛ませなさいよぉ」

    峡谷『夢見の街』にある飲み屋の個室。仲間6星で飲んでいると、既に酔いが回った雅(ミヤビ)が柴郡の肩に顔を乗せ絡んできた。彼女は酔うとスキンシップが増すので、絡まれると面倒なタイプだ。

    「相変わらず酔うのが早いな…たいした話じゃ無いよ。俺の探しものを蠋の知り合いが手伝ってくれたから、礼を言っただけだよ」
    「なぁんで蠋にぃ、お礼を言うわけぇ?」

    そう言うと、柴郡の肩に手を回して更に顔を近付けてくる。柴郡が小さく溜息を吐き、雅の顔を軽く押す。

    「顔が近い。酒臭いから離れてくれ」
    「ひっどぉい!こんなに可愛い女の子が引っ付いて来たのに…あ!照れてる?照れてるんでしょぉ♪もぉ♡かっわいいんだから柴郡ちゃんわぁ♡」

    雅は更に顔を近づけ、柴郡の頭を抱き締めるとぐしゃぐしゃと撫で始めた。柴郡は抵抗する気も起きず、されるがままになっていた。

    「『可愛い女の子』って自分でいうかねぇ…何歳のつもりたい?」

    「うっさいわよ蠋!そんなんだから、何時迄も恋星出来ないのよ。ガリ勉芋虫!」

    「はぁぁ?『恋多き星』なんて異名で手当たり次第に若い星の子に手を出すお前よりは、ましたい!俺は一途なタイプだけん、言われる筋合いは無か!」

    自分を挟んで頭の上でギャーギャーと口喧嘩を始めた酔っ払いの二星に、柴郡が文句を言おうとすると目の前で面白そうに笑って見ていた棗(ナツメ)が迷惑な助け舟をだした。

    「ちょっとちょっと?放って置かれて柴郡が寂しそうだよ?そろそろ喧嘩は止めて構ってあげなよ」
    「寂しくないし、余計な一言で面倒を増やすなよ」

    「「寂しかった⁇ごめん!」」

    二星に抱き付かれて、柴郡が慌てる。

    「引っ付くな‼︎…どうすんだよ。酔ったコイツらが面倒なの分かってるだろ⁈」
    「がんばれ♡」

    目の前で楽しそうに笑う棗を柴郡が胡乱げな目で睨むが、付き合いの長い棗は気にした素振りも見せない。

    「それで?どうして蠋くんの知り合いに助けられたんですの?柴郡くん」
    「また面倒ごとに首を突っ込んだんだろ…所属を持って随分と経つんだから少しは落ち着けよ。一応私たちの中では1番歳上なんだろ?」

    4星のやり取りを1番離れた場所で眺めていた凛(リン)と弦(ゲン)が、柴郡に話しかける。

    「弦は歳変わらないだろだいたい何で俺が何かした前提なんだ⁈逆かも知れないだろう⁉︎」

    「「「「「日頃の行い」」」」」
    「………お前らなんか嫌いだ」

    拗ねてそっぽを向いた柴郡を彼らが笑う。初期代からの長い付き合いだからこその気安いやり取りだ。

    「で?結局どうなのさ?」
    拗ねた柴郡の頬を突きながら、棗が尋ねる。

    「…俺の探しものの資料を、蠋が峡谷の知り合いに掛け合ってくれていたんだ。この間、その知り合いに会って手伝って貰ったから話を通してくれていた蠋に礼を言っていただけだ」
    「えっ?うち(峡谷)に来てたのぉ⁇私に言ってくれたら手伝ったのにぃ…蠋の知り合いよりぃ私の方を頼ってくれたら嬉しかったのになぁ」

    峡谷の導き手である雅が柴郡に寄りかかり上目遣いで見てくる。が、柴郡は視線を無視するとコップに残った酒を飲み干した。

    「蠋が知り合いを紹介すると言って来たから最初は断ったんだよ。手伝ってもらったのは成り行き。たいした調べものじゃないから雅に頼むほどじゃなかっただけだ。」
    「えぇぇ。柴郡、冷たいぃ」

    「あらあら。でも、蠋に峡谷の知り合いがいるのも珍しいですわね?どういったお知り合いですの?」

    凛が柴郡の横でニヤニヤと意味深に笑っている蠋に、首を傾げながら尋ねた。

    「ん?峡谷の裏通りでスイーツ巡りしとった時に知り合ったったい。神殿勤めじゃ無かごたるよ。色々と詳しいみたいやし、気の良い男前の兄ちゃんでチーちゃんに紹介しようとしたったい」

    「あんた…又うちに来てスイーツ巡りしてたのね」
    「文句あっや?」
    「べーつにぃ?」

    昔から馬が合わず、顔を合わせれば喧嘩する二星を放置して柴郡たちは飲み会を再開する。

    「話が脱線してばかりだが…結局スイーツ好きの男前を蠋がナンパしたら情報通だったから柴郡に紹介しようとしたって事で良いのか」

    弦が酒を飲みながら、蠋の方を向く。

    「ちょーと違うったいね。スイーツ好きの兄ちゃんやなくてな…」
    弦をニヤニヤしながら見つめ、蠋が持ったいぶる。

    「…気持ちが悪いから早く言え。何だ?」
    「正解は…俺と同じ『方言を使う男前』だからナンパしたったい♪」

    肩を落として下を向いた柴郡を、4星は憐れむように見て肩を叩いた。

    「それは…柴郡君が最初に断るのも分かりますわ」
    「怪しい以外のぉ何者でもないわねぇ」
    「僕も断るかな」
    「寧ろ…その知り合いをよく頼ったな?私なら逃げるぞ」
    「お前ら…そぎゃん俺が信じられんとや?俺の相手を見る目は確かぞ?」

    蠋が頬を引き攣らせて5星を見る。

    「彼が良い星の子だったのは確かだが…正直、どうやって仲良くなったんだ?」

    柴郡が、心底不思議だと言わんばかりの表情で蠋を見つめる。蠋は、自慢げに出会いを語り出した。

    ――――

    その日、蠋は趣味のスイーツ巡りの為に峡谷神殿近くにある裏路地を歩いていた。表通りにある華やかな店よりも隠れた名店を求めて歩いていた時、誰かの話し声が耳に届いた。普段なら気にせず通り過ぎるが、耳によく通る声が気になり周りを見渡した。

    すると、路地裏の奥に影が伸びているのに気付き、こっそりと近付く。奥には複数の仮面を付けた星の子と素顔の綺麗な星の子が立っていた。

    「(さっきの声はどいつだ?コイツら、こんな裏で何やっとっとかい?守護(治安部隊)でも呼んだ方が良かかいな?)」

    異様な雰囲気を感じ取り踵を返して守護部隊を呼ぼうとした時、綺麗な顔の星の子が仮面を付けた星々に声をかけた。

    「ほんなら、あとの警備は任せる。何かあったら報告頼むさかい。宜しゅうな。」

    仮面を付けた星々が飛び去り、路地に戻って歩き出した綺麗な星の子を追い、蠋が声を掛けた。



    「俺は蠋!こげん流暢に方言ば使う兄ちゃんは、ただ者じゃなかなぁ♡俺以外にも方言ば愛用すっ星の子おっとたいね♡嬉しかぁ♡仲良うしてな?兄ちゃん♡で、兄ちゃん名前なんてーの?あ!良かったら、そこのカフェでケーキ食べながら俺とお喋りしよう♡?」

    星の子の両手を握り、語尾にハートを乱舞しながらカフェに誘う蠋を路地を通る星の子たちが、目線が合わないよう避けて足早に通り過ぎて行った。

    ―――――

    居酒屋の個室が沈黙で静まり返る。
    「「「「「……………」」」」」

    「そんで、カフェでお茶しながらお互いのこつば話して楽しんで仲良うなったったい。やっぱ方言を愛するもん同士は、心が通じ合うったいね。良か出会いばい♪」

    満足げに頷く蠋を横目に、柴郡たちは同じことを考えていた。

    「「「「「(その星の子、災難だったな…可哀想に)」」」」」

    柴郡は、次に『彼』に会った時に労いの言葉を掛けようと心に誓っていた。
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