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    bonchinote

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    皆に彼氏面される獅子神さんの話です

    #カルしし

    平行線は交わらない「敬一君は恋人とカップルチャンネル作りたい派? 料理配信でもする? それとも敬一君ちにカメラ設置していい? 二十四時間見ててあげる」
    「獅子神さん、一緒に暮らしたら毎日一緒に遊べるよ。獅子神さんは何して遊びたい? もし人生で最期にするギャンブルなら何がいい? どっちかが死んじゃっても見届けようね」
    「獅子神、毎日私に料理を作ってくれ。私は代わりに毎日健康診断ができるし即座に手術もできる。あなたのことは白血球の数からコレステロール値までアドバイスしてやろう」
    (なんか……なんかおかしくねえ?)
     獅子神が気付いた時にはもうかなり手遅れだったと言えよう。ここ最近、会えばやたらと三人が密着してくるもので、獅子神の筋肉量は明らかに増えた。
     最初の数日こそ筋肉痛に苛まれていたが、今や三人を軽々と引きずり歩けるようになってしまった。これもまあ一種の筋トレかと得心していたが、ふと姿見に映る自分を見て我に返る。なんだこれは、抱えるにしてもアクセサリーが大きすぎる。そう、重ねて言うが右腕、左腕、腰にと成人男性三人を纏ったまま移動する獅子神の図は明らかに異質であった。
    「なんでお前らそんなオレにくっついてくんだ、明らかに! 距離感がおかしいだろうが!」
     千切っては投げを三回繰り返し、一メートルほどの等間隔に成人男性を並べ一列に正座をさせる。これが正しい友人との位置関係だった。
     多少個人差はあれども、獅子神にもパーソナルスペースは存在する。勿論狭苦しい小さいモニターを見るのに密着して並ぶこともある。
     だがこれはどうだ、明らかに一部の筋肉に過負荷を掛けすぎている事態だ。
     立ったまま三人を叱咤する獅子神と、律儀に正座したまま見上げてくる三人の対比は、「怒られる犬と飼い主」と例えられよう。
     だが、三人から同様に繰り出された返答は、獅子神の想像を上回るものだった。
    「「「え? 獅子神(さん、敬一君)は私(僕、オレ)と付き合ってるんじゃないの?」」」 

     獅子神敬一はパニックに陥っていた。記憶をどれだけ辿っても恋人が出来た覚えはないし、ましてや三股を掛けているなど断じてない。にも関わらず、三者ともが自分と付き合っていると主張するのは集団幻覚くらいしか見当もつかない。
    (このあたりで薬物散布とか工場からの有害物質とかがあった? いや、銀行とかの変な試合の延長とかそういうやつとかの方が説明がつくけど、でも兎に角オレはこいつらと付き合った覚えとかないし、あと全員言ってることが普通に怖い)
     冷静にさきほどの言葉を反芻してみても、三者三様の言葉が重すぎる。誰を選んでも面倒なことになりそうで誰も選べない。というか選びたくない。
    「いや、そもそもオレ、お前らと付き合った覚えがないっていうか……」
    「はあ!? 敬一君、オレの服を着てオレと一緒に料理まで作っといて、付き合ってないって言うの!? オレがチョコあげたときもあんなオレにしか見せなさそうな顔で笑っといて!?」
    「えっ、獅子神さん、ボクの傷をずっと残してるのに付き合ってないって言うの? ボクの試合終わるまでお出迎えまでしてくれて、お揃いの傷まであるっていうのに? ボクがチョコあげたときもあんなボクにしか見せなさそうな顔で笑っておいて?」
    「あれだけあなたの反応すべてで私に好意を示しているにもかかわらず、付き合ってないと思っているのが驚きだった。 私がチョコをやったときもあんな私にしか見せなさそうな顔で笑っておいて?」
     矢継ぎ早に繰り出される本人たち曰わくの事実は、覚えがあるが覚えがない。断じて言えるが好意を伝え合った過程は存在しないし、確かに全員憎からずは思っているが、恋愛のそれかと言われるとそうではない。
    (どうしたらこの場を切り抜けられる? 一番問題にならずに穏便に終わる手段を考えろ、オレには考えて考えて考えぬくことしかできねえ……)
     試合中は身の危険を感じるほどに神懸かる思考を見せるギャンブラーたちが、日常になった途端に知性が下がるのはどういう訳だ。なんとか事態を切り抜けようと模索する獅子神は、視神経の奥が焼き切れるような目眩を感じてしまう。
    「やっぱりさ、オレ誰かを選ぶなんてできないし……」
     結果、獅子神が選んだのは「正しさ」だった。誰かを選ぶことはできはしない。寧ろ誰も選びたくない。悩んで悩み抜いた結果は、素直にお断り一本だった。
     人生はいつだって、獅子神の思い通りになることの方が少ない。
     そんなことはよく分かっていた筈だったが、今回もそれに裏切られるとは想像もしなかった。

    「安心していいよ、獅子神さん」
    「私たちへの愛は様々な形で返済が出来る」
    「オレたち三人ともと付き合えばいいんだよ」
     獅子神の正しい答えが正解であるとは、やはり限らなかったのである。
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