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    いちか

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    いちか

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    人魚パロ

    フローライトの銷魂雲一つ無い星月夜は、蒼白い網目を揺らめかせる水面とはまた違う景色を見せていた。
    束になって長く伸びる遥か彼方、数多の煌めきにあれも流れる水と同じようなものなのだろうとふと思う。
    目を閉じれば、漣の騒めき。岩場に腰を下ろし、肌に触れる空気を感じる。ここは切り立った崖と岩ばかりの小島の間、簡単に誰かが訪れるという場所でもない。
    そうして暫くゆったりと流れる時間を堪能した後、アルベールは尾に吸い付き絡む"何か"を感じて瞳を其方へ向けた。

    「……素直に出てきたらどうだ?」

    星の様に燦めく鱗を塗り潰し、ともすれば黒い水底に沈めようとすら思われる力で彼の躯を引いた其れは観念した様に水面から顔を出す。

    「君みたいに警戒心無く外の世界に出たくはないからねぇ……」

    ズルリ。巨大な触手が岩場へと伸び、吸盤を貼り付けて身体を其処へ引き上げる。アルベールが逃げること無く居られた、というのを理由に漸く外に出るつもりになったらしい。
    伸ばした触腕でアルベールの肩を抱き、自らは頭を腰掛けるその鱗の上へと乗せた。張り付く触手の先端を傍に引き寄せると、吸盤が頬に吸い付きリップ音の様な音を立てる。

    「ユリウス……お前、最近顔色がいいな」
    「ふふ、誰かさんのお陰でね。よく眠れているし、本意とは違うが栄養状態も良好だ」
    「そうか」

    よかった。と口許を綻ばせるアルベールへユリウスはそっと自らの腕を伸ばす。指先は喉を伝い、顎を通り、唇へと触れた。

    「だから、今宵も君の歌をお願いするよ。私だけの為に」
    「わかった」

    ぱしゃりと尾鰭が水面を叩き、暗い空に銀の泡を瞬かせる。それを合図に伸びやかで蕩けるような歌声が岩場中に響いた。
    ゆらゆらと近付いてきた珊瑚の様な淡い赤い灯りが、何かに挟まれてぐしゃりと壊れる音がした気がしたが、甘く浮かぶこの時間を引き裂くような邪魔者など居て欲しくはなかった。
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