思わず天を仰いだ。真っ白なシーツの上に影が落ちる。
衝動的だった。誰かを押し倒したことなんてなかったし、それが可愛くて大好きな恋人だったら尚更緊張してしまって、手に触れるだけで汗をかいてしまうほどだったのに。
色の違う両目がめいいっぱい見開かれたまま俺を貫く。どこまでも可愛い彼に心拍数は上がるばかりで、この状況にじわじわと顔が火照っている自覚があるけれど、それ以上に今は、触れたいという気持ちが強すぎて。
「アルバーン…」
「さ、さにぃっ!待って待って」
「んむ」
本能のまま唇を合わせようとしたら、両手の掌で押さえられる。拒否されたことに悲しくなってしまって眉を下げれば、慌てて彼は言葉を重ねた。
「ごめんサニー、キスが嫌なわけじゃなくて」
「…セックスがいや?」
「嫌なわけじゃなくて!」
その言葉に安心して両手をそっと退かせる。そのまま指を絡めて握って、そうしたら彼も応えるように握り返してくれた。
拒否されたわけではないのならばと柔らかい頬に軽くキスを重ねた。今度は止められずに受け入れられて、それが嬉しくて何度も何度も繰り返し触れる。ぷにぷにの感触が心地いい。食んだら怒られるかな。でも食みたい。
「聞いてる?サニー」
「あ、ごめん…ほっぺが可愛くて…」
「ちゃんと聞いてよ!」
集中してないことがバレてしまった。けど頬を膨らませるアルバーンも可愛い。今言ったら怒られるだろうから今度伝えようと心に決める。
「ごめんね、アルバーン。でも、嫌じゃないならどうして止めるの…?そういう気分じゃない?」
「…その、伝えないといけないことがあって」
神妙な表情に背筋が伸びる。なんだろう、bottomは嫌だ、とかなのだろうか。言いそうだ。でも俺も絶対絶対アルバーンを抱きたいしな。だってきっと可愛い。それになにより、他の誰かが触れた場所に俺だけが触れられないのはどうしても許せない。
はっきりと確認したことはないけれど、彼のバックグラウンドや純粋度テストを聞く限り経験がないなんてことはないだろう。それに対して正直何も思わないわけではないけれど、生きるための手段であり、それ以外方法がない状況だって想像できてしまう。なにより、今生きていなかったら俺と出会うこともなかったのだ。それならば、今までのことは一旦考えず、俺が彼の最後の男であればいいとひとまずは溜飲を呑むことにしている。
とりあえずtopがいいと言われた時用の返答を何通りか用意して彼の言葉を待つ。至極言いづらそうにうーあーと唸った後、(それも可愛い。)ゆらゆらと視線を惑わせながら薄い唇を開いた。
「…僕、…………だから、…」
「え?ごめん、もう一回言って?」
「………なんでそんな意地悪今するの!!」
「違うよ!本当に聞こえなかったんだ」
「うぐぐ…!」
歯を食いしばってまた唸っているアルバーンに、今度はちゃんと聞き取れるように耳を寄せる。数度深呼吸の音が聞こえた後、耳に程近い場所に吐息があたった。
「………僕、bottomの経験ないから、調べないと」
「………………………………えっ」
言葉を理解するのに数秒、噛み砕くのにもう数秒。アルバーンの顔を思わず見るのに数十秒。
視界に入った彼の顔は赤く染まって、視線の動かし方や表情を見るに俺を揶揄うための嘘には見えない。それがまた脳を揺らすほどの衝撃となって襲いかかってくる。
嘘でしょ。本当に?俺がアルバーンの初めて貰えるの?こんなに可愛くて優しい魅力的な子がしたことない?いや、topはしたことあるのかもしれないけど。あ、なんかそれもやだな。まあでもアルバーンがセックスするのは今後一切俺だけだし。生きるため生きるため俺に出会うため。え、本当に?
信じがたい情報量にアルバーンを見つめてしまう。居心地の悪いのだろう、繋いだままの手を離して逃げようとしているけれど、逃がさないと意を込めて強く握り込めば察したようですぐに抵抗をやめた。それでも視線だけは逃げることをやめず、うろうろと落ち着きなく動いて、最終的にきゅうと瞑った瞼に隠されてしまった。
「無言やめてよ…」
絞り出されたような声に。俺ができることなんて一つだけだった。