Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    shinokanata_day

    熱い時に書く。書けないときは書けない。感想もらえると嬉しいです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    shinokanata_day

    ☆quiet follow

    オベぐだ♀。人理修復後、受肉したオベロンとぐだちゃの話。シリアスを書きたかった。バドエンになりそうな気配があった気もするけどそうはならないです。書きかけ。次は R-18入る予定。よかったら感想ください!!!

    #オベぐだ子
    obeGudako

    ご都合主義のハッピーエンド目隠しと拘束を解かれ、ゆっくりと重い瞼を上げる。長い間、視界を遮られていたために、差し込んでくる光に過剰に反応して目がチカチカする。ようやく目が周囲の明るさに慣れると、そこはカルデアを出る前に伝えられた情報によると日本の、とある砂浜だった。夕暮れ時の沈みかけた太陽が二人の後ろに長い影を作る。
    季節的にも二人の他には誰も居ない砂浜は、まるで世界で二人きりかのように感じられる。ふう、と深く深呼吸すると、肺いっぱいに広がる空気はひんやりと冷たい。馴染みのない潮の香りが新鮮で、目の前に広がる海は不規則に寄せては返す波に形を変化させ続けている。
    しばらく見入っていたのだろう。くしゅん、と隣から小さなくしゃみが聞こえた。右手と同じ姿になった左手を、己のものより少し小さな右手に絡めてぎゅっと握る。もう二度と手放さないようにと、想いを籠めれば立香はへにゃりと柔らかい笑みを浮かべた。
    「ふふ、本当に帰ってこられたんだなぁ。どう?オベロン、受肉した感想は」
    「静か過ぎて、世界にまるで2人きりのような錯覚を覚えるけれど、そうじゃないんだろう?数え切れない程の人間がこの世にうじゃうじゃいると思うと寒気がするね」
    「え〜、最初に感じるのがそれ?他にもっと感想あると思うんだけど」
    「ん〜、受肉して改めて感じたよ。人間の体ってすごく脆そうだね。少し力が加えられたら簡単に壊れそうだ」
    「あっ、サーヴァントのときとは勝手が違う?見た目は同じみたいだけど、やっぱり違いってあるんだね」
    そんな他愛もない話をしながら、繋いだ手は離さない。触れたところから、彼女の温かさや鼓動まで感じられる。しんと静まり返った海には2人だけの声が響いている。
    「ねぇ、オベロン」
    蜂蜜色の瞳がオベロンをまっすぐに見つめる。マスターとサーヴァントという関係は既に役目を終えた。今の二人は“ただの”ふたりだ。
    「オベロンが一緒にこれからもいてくれるって、言ってくれて嬉しかったよ。今の私には魔力は全くないし、カルデアからの監視もついているけど」
    監視。それは立香が元の生活に戻るためにカルデアから提示された条件。仮にも世界を救ったマスターである彼女は、魔力を失い、二度とマスターになれなくなった今でも、世界的に見れば脅威となり得る存在だ。彼女にその気がなかったとしても、悪用しようと近付く輩がいないとも限らない。オベロンはその露払い役として、受肉して立香のそばにいることを許された。妖精王としての力は失っても、人並みの魔術師程度の力を持って立香を守り続けることができる。そんな二人をカルデアが監視し、不測の事態が起こった場合は都度対処されることを条件に元の生活に戻ることを許された。元の生活といっても、彼女のことを知る人間がいないであろう、彼女の故郷から離れた土地で、ではあったが。それでも立香は隣に立つオベロンを見ながら、とろけるような笑顔を見せた。
    「…あのね、私今幸せなの。ずっと帰りたかった故郷に帰ってこられて、隣にはオベロンがいて。まぁ、お母さん達に会えないのはちょっと寂しいけど、でも、これからずっとオベロンと一緒にいられると思うと楽しみで」
    「…俺も幸せだよ」
    えへへ、とはにかむ立香に悪態のひとつでもついてやろうと思ったが、口からこぼれ落ちたのはなんでもない、愛の言葉だった。捻れも何もない素直な言葉に目を見開くと、驚く素振りもなく立香はいっそう嬉しそうに微笑んだ。
    ずっと握っていた手からするりと抜け出た彼女は、とてとてと波打ち際まで歩くとくるりと振り返った。それは舞台の上で俳優が高らかに歌い上げる時のような、修道女が教会で神に祈りを捧げる時のような、清廉な中にも芯の強さが伺えた。
    「私、藤丸立香は、オベロン・ヴォーティガーンのことが、世界で一番、だいすき、です」
    妖精眼を失った瞳でもわかる、嘘偽りのない純粋な愛の言葉。夕焼けに照らされた立香の髪は緋色に燃えて。きらきらとまばゆい光に包まれた彼女の姿は奈落の底から見上げた星によく似ていた。眩しさに目を細めると、不意に言いようのない不安がオベロンの胸中を走った。きらきら輝いて見えるはずの彼女が、一瞬歪んで見えたのだ。
    「りつかっ」
    自分でも声に焦りの色が滲んでいたのがわかる。驚く彼女の表情もよく見ないまま、立香を腕の中に閉じ込める。ほんの少し離れただけなのに、彼女の体温が言葉に出来ないほど恋しく思えた。ぎゅっと抱く腕に力を込めれば、立香も背中に腕を回してきて。彼女のぬくもりに包まれると僅かに安堵した。
    「どうしたの、オベロン。寒くなっちゃった?お家帰ろうか」
    「…そうかもしれないな。もう少しこうしていてくれないか」
    言葉にできない、この不安と胸のざわめきはなんだ?こんなにも今が幸せだというのに。不安を読み取ったかのように背中を優しく撫でられ、彼女の気遣いに少し暖かくなった気がした。
    「いいよ…私も、もう少しだけ、こうしていたい、から」
    受肉して初めて、これが幸せなのだと感じることができた。故に初めて得た感情を失うことが怖くなったのかもしれない。オベロンは最終的にそう結論づけることにした。受肉したことによって忌々しい呪いも消えた、それも相まって初めての感情に戸惑っているのかもしれない。
    拭いきれなかった不安を断ち切るように、その夜は何度も彼女を求め、最後は抱き締めながら眠りについた。目覚めたとき、腕の中にいなかったら…想像しただけで指先から体温が失われていくような感覚に背筋が凍る。そんな胸中を悟ったのか立香が眠るまでずっと胸元に擦り寄ってきて「オベロン…好きだよ」と何度も噛み締めるように囁いていた。心地よい彼女の言葉に安心したのか、眠気は全くなかったはずなのに、いつの間にか深い眠りに落ちていった。

    次の日の朝、小鳥のさえずりで目を覚ました。瞼を開くと同時に緋色の髪が視界に入り込む。カーテンの隙間から射し込む光が反射してきらきらと光って、優しい。眩しさに目が眩みそうになる。すやすやと安らかな寝息を立てる彼女にほっと安堵するも束の間、目覚めた彼女から告げられた言葉にオベロンは足下から地面が崩れていくような感覚に囚われることになる。
    「…嘘、だろ」
    「ごめんなさい。何も、覚えてないの。貴方のこと。えっと、カルデアにいましたか?」
    申し訳無さそうに眉を下げる彼女は、嘘をついているようには見えない。そもそもこんな嘘をつく理由もない。記憶を奪われた?俺の事に関する記憶だけ?しかし特に魔力を使われた痕跡はない。サーヴァントの時ほどの精度はないものの、何者かが介入すれば間違いなく気付く。だとすれば考えられるのはひとつ。ここに来る前に既にそれは行われていたということ。
    「あ、あの…」
    まるで初対面の人間を見るような目で、立香がこちらを不安そうに見上げてくる。目覚めたら同じベッドにいた、見ず知らずの男にどう話しかければよいのか言葉を探している。心許なさそうに自身の左腕を掴む彼女を抱き締めてやりたい衝動をぐっと堪える。そんなことをしたら彼女をもっと不安にさせてしまうだけだ。こんな時、どんな言葉をかければよいのだろう。なんという皮肉か。妖精國で数多の妖精たちを誑かし、唆してきたオベロンが、たった一人、目の前にいる一番大事なひとの不安さえ、拭ってあげることが出来ないなんて。
    「…あぁすまない。俺の名前はオベロン。君は覚えていないかもしれないけど、君が元の生活に戻るにあたって、君の身の回りの世話を仰せつかった元サーヴァントだ。聞きたいことは他にもあるだろうが、俺は少し行かないといけないところができたから、君はここで待ってて」
    見た目は何一つ変わっていないはずの、それでいて決定的に変わってしまった今の立香を直視することができず、目線をそらすと確認しなければならないことがあるから、と告げて彼女からの返答を待たずに外に飛び出した。今の彼女がなんと答えるのか、聞きたくなかった。勢いよくドアを開けると早朝のひんやりした空気が肺いっぱいに拡がり、まるで昨日の夕方のようだと、胸の奥が切り裂かれたように痛む。昨日、眠るまではあんなに幸せだったのに。なぜ、何故。答えの出ない問いばかりが脳内を駆け巡る。振り払うように立香との新居から少し離れた高台まで走った。高台は、海がよく見える場所だった。荒くなってしまった呼吸を整えて、もう一度深く深呼吸すると、地底奥深くに棲む竜のように低く、吐き出すようにつぶやいた。
    「どうせその辺で見ているんだろう?出てきなよ。立香になにがあった。言え」
    「おや、こんなに早く声をかけてくるとは思っていなかったよ」
    オベロン以外誰もいないはずの高台の木々の下、朝の光に照らされた薄紫色のもやの中からぶわりと花びらが舞うと、それはみるみるヒトの形に変化した。花の魔術師に似た女、かつて微小特異点で出会った際に、立香にレディ・アヴァロンと名乗ったサーヴァントがそこにいた。レディ・アヴァロンはオベロンの来訪にさほど驚く様子も見せず、クルクルと手に持った日傘を回した。
    「すぐに答えを教えるのは私の趣味ではないのだけれど…まぁいいや、君の勘の良さに免じて君の問いに答えよう。マスターの記憶は、綺麗さっぱり消えてしまっただけだよ。あぁでも大丈夫、消えたのは君との記憶だけさ」
    「それはさっきまでの会話でなんとなくわかった。理由はなんだ。魔力を行使した形跡もなかったのに」
    答えようと言った癖にこの期に及んで本題をはぐらかす夢魔に、苛立ちを隠すこともせずに追撃すれば、夢魔はなんと言うことはないという表情であっさりと告げた。
    「あぁそれは簡単さ。マスターはオベロン・ヴォーティガーンの霊基に刻まれた呪いを解きたかった。受肉して共に生活していくのに、妖精眼もすべてが捻じ曲がる呪いも、生きていく上でマイナスにしかならない。人間界には妖精國より醜悪なものもたくさんあるから、それを視なくていいように、と」
    「確かに受肉して感じたよ、この体には呪いは残っていないとね。だがそれと何の関係が」
    「君との幸せな記憶を対価にしたんだよ。マイナスにプラスをぶつけてゼロにしたんだ。うん、あのときのマスターの感情は素晴らしかったとも。愛する人の為に今までのすべてを差し出したんだ。うん?記憶が失われるまでにタイムラグがあった?それは私からのプレゼントさ。マスターも呪いがなくなったことを確認したかっただろうしね」
    「……」
    レディ・アヴァロンは優雅に銀髪を風になびかせ、愉しそうに微笑んだ。それは夢魔らしく、見る者にとびきりの夢を見せてくれそうな甘い微笑だった。
    「私も張り切ったとも!君達の物語がもう一度初めから見られるのだからね!今度はどんな道のりを歩むのだろうか?ハッピーエンドで終わるはずだった物語がプロローグからやり直しだなんて、わくわくしてくるだろう?」
    「…くそっ」
    「あぁ勿論、彼女の記憶は失われたんだ。忘れたんじゃない。金輪際、思い出すなんてことはないから安心して。君は以前の彼女に気兼ねすることなく、新しい彼女との関係を楽しめばいい」
    至極愉しそうに笑う夢魔は、心の底からこの状況を愉しんでいる。正直殴りたい程の怒りさえ感じるが、立香の願いを叶えただけである彼女に、これ以上何を言っても無駄だと、オベロンはギリ、と唇を噛んだ。
    「…もう行くよ、ここにいると花の臭いでむせ返りそうだ」
    「そうだね、君達の新しい物語は既に始まっているんだ。せっかく監視の役目に就くことができたんだ。私も楽しませてもらうよ」
    クスクスと笑い声を木霊させてもう一人の花の魔術師は花びらと共に姿を消した。花びらの舞う中でオベロンはただ、己の無力さに拳を握ることしかできなかった。
    藤丸立香の記憶は永遠に戻ることはない。これから先もずっと。戻らないからといってオベロンが立香から離れることはないが、彼女の心はどうだ?今の彼女からしたらカルデアから戻ってきたら見知らぬ男がそばにいて、しかも魔術の秘匿の観点から以前の交友関係は断たれ、会うことも許されない。それなのに、その唯一のオベロンのことを一切忘れてしまったとくれば、今の彼女にはオベロンはどう映っているのだろうか。少なくとも、以前のような関係には戻れないだろう。絶望的な気持ちで帰宅すると、オベロンが家を出たときと同じようにソファーで緋色の髪が不安そうに揺れているのが目に入った。
    「ただいま」
    「あっ、おかえりなさい!」
    オベロンが部屋に入ってきたことに気付くと、嬉しそうに駆け寄ってくる。蜂蜜色の瞳は昨日と寸分変わらぬ輝きでオベロンを捉えているのに、その色に甘い慕情は見当たらない。それから会話を二、三交わして、やはりオベロンとの記憶が失われていると、その事実を嫌というほど突きつけられる。しかし、記憶が全く失われてしまったのだとわかっても、それでも期待せずにいられない。
    もう一度、俺のことを好きになってくれないかと。きらきらした瞳に再び自分を映してもらえるように。二人分の蜂蜜ミルクを淹れてソファーに腰掛け、ゆっくりと話し始めた。
    「今朝はいきなり出てしまってすまなかったね。とりあえず、今の君の状況からひとつずつ説明しようと思うのだけどいいかな?」
    また好きになってもらえるように、まずは一歩ずつ、進んでいけばいい。時間はたっぷりとあるのだから。



    「あ、あのっ、ベッドがひとつしかないんですけど!」
    寝室に案内すると立香の顔がわかりやすく真っ赤になる。焦ったように手をパタパタさせる姿は、初心で恋を知らない少女のようにも見える。
    「あぁ、ひとつあれば十分だったからね」
    「そ、それってつまり」
    「ん?」
    「私とオベロンさんって、そういう関係だったんですか」
    「そうだよ。ほら、さっき敬語は使わなくていいって言っただろう」
    もじもじしながら頬をりんごみたいに染めて、蜂蜜色の瞳が困惑に揺れている。立香からしたら、見ず知らずの男に恋人だったと告げられているのだ。そりゃ普通驚くだろう。案の定困ったように視線を右左と彷徨わせ、口元に手を当てると、こてんと首を傾げた。
    「物好き、なんですね。あっ、なんだね」
    「そうだね、物好きな人間だ」
    こんな虫にも好意を抱いたことを物好きと称するなら、間違いなく立香は物好きな人間だったのだろう。記憶を無くした今だからこそ、その異常さに気付いたのかもしれない。これはいきなり好感度マイナスかもしれない。
    「そろそろ休んだ方がいい。君も今日は色々言われて疲れたでしょ。俺はソファーで寝るからベッドは君が使うといい」
    「ううん、一緒に寝よ」
    「いいのか?きみにとって俺は見知らぬ男だよ?」
    「うん…だってほ、ほら、私達、そういう関係だったんでしょう?」
    「それはそうだけど」
    「だから、いいの」
    えい、と勢いよく腕を絡めて右腕にしがみつく立香に、困惑するしかない。顔を真っ赤にしながら、それでも引っ張る力を緩めず、ベッドへともつれ込んだ。
    「うわっ」
    倒れ込んでいる間にあっという間に明かりを消され、隣に立香のぬくもりが。暗所に慣れない視界の中、立香の輪郭らしいものが近くに見える。わずかに震えながらぴったりとくっついてきたそれは、たしかなぬくもりを持っていて。
    「お、おやすみなさい」
    「お…おやすみ」
    記憶の中の立香は、初めて会ったときもこんなに強引だったろうか。わからない、わからないが立香に完全に拒絶されていないことは僥幸だ。これはもしかしたら、近いうちに元の関係に戻れるかもしれない。そんな期待とともに、しかし面と向かっては手を出しかねないので、その夜は立香のぬくもりを背中越しに感じながら眠りについた。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜👏👏👏👏👏👍👍👍👍👍🌠😭😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    shinokanata_day

    MAIKINGオベぐだ♀。人理修復後、受肉したオベロンとぐだちゃの話。シリアスを書きたかった。バドエンになりそうな気配があった気もするけどそうはならないです。書きかけ。次は R-18入る予定。よかったら感想ください!!!
    ご都合主義のハッピーエンド目隠しと拘束を解かれ、ゆっくりと重い瞼を上げる。長い間、視界を遮られていたために、差し込んでくる光に過剰に反応して目がチカチカする。ようやく目が周囲の明るさに慣れると、そこはカルデアを出る前に伝えられた情報によると日本の、とある砂浜だった。夕暮れ時の沈みかけた太陽が二人の後ろに長い影を作る。
    季節的にも二人の他には誰も居ない砂浜は、まるで世界で二人きりかのように感じられる。ふう、と深く深呼吸すると、肺いっぱいに広がる空気はひんやりと冷たい。馴染みのない潮の香りが新鮮で、目の前に広がる海は不規則に寄せては返す波に形を変化させ続けている。
    しばらく見入っていたのだろう。くしゅん、と隣から小さなくしゃみが聞こえた。右手と同じ姿になった左手を、己のものより少し小さな右手に絡めてぎゅっと握る。もう二度と手放さないようにと、想いを籠めれば立香はへにゃりと柔らかい笑みを浮かべた。
    6431

    related works

    recommended works