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    yukuri

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    yukuri

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    🔗🎭 社会人パロ

    こはくさん(cohaku_ship)との企画で書かせていただきました。

    #sonnyban
    inSonny

    絡まったその糸もきっと願った赤になる「サニー」
    「………………」
     窓から柔らかい月の光が差し込む夜半前。
     そっと呼び掛ければ、コアラのようにひっついていたその人に頭をぐりぐりと擦り付けられた。
     ついでにお腹の少し上に回された腕の圧も強くなる。
    「僕、明日早いんだ。だからもうそろそろ寝なくちゃいけないんだけど……」
     何とか穏便にこの腕を解いてもらおうともう三度目になる呼び掛けをするも、一向にその願いは叶わないばかりか、また抱き締められる力だけが強くなっていく。
     本来なら願ってもない状況の筈なのだが、アルバーンはそんな今に密かなため息をついた。
     今日は平日のとある日。
     かけがえのない愛しい恋人はここ暫く連勤で、なんでもすばしっこい犯人を捕まえるのに相当苦労していたみたいだ。
     久々の連休に突入した今日の朝、友達と飲んでくると言って出掛け、夕方頃ふにゃふにゃの声で仕事終わりの僕に電話を掛けてきた。
    『あぅばーん、会いたい』
     その声は甘いだけならず涙声で、僕は心配に逸る気持ちを抑えながら法定速度ギリギリで職場から車を走らせた。
    「サニー!」
     予め聞き出していた住所のお店に飛び入れば、そこに見えたのは完全に潰れてしまった彼と、予想通りの見慣れた顔。
    「よう。久しぶりだな、アルバーン」
     その温かい笑顔に不安はやっと僅かながら拭われ、勧められるまま空いていた席に腰掛けた。
     愛しの彼はその友人の隣の席で、やっぱり机に伏して寝こけている。
     僕はちょっとの安心と未だ胸を占める複雑な思いに息をついた。
    「やっぱりファルガーだったか。いいなぁ、サニーと一日一緒にいられて」
     その愛らしい寝顔と店内の光が透かした色素の薄い睫毛に惚けながら、元々は僕の友人であるその人に遠慮のない愚痴を零す。
     いつもなら半分呆れながらも良好な仲を喜んでくれるところ、彼はすっと真剣な顔になって問い掛けてきた。
    「最近、あまり一緒にいられないのか?」
     穏やかに笑う彼からは感じたことのない雰囲気を不思議に思いながらも、まだそれが違和感まで発展していなかった僕はその質問に素直に答えた。
    「ん、割と忙しくなっちゃって。サニーは年中お仕事大変そうだけど、僕のほうがね」
     友人はそうかと神妙な顔で頷き、グラスを呷ってから今一度決心したように言った。
    「俺にはふたりとも変わらず互いを想い遣ってるように見えるが、サニーのこと、どうかよろしくな」
     そこでやっと、確信に至った。暇があるならアルバーンと一緒にいたいと言ってくれる彼が、朝から友人と飲みに行くのだって本当はとても珍しかったのだ。
     頭の中で、実のところ朝からではなく最近ずっと気にかけていた細やかなひとつひとつの点と点が繋がって、流れるような線になっていく。もしかしたらサニーは気付いているのかもしれない。
    「勿論、だけど。……あのさ、なにか言ってたの?」
     ファルガーはその問いには視線を逡巡させてから、「すまない。言外しないと約束したんだ」と律儀に頭を下げてしまった。
     気にしないで、と手をひらひら振れば、真っ直ぐに光った瞳がまた僕を射抜く。
    「ただ、アルバーンが想っていることをちゃんと伝えてやればきっと大丈夫だと思うよ」
     優しく、力強くそう告げられてはもうその言葉を信じる他ない。
     どこかに刺さっていた欠片が溶けて、心を藍色に濡らした。
    「……わかった。なんとか、やってみるよ」
     そうして店を後にし、ファルガーにも手伝ってもらいながら愛しい恋人を背におぶって車まで運んだ。
     途中、寝言のように耳元で名前を呼ばれ、何故だか不意に泣きそうになった。
    車に乗り込み、運転席の窓を開けて声を掛けた。
    「ファルガー、今日は色々とありがとね!」
    「ああ。アルバーンも困ったことがあったらいつでも言えよ。友達だろ」
     そう言って勢いのまま酔っ払いに頭をくしゃくしゃと撫でられ、いつもなら振り払うものも疲れた心にはしっかり沁みてしまった。
     そんな自分に笑いながら、この年上の友人はどこかやっぱり大人なところがあるなと考えた。
    「うん。じゃあ、またね」
     うっかり泣いてしまわないうちにその場を後にする。
     手を振って見送ってくれるその人をサイドミラーに映しながら、目的地は一緒に住み始めてそろそろ一年が経つ我が家に設定した。
     道中、信号を待ちながらふと後部座席を振り返った。
    「サニー、」
     小さく呼び掛けてみても、返事はない。
    「…………ごめんね」
     付け加えたい枕詞はいっぱいあって、そのどれもが夜の闇に吸い込まれるように消えていく。
     溢れるような夜の街の光が、瞳を潤ませるように照らしていた。



     目を覚ますと、そこに彼はいなかった。シーツに残った温もりとほんのり香るシャンプーが胸を締め付ける。久しぶりの連休に入ったサニーに対してアルバーンは依然仕事が忙しいようだ。
     固く響く二日酔いの頭に黒い靄がかかる。最近、アルバーンとの仲が上手くいっていない。これがサニーの杞憂だったらいいと何度思ったことか。原因は最近のアルバーンの言動にあった。 
     ことの発端は三ヶ月ほど前、アルバーンの仕事が忙しくなり始めた頃だ。初めは本当に仕事が大変なのだと疑うことなく応援していた。
     違和感が生まれたのは、仕事帰りのアルバーンから知らない香水が香った時。甘すぎないローズのふわりとしたにおいが鼻についた。アルバーンの持っている物ではないし、サニーは香水を使わない。
     それから少しして、アルバーンの口から出てくる辻褄の合わない言葉が気に掛かるようになった。
    『今日も帰り遅いんだっけ?』
    『うん、ちょっとミーティングがあって』
    『この間ミーティングはオンライン参加になったって言ってなかった?』
    『あー……そうなんだけど、今日のは直接打ち合わせないといけないやつで』
    『ふーん』
     今まで職場に残っての残業より家に作業を持ち帰ることを好んでいたアルバーンが外に長くいるようになったこと。言い淀む姿に黒に近いグレーを混ぜてしまうのは、悪い職業病だと分かっていても止められない。

     怪しく思うのは家にいるのが少なくなったからだけじゃない。
     ある晩、風呂から上がって寝室に向かうと、スマホを眺めていたアルバーンはサニーに気づいて急いで携帯の電源を落とした。
    『もう寝る?』
    『サニー…!うん、寝よっか』
    『何見てたの?』
    『えっと…ちょっと仕事の連絡返してただけ』
    『どの人?』
    『さ、最近入った新人さんで…サニーは名前知らないかも』
     誰かと連絡を取っていても、これまでそんなよそよそしい態度をされたことはなかった。アルバーンの同僚、先輩後輩の名前はあらかた把握している。いつもだったら二つ返事で教えてくれる連絡相手の名前が出てこなかった。
     浮気、の二文字が浮かび上がったのはこの頃。疑惑というレベルだが一度思い至ってしまえば車輪が坂を転がるように思考が回る。
     帰りが遅くなったこと、香水の匂い、何かを隠しているのであろう仕草。気になり出したらキリがない。交際から二年、同棲を始めて一年。世間一般のカップルで言えば、お互いに程よく距離を置いて落ち着き始める時期だ。頭でいくら自身を諭そうと落ち着こうと試みても、日々増えていくばかりのアルバーンへの気持ちが手元に残り、焦燥感を焚き付ける。
     
     サニーはソファに置かれていた自身の鞄を漁って小さな箱を取り出した。
     中にはアルバーンに渡すつもりで用意していた婚約指輪。サニーとアルバーンの住んでいる地域では同性婚が認められている。数ヶ月前購入したこの指輪、いつ渡そうかと考え始めた辺りでアルバーンの浮気疑惑が浮上した為、ずっと足踏みをしている状態だった。
     不安な気持ちを胸にソファへ体を沈める。テレビラックには2人の写真が飾られている。共通の友人と遊びに手掛けた時の写真、記念日のデート、旅行。どれもアルバーンの笑顔がよく映って、可愛いと思うほど胸が苦しくなった。


    『声、格好いいですね!』
     これがアルバーンからサニーへの第一声、恋に落ちた瞬間だった。出会ったのは共通の友人が集う飲み会。飲酒をしないサニーは家で睡眠を貪る方が効率的だと普段は誘いに乗らないものの、この日はなんとなく行こうと決めた。理由は久しぶりに居酒屋のおつまみを食べたくなったからとかほんの些細なこと。好みのおつまみを堪能しながら烏龍茶をちびちびと飲み進めていると、テーブルの反対側の端から聞こえてくる特徴的な笑い声が耳に響いた。それがアルバーン・ノックス。知り合いの知り合い、として紹介された時に声を褒められ、瞳に飛び込んできたアルバーンの笑顔がサニーの胸を射抜いた。きらきらした効果音がつきそうなほど明るい微笑みはこれでもかと胸の奥を掴んで鳴らした。
     二人はすぐに意気投合し、色んな場所へ出かけた。みんなに人懐っこい笑顔を向ける人気者のアルバーン。その表情を一番近くで見ていたいと思うようになるまで、それほど時間はかからなかった。恋心が募るほど湧いて出てくる独占欲を吐き出すように想いを打ち明けた。同じ気持ちだと言われて見つめたアルバーンの瞳が潤んでいて、思わず抱きしめると服越しに伝わってくるアルバーンの鼓動が細くも力強かった。
     時に友人のようにふざけ合ったりしながらも、常にお互いを心の一番柔い部分に置くことを許した。仕事柄、何事も否定や疑いから入るサニーの心が唯一落ち着ける場所がアルバーンの隣になっていった。
     お互いの家を行き来して、お泊まりをして。そんな日々を重ねるうちに、サニーの部屋には、もうどちらが家主か区別もつかないほど物が増えた。二人だけの生活感が漂う部屋で同棲を始めたのも、より近くに相手を感じて、いつも自分ではない誰かの呼吸が聞こえることが心を穏やかにさせるのも、相手がアルバーンだからに他ならない。溌剌さの隙、ふいに垣間見える寂しがりやな子供をアルバーンの中に見つけては、毛布とココアで包み込んだ。「好き」「愛してる」の言葉と髪や耳に落とす軽い口づけ。擽ったそうに照れて染まる頬が可愛くて、思う存分甘やかした。

     野菜嫌いの彼に秘密で食べさせようと、キッチンで食材を細かく刻んでいると背中に温もりが伝わってきたことがあった。
    『あー!!』
    『あ、バレた』
    『それはサニーの分でしょ…?』
    『アルバーン用だよ』
    『うぇぇ、僕それ好きじゃない』
    『大好きな俺が調理しても駄目?』
    『……』
    『一口食べてみて無理そうだったら俺が食べるから』
    『……頑張ってみる』
     俯いて見えた愛らしいつむじにキスをして、心を込めて調理した。
     目を閉じて大きな一口を。しっかり味わって飲み込んだ後『……おいしい』と溢れた言葉が嬉しかった。すっかり綺麗になった皿をこちらに向けて誇らしい表情を浮かべるのが可愛くて、頭を撫でて褒め倒した。

     野菜克服のお礼にとアルバーンがブラウニーを作ってくれたこともあった。一人暮らしをしていたアルバーンは料理や洗濯など家事は一通り出来るものの、アートのセンスは我が道をいっていた。綺麗に焼けた生地の上にみみずのような線で描かれた何か。
    『これは…魔女、かな?』
    『サニーを描いたんだけど…』
     誤魔化すように食べたブラウニーの味はサニー好みのビターめで美味しかった。とびきり美味しいお菓子と不器用なセンスがアンバランスで二人して吹き出し、頬が痛くなるほど笑った。

     仕事で失敗をした日、サニーが辛い夜には決まってアルバーンが癒しをくれた。帰宅して玄関まで迎えに来てくれるアルバーンがサニーの表情を見落とすことは一度もなく、とびきりの笑顔と優しさでサニーの心を溶かした。眠りにつくまでアルバーンが隣に居てくれる。ただそれだけのことで、幸せを感じながら眠りにつくことができた。

     たまに休みの日が合うと、ゲームをしたり映画を見たりして夜を更した。ホラーはお互い得意な方で、むしろ描写のエグいスプラッターやサイコホラーに二人でヤジを飛ばしながら楽しむほどだ。
     アルバーンが決まって甘えてくるのは、ホラー映画の後よりも家族がテーマの映画を見た後。詳しいことは聞いていないが、アルバーンは幼い頃に両親を亡くし齢一桁にして天涯孤独の身になったらしい。
     抱きしめて眠るたび、肌の温度を分かち合うたび、アルバーンの側に居られる幸せを実感した。表情で仕草で、愛らしい癖っ毛を愛でて撫でては、誓うように愛を囁いた。サニーの送る全ての愛を、余すことなく毎回大切そうに受け取るアルバーンと一生を共にする決断に至る際に迷いなど一切なかった。
    「…なかったんだけどな」

     自分は独占欲が強い方だとアルバーンと付き合ってから自覚するようになった。過去の交際経験では気にならなかった相手の細かい人間関係まで気にしてしまう。自分以外と出掛けるときは誰と何処にいるのかをなんとなく把握しているし、話の中で出てきた仕事関係の人間は名前を覚えている。問いただしたり疑ったりはしていない、アルバーンが話したことは自然に長期記憶として保存されるだけだ。
    『ここまでサニーの愛が重たいとは…愛し方は人それぞれだな』
     と以前ファルガーに言われたこともある。それなりに人より愛が重いと自覚しても、アルバーンが嫌な顔をしない限り特別悩むことではないと思っていた。今になってそういう所が重かったのかとか、実は我慢していただけで嫌がっていたのかとか、気を抜くとらしくもない嫌な妄想に頭が支配される。

     ふと気がつくと、時計の短針はとうに右下まで回っていた。昼過ぎに起きてからテレビを雑多に漁って眺め、これといって何をするでもなく夕方になってしまった。
     夕飯だけでも作っておくか、と腰を上げたところで通知音が鳴る。アルバーンが珍しく今日は早く帰宅するとの連絡だった。
    『帰ったら話したいことがあります』
     珍しい語尾と只事ではないような予感。疑惑が真実味を帯びて、震える心を振り切って婚約指輪をポケットにしまった。



     サニーと出会えたことはアルバーンにとって人生で一番の幸福だったと言える。
     物心ついた頃から自分は施設の子で、年が同じか少し上の子供たちと寝食を共にして過ごす生活。施設での日々は賑やかだったけれど、心の隅にある飢えが満たされることはなかった。
     高校を卒業して施設を出る時、よく気に掛けていてくれた施設のお兄さんに言われた言葉。
    『いつかアルバーンが甘えられる人に出会えるといいね。遠くからだけど応援してるよ』
     これまで、出会いに恵まれて優しい人に囲まれて生きてこられた。家族のように接してくれる施設の人も、身寄りがないことを変に意識せずに接してくれる友人も先生も。
     十分周りに甘やかされていると自負していたアルバーンは、サニーと出会って恋人になり、数年越しにその言葉の意図を理解した。
    〈やっぱり言葉で伝えてくれるのは大事ですよ〉
    〈え〜?私は口先より行動で示してくれってなっちゃうなぁ〉
     なんとなく合わせたチャンネルでやっていた深夜のトークショー。テーマは恋人への愛情表現について。
     恋愛経験が乏しい訳ではないが、アルバーンは愛情表現が苦手だった。貰った分はきちんと返すことができる。好きと言われたら同じ温度で好きと返せばいいからだ。しかし自分からの一方的な愛情を伝えるとなると抵抗があった。どれだけ踏み込んでいいのか、自分がどこまで許されているのか分からないから、分かってしまうのが怖いから。
     好きや愛してるの言葉をくれるのはいつもサニーから。自分でも分かってはいたが、他人の話を聞いていると気にしていた部分に突き刺さった。
    『サニーもこういうの思ったりする?』
     恐る恐る見上げた先には蜂蜜に砂糖をかけて煮詰めたような瞳があった。
    『心配しなくても大丈夫だよ、俺が一番だって分かってるから』
     そう言って頭を撫でて、いつものように髪の毛に唇を落とす。彼の寵愛はいつだって温かくアルバーンの愛を許した。
     自分のサニーへの愛を誰よりも深く自覚してくれている恋人が心強くて、頼もしくて愛おしい。

     どのように立ち振る舞ったら、相手は喜ぶのか。子供の頃からの悪癖をサニーの前では気にせずにいられた。自分をありのままの姿で愛し愛されてくれるサニーの存在はかけがえのないものになり、いつしか遠い昔に別れた顔も知らない両親に思いを馳せることもしなくなった。


     そうして交際から三年が経った今日、アルバーンはそのかけがえのない恋人サニーに重大な告白をすることにした。
     サニーが作ってくれた夕食を堪能しダイニングの席に着いて向かい合う。話したいことがあるとメッセージで前置きをしたからか、サニーの顔にもどこか緊張した面持ちが浮かんでいた。
    「……最近忙しくて二人の時間作れなくてごめんね」
    「……」
    「僕の勝手な理由だからサニーにはずっと伝えられなくて」
    「…やっぱり」
    「もしかして、気付いてた?」
    「……うん」
    「そっか。秘密にしておきたかったんだけど」
    「俺に隠せると思ったからやったの?」
    「こういうのって普通隠してやるものなのかなって」
    「まぁ恋人に言ってやる人はなかなかいないよね。事前に言われて許す訳がないし」
    「サニーの鋭さを甘く見てたよ」
    「それで、相手は?」
    「相手?」
    「どこのどいつ?」
    「え、そんなのサニーが一番分かってるんじゃ」
    「俺が知ってる奴って……まさかファルガーとか?」
    「え?サニーしかいないでしょ!」
    「は…??」
    「気付いてたんじゃないの?」
    「何に?」
    「何にってサニーは何のことだと思ってたの」

     数秒の沈黙と困惑、順序立てて話を進める。二人の間にあった人知れず拗れ絡まった糸の塊を少しずつ解いていくように、誤解が解けていった。
    「え!?僕が浮気してると思ってたの?」
    「帰り遅いのがこんなに続いたことないし、最近なんかよそよそしいし」
    「ごめん。寂しい思いをさせてるのは十分分かってたつもりだったけど、そこまで思い込んでたとは…」
    「じゃあアルバーンが忙しかった理由って何?本当に仕事だけ?」
    「仕事は本当なんだけど…実はこれを用意をしてて」
     アルバーンが机の上に出したのは紺色の小さな箱。中には給料数ヶ月分のダイヤモンドの指輪。
    「これからは寂しい思いをさせないように頑張るので、僕と結婚してください!!」
     顔を見上げた先には、なんとも言えない表情のサニー。怒っているのか感動しているのか、目の表面にみるみる水が溜まっていく。
    コトン
     音を立てて目の前に置かれたのはアルバーンの手にある箱と瓜二つな立方体。
    「サニー?」
    「……する」
    「うん?」
    「俺もアルバーンのこと世界で1番幸せにする」
     二つの開かれた箱にはきらりと光る指輪が一つずつ。アルバーンへの疑いは同じ形をしたお互いへの愛を見せ合う形にて終幕を迎えた。






     マグカップを手にベッドルームを開けると微睡むような甘さに包まれる。先程まで肌と肌を合わせて近くにいた恋人は布団にくるまって丸くなっていた。
    「あるばん、ココア飲む?」
    「ありがと。んん"……ぼく声変?」
    「ちょっと掠れてるね、ごめん」
    「久々だったし、嬉しかった」
     擦り寄ってくるアルバーンの肌から伝わる温もりを辿って指をいじる。お互いの薬指に光る宝石が、カーテンの隙間から入る月を反射させさらに輝いた。
    「沢山付けてくれたのも嬉しかった」
     アルバーンは身体についた赤い執着の痕を愛でるように撫でて笑った。
    「取られたくないって、最近そればっかりだったからつい」
    「僕も付けていい?」
    「もちろん」
     鎖骨に吸い付くアルバーンの唇はアヒル口になっている。たまらず顎をすくってキスをした。
    「キスしてたら付けれないよ」
     そうやってまた無邪気に笑うアルバーンはやっぱり世界一で、唯一と無二を掛け合わせた存在に一途に愛を注ぎ込む。
     笑い声に混じって時折漏れる嬌声が艶やかで、押し倒すようにしてまた肌の温度を確かめ合った。
     夜更けの月は二人の世界を包み込んで柔らかく、ただ見守るように夜空に浮かんでいた。






     数日前まで恋人のことで悩んで泣きそうになっていた男、サニー・ブリスコーは真剣な眼差しでファルガーに言い放った。
    「俺たち、結婚することになりました」
    「結婚します!」
     記者会見にでも出ているかのようなハキハキとした発声でアルバーンも後に続く。二人の薬指にはダイヤが輝いていた。
    「そうか、おめでとう」
    「あんまり驚かないね」
    「突然のことすぎてな…正直まだ理解できてない」
    「あはは」

     アルバーンがキッチンへ向かったのを確認して、ファルガーはサニーに耳打ちする。
    「気にしていたことは解決したのか」
    「ああ、あれね。勘違いだった」
    「勘違い?」
    「アルバーンが秘密でプロポーズしようと仕事増やしたり、お店に寄ったり連絡取ったりしてたんだって」
    「香水とか言ってたのはなんだったんだ?」
    「下見に行った時ちょうどそのジュエリーショップで限定の香水を出してて、店員さんに勧められるがままテスターを付けたって」
    「なるほどな」
    「話聞いてくれてありがとう」
    「あれくらいなんでもない。今度は結婚生活での愚痴でも聞かせてくれ」
    「二人とも何話してるの」
     割って入ったアルバーンの頬はわざとらしく膨らんだ。あざとさも容易に武器に出来てしまうこの男は、揺るがない強さを持つサニーの心を今日も掴んで離さない。何よりサニー自身がアルバーンにそうされることを望んでいる。
     奔放さと実直さ、一見交わらないような二人の糸は赤く染まって結ばれて、収まるところに収まるらしい。
     恋愛相談が得意な訳ではないが、この二人になら頼られても悪くないと思ってしまう。
    「サニー、何の話?」
    「アルバーン可愛いねって話」
    「嘘だぁ」
    「本当だよ?」
     攻防戦を始めた二人は距離を縮めて数秒ほど続いた睨めっこの後、穏やかに笑い合った。

     どうかこの二人が二人らしく愛を育める優しく温かい日々が末長く続きますように。

     ファルガーは牧師のような気持ちで晴れた空に密かな祈りを込めた。
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    💒💒💒💒👏💖❤❤❤❤💯👏😭😭😭❤👏😭😭😭❤❤💜❤❤❤❤😭😭🎉👍❤💒😭💒💒❤💒💗👏☺😭😭💯💒👍💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💯💖💖
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    Replies from the creator

    yukuri

    DONE🦁🖋
    ボスになりたての🦁くんが🖋くんと一緒に「大切なもの」を探すお話です。
    ※捏造注意(🦁くんのお父さんが登場します)
    題名は、愛について。「うーーん」
    「どうしたの。さっきから深く考えてるみたいだけど」
     木陰に入り混じる春の光がアイクの髪に反射した。二人して腰掛ける木の根元には、涼しい風がそよいでいる。
    「ボスとしての自覚が足りないって父さんに言われて」
    「仕事で何か失敗でも?」
    「特に何かあったとかではないんだけど。それがいけない?みたいな」
     ピンと来ていない様子のアイクに説明を付け加えた。
     ルカがマフィアのボスに就任してから数ヶ月が経った。父から受け継いだファミリーのメンバー達とは小さい頃から仲良くしていたし、ボスになったからといって彼らとの関係に特別何かが変化することもない。もちろん、ファミリーを背負うものとして自分の行動に伴う責任が何倍にも重くなったことは理解しているつもりである。しかし実の父親、先代ボスの指摘によると「お前はまだボスとしての自覚が足りていない」らしい。「平和な毎日に胡座を描いていてはいつか足元を掬われる」と。説明を求めると、さらに混乱を招く言葉が返って来た。
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