ほしいなんていえない。「……」
ごろりと寝返りを打つと、一人分が眠れるほどの空間がそこにはあった。
かちゃりと扉が開く音がして壮五は慌てて元の位置に戻って目を閉じるとしばらくして、掛け布団が少しだけ上に上がって今まで不在だった人が隣にまるで最初からその形が変わっていなかったかのように壮五の隣にぴったりとおさまった。
そして、「おやすみ」と言い合った時のように壮五の腰に腕を回してからやがてすうすうと寝息を立て始めた。
「……」
たまきくん、と声にならない声で呟く。
それは壮五の恋人で、たった今壮五の横で眠っている人のことだった。
なんで僕のこと、抱いてくれないの。
環が高校2年生の冬、環から「恋人になって」と言われた。
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに、それでも誰よりも壮五を大事にするという顔で告げられたその言葉に「まだ高校を卒業していないからダメ」と頭の中で考えた言葉よりもするりと「お願いします」と自分の欲求に素直な言葉の方が先に出た。
かくして環と恋人になったわけだが、恋人として最後まで、つまり身体をつなげることだが、は環が高校を卒業してからにしようと話していた。というのも告白され、受け入れた時、嬉しくなって環が思わず壮五の唇にキスしてしまったからだった。
とにかく、環が高校を卒業したその日にでも壮五は環に抱かれる想像をしていた。直接口に出して言われたことはないが、環はおそらく壮五のことを抱きたいと考えている素振りを見せていたし、何より壮五が環に抱かれたかった。
そんなわけで環と付き合い始めてから壮五は環なな抱かれる想像をしながら必死で自分の身体を慣らしていった。
そして今に至るわけだが。
環は高校を数ヶ月前に卒業した。
付き合い始めてから一緒に眠るようになったし今もそれは変わらない。なのにいまだに二人は一線を越えていない。
それどころか壮五が眠ったふりをすると環はするりとベッドを抜け出してトイレで自分を慰めているのを知ってしまったのだ。
どうして、なんで、と聞きたいのに聞けず、自分から抱いてくれ、とも言えず悶々とした毎日を送っている。
今日だって。
ゆっくりと目を開けて壮五は環にくっつく。
すうすうと眠る環はまるでそんなこと知らないです、と言わんばかりに清らかな寝顔を壮五に見せている。
先ほどまでトイレで一人壮五を呼びながら慰めていたことを壮五は知っているのに。
だから決めた。
環から手を出さないなら壮五からいけばいい。
幸い今日の夜から明日の夜まで寮の中には二人きりだった。
「…………ごめんね」
そう言って壮五は環のTシャツの裾から肌に手を這わせていった。