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    いちか

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    不思議な寫眞機の話

    最果ての勿忘草「ユリウス!」

    その呼び掛けにユリウスが振り返ると、カシャリとシャッターが切られ、ジジジと撥条の動く音がした。

    「……何だい、急に」
    「いいから、見てくれ」

    旧式の携帯寫眞機の向こうから顔を覗かせたアルベールは、寫眞機から吐き出された印画紙を取って駆け寄った。
    軽く振られたそれは、真っ白だった面が次第に色付き、先程の景色をそこに表す。しかし、そこに映るユリウスの姿は仕草はそのままだが今ここに居るものとはまるで違う。長い髪を項で一つに結い、円な眼を此方に向ける幼い子供のそれであった。
    魔法と機械の融合物といえば、温故知新の賜物だが、如何せん自分に降り懸かると気味が悪い。

    「そういえば……骨董市をやっていたね。警備のついでかとは思うが、まさか」
    「あぁ、興味深く見ていたらな、店の主人がそれならと譲ってくれたんだ」

    純粋さに付け込まれて法外な値段を吹っ掛けられたのかと危惧していたユリウスは別の角度からの理由に頭を抱えた。
    こんな珍妙な骨董品をあっさり譲るとなると明らかに怪しい呪いの類ではないか。
    アルベールは「過去の姿が映る不思議な寫眞機」を「ユリウスが興味を持ちそうだから」という理由で持ってきたらしい。流石に研究者とはいえ専門分野というものがあるのだが、彼にとって「ユリウスは有りと有らゆるものに造詣が深い」という考えなのだろう。
    好意を無碍にしたくない、という惚れた弱みに負けて寫眞機を受け取ると、ユリウスはシャッターボタンの横に並んだ摘みを見遣る。

    「……例えば、未来が見れるとしたら、君は見てみたいと思うのかい?」

    アルベールはその言葉に「ふむ」と二三度目を瞬かせると困ったように微笑った。

    「レヴィオンの未来は"俺たち"がこれから作るんだ。その答え合わせを先にされたくはないな」


    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    月明かりの差し込む部屋で影が動く。
    少し乾いた喉を潤し、眠気を誘う為にベッドを降りたユリウスは用事が終わると、机に置いていたままにしていた例の寫眞機を手に取った。シャッターの横の摘みを右に2つずらし、3つ並んだ目盛盤を左の1つだけ時計回りに回す。
    そうしてベッドへ戻り腰掛けると隣に寝ているアルベールも映る角度で自分へ向けてシャッターを切った。
    相変わらず軋んだような撥条の音と共に印画紙が吐き出される。
    月明かりに翳すそれは段々とその像を表していった。映るのは、今ここに居る姿のユリウスと――大きく丸く咲いた緑の薔薇の花。
    ぐしゃりと丸めて屑籠に棄てると、ユリウスは先刻の名残をそこに留めた避妊具を上から落とした。溢れて滲む体液に印画紙はその像を融かしていく。

    「……こういう物は下手に細工ができないからいけないね。"本物"は実に厄介だよ」
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