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    bonchinote

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    bonchinote

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    いっぱいハート出ちゃうようになった村雨先生のトンペナです。

    #さめしし

    初恋イチゴ味「ええっ、銀行のペナルティーで礼二君からハートが出るようになっちゃったって!? 心配だなあ」
    「心臓じゃなくてだよね? 心配で様子みにきちゃった」
    「まさしく愛を体現したようなペナルティー、なかなか良い行いをするな銀行というのも」
    「帰れマヌケども♡♡♡」
     不運はいつだって、呼んでいなくともやって来る。悪魔と死神と邪神が一堂に会したような光景は村雨にとって悪夢そのものだった。
     インターホンが鳴り、鍵を開けたことをすぐに村雨は後悔する羽目になる。不機嫌を隠そうともせず顔をしかめた、村雨の頭頂部あたりから紫色の小さなハートが三つ、ホロリと転がり出た。
     フローリングの床に当たって硬質な音を立てるそれは決して比喩表現でなく、確かな質量を伴っている。
    「礼二君、ハートめっちゃ似合わないじゃん!」
    「どこから出てるんだろうねこれ」
     言動が一致しないのはギャンブラーの常と言えども、対面時の第一声の心配がこれほどまでに白々しい、叶と真経津はいっそのこと潔くもあった。
     そんな中、床へ落ちた村雨のハートを拾い上げたのは天堂だった。光に透かして見た後、匂いを嗅ぎ、あまつさえ口に含んでみせる。
    「そんな得体の知れないものを食うんじゃない♡」
     流石の村雨も、己から出た成分を食べられるとなれば動揺を隠しきれない。天堂の頬を鷲掴みにし、吐かせようとするが神の咬合力の前では無力だった。
    「葡萄の味がする」
    「葡萄の味!?」
     まさか人体から出るもので果物の味がするとは、前代未聞の現象である。ペナルティー以外に使えばとんでもない儲けを生み出すだろうに、欲がないといえば欲がない。
     天堂の言葉を受けて、真経津と叶が落ちたハートを遠慮なく食べ、目を見開く。
    「ほんとだ、葡萄の味がする」
    「すげー! どうなってんの!?」
    「知るか♡マヌケ♡」
     言葉の合間にも音を立ててハートが落ちるもので、あたかも村雨が言葉の合間に意志を含んでいるように感じられてしまう。口を閉じても開いても、恥を重ねてしまうペナルティーはまさに最悪だった。

    「おい、村雨! オマエまた変なペナルティー食らったって!? 心配で来ちまったわ」
     三人のギャンブラーを招き入れたとあれば、あと一人増えたとて同じことだった。
     遅れて現れた獅子神もまた、言葉と裏腹に、頬はヒクヒクと痙攣している。あわよくば村雨の弱った瞬間を目に焼き付けてやろうという魂胆が透けて見えた。他の三人と決定的に違うのは、一応心配でという名目通り見舞いの品を持参したことくらいだろうか。
    「変なペナルティー食らってる時は健康なモン食って休んどけよ、これ差し入れな」
     そう言って村雨のダイニングテーブルへ並べたのは、明らかに健康に良さそうな緑の液体だった。緑と言っても、叶のよく飲んでいる人工的な緑とは違い、自然界のものを混ぜ合わせた若干のドロリとしたもの──スムージーもしくは青汁と例えるのが相応しい。
    「いらん♡こんなものは飲まなくていいからな♡」
    「青色だ……」
     ポロポロと零れ出た村雨のハートを見て、獅子神が大声で笑う。悪役然とした笑い方はここ最近あまり見ないものだったが、獅子神もまた、他人の不幸を笑い飛ばせる性根の持ち主だったのである。
    「獅子神さん、これ食べてみて」
    「えっ、それ食べて平気なやつなワケ? いらね、え、むぐ」
     獅子神の反応は至って一般的だった。人体から出たものを食べるのは冷静に考えて気味が悪い。顔を背けた先で真経津に捕まったのが獅子神の運の尽きだった。喋る口の開きに合わせて指を突っ込まれてしまい、問答無用で村雨のハートを頬張る羽目になる。
     瞼を固く閉じ、拒絶を表す獅子神だったが、味を確かめた瞬間険しさが吹き飛ぶ。
    「ソーダ味だ」
     色によって味が違う! 摩訶不思議現象である。カラス銀行の技術力は人類に過ぎたるオーパーツに等しいのではないか。
    「もしやこのハートは村雨の感情を表しているのではないか?」
    「天堂さん、冴えてるんじゃない?」
     人に向けて出るハートは紫色、獅子神持参の青汁を見た瞬間のハートは青色。つまり、嫌いになればなるほど青に近付くのでは……
     天堂の仮説を実証すべく、ギャンブラーたちの仁義なき戦いの幕が切って落とされた!

    「肉」
    「嫌いではない♡」
     赤、コロン。
    「人参」
    「食べずとも生きていける♡」
     青、コロン。
    「白米」
    「単体より組み合わせた方が良い♡」
     紫色、コロン。
    「ケーキ」
    「生クリームは甘さよりもクリーミーさを求めている♡」
     赤、コロン。
     ──結論、村雨から出るハートは好き嫌いで色が決まっている。
     机の上へ積み上がったハートは色とりどりの宝石のように輝いている。赤色は林檎の味だった。それらすべてがフルーティーな味なのだと思えば、暫くキャンディには困らなさそうだ。
    「ええ~てことは礼二君、オレたちのこと意外と好きってことじゃない?」
    「素直さは美徳だぞ、村雨」
    「ふざけるな♡こんなもの何の意味もない♡♡」
     自覚していない感情ですら晒されてしまうことは恐ろしい。心底嫌悪感に満ちた表情をしていても、村雨から出るハートは紫色ばかりで、完全にこの悪友たちを嫌い切れないのが微笑ましくさえある。
    「待て、村雨、オレは?」
     だが、この場で一人だけ、まだ自分に向けられるハートを目撃していない男がいた。獅子神敬一、その人である。
     遅れてやって来てからは青汁やら村雨の感情当てゲームやらに気を取られ、自分がどうであるかを見ていない。自分にも向けられるハートがどのような色であるか、おそらく同じ紫であろうが、確かめたいのが心情でもある。
    「あなたも紫だ」
     意識しようとした瞬間、村雨は獅子神から顔を逸らす。あからさまな態度を、村雨なりの恥じらいと取って、獅子神はまた悪く笑んだ。
    「オイオイ、先生~! 面と向かってオレたちのこと「嫌いじゃない」って言うのが恥ずかしいってことか? 可愛いとこがあんじゃねえか」
     嫌われいないだろう、その事実は獅子神を思いの外喜ばせるものだった。顔を背けたままの村雨の肩を抱き、背をバタバタと叩く手のひらはあまりに力強い。
     しかし、獅子神の喜色とは真逆で、実のところ村雨の心の中では嵐が吹き荒れていた。
    (今、何か分からんが獅子神の顔を見たら、とんでもないことが起きてしまいそうな気がする)
     自分に憎からず思われているという事実で喜ぶ獅子神を見て、全く訳の分からぬ感情に襲われている。下手に口を開くな、と長年の勘からの警鐘が鳴りやまない。
    「なあ、こっち見ろってセ、ン、セ!」
     大喜びの獅子神は調子に乗っていた。村雨の顎を掴み、強引に自分の方を向かせようとする、恵まれた体躯の力に村雨はあまりに非力だった。
    「やめんかマヌケ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」
    「え、痛! いたたたたたたたたたたた」
     ポポポポポポポ……!! 次の瞬間、村雨からマシンガンのようにハートが連射された。それらすべてを顔面で受け止めた獅子神は、仰け反ったままの勢いで椅子から転げ落ちてしまう。
    「調子に♡乗るんじゃない♡ギャンブルは私の方が♡強い♡♡♡」
    「痛い、ごめんて、痛いからそれ止めて、怒ってんのか、おい、いた、いたた」
     頭を抱える獅子神に、村雨から出るハートのマシンガンは容赦なく降り注ぐ。これにはさすがの獅子神も形無しで、もはや村雨にただただ謝るしか道は残されていないのであった。

    「ところでハートって何味?」
    「イチゴ味だ」
     未だうずくまり、文字通り感情の濁流に耐える獅子神は自らに降る色すら見えていない。バラバラと豪雨のように鳴るノイズを見守りながら床を埋めつつあるハートをひとつ取り、叶が口に含む。
    「はやく気付けば祝福してやろうものを」
     獅子神が桃色のハートに気付くことになるのは、ペナルティーが終わるのが先か、村雨が自覚するのが先かはまだ分からないのである。

     
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    takamura_lmw

    DONE桜流しのさめしし、もしくはししさめ。ハッピーエンドです。ほんとなんです。メリバでもないキラッキラのハピエンなんです。信じてください。

    これがずっと出力できなくてここ一ヶ月他のものをなんも書けてませんでした。桜が散る前に完成して良かったと思うことにします。次はお原稿と、にょたゆりでなれそめを書きたいです。
    桜流し 獅子神敬一が死んだ。
     四月の二日、桜が散り出す頃のことだった。



     村雨にその死を伝えたのは真経津だった。
    「——は?」
    「死んじゃったんだって。試合には勝ったのに。獅子神さんらしいよね」
     真経津は薄く微笑んで言った。「獅子神さん、死んじゃった」と告げたその時も、彼は同じ顔をしていた。
    「……いつだ」
    「今日。ボク、さっきまで銀行にいたんだ。ゲームじゃなかったんだけど、手続きで。そしたら宇佐美さんが来て教えてくれた。仲が良かったからって」
     村雨はどこかぼんやりと真経津の言葉を聞いていた。
    「あれは、……獅子神は家族がいないだろう。遺体はどうするんだ」
    「雑用係の人たちが連れて帰るって聞いたよ」
    「そうか」
    「銀行に預けてる遺言書、あるでしょ。時々更新させられる、お葬式とか相続の話とか書いたやつ。獅子神さん、あれに自分が死んだ後は雑用係の人たちにお葬式とか後片付けとか任せるって書いてたみたい。まあ銀行も、事情が分かってる人がお葬式してくれた方が安心だもんね」
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