記憶産まれた時から前世の記憶が残っている人はどれだけいるんだろう。

ボクは前世の記憶を全部持ってここに居る。

見知った顔がたくさんいるのに、ボクだけが覚えていて、ボクだけが取り残されている気がした。

｢おはようございます。｣

｢おぉ、イレブン、おはよう｣

隣に住むおじいちゃん、名前はロウさん。

｢おっはよー！イレブン！｣

幼馴染みのエマ。

｢おはようイレブン。｣

学校の先輩、マルティナ先輩

｢今日も元気がないな、イレブン｣

社会の先生、グレイグ先生

｢捨てられた犬のような顔だな。｣

数学の先生、ホメロス

｢おっはよ｣｢おはようございます。｣

双子の姉妹、ベロニカとセーニャ

まだまだいるが、長いので詳細は省くことにする。
ボクの前世は勇者。
何をバカなことを、と思うだろう？信じなくたって良い、ボクが一番信じられないんだから。

(ボクだけが覚えている。ボクだけがみんなの中に入っていけない。)

一度みんなに話したことはあったが、笑われるだけで信じてくれた人など一人もいなかった。

(こんなにも苦しいなら記憶なんていらなかったのに)

授業の終わりのチャイムがなる。

いつものように教室で本を読んで、次の時間が始まって、そして帰る。
変わらないサイクルだ。

でも、今日は違った。

｢先生わりぃ！遅れた！｣

声でかいな…。

｢転校生が初日に遅刻とは…お母様が泣くぞ。｣

｢ごめんって｣

敬語どこ行った。

(あぁ、でも、何だか聞き覚えのある声だなぁ…)

｢イレブン｣

呼ばれたからには返事もしないわけにいかないので本から視線を外してグレイグ先生を見る。

｢なんでしょう？グレイグ先生｣

嫌な予感がした。

｢学校の案内を頼めないか？｣

今日の本は凄く楽しみにしていた本だったのに。

｢ベロニカとセーニャは？｣

いつも転校生などの相手をするのは双子の姉妹だったはずだ。

｢すまない、あいつらには他の頼みごとをして貰ってるんだ。｣

くっそ、なんてタイミングの悪い…

｢…わかりました。｣

｢よかった…で、こいつが今日転校してきたカミュだ。｣

(…カミュ、いないと思ったら転校生だったのか)

｢よろしくな。｣

学生服を来ているが、容姿は寸分違わず、カミュだ。
ざわっと心が騒いだ気がした。

｢ボクはイレブン、覚えておいてね。｣

どうせ覚えてないんだから、このくらいの悪ふざけは許されるよね。

｢あ、あぁ。｣

驚愕までとはいかないような、何とも言えない表情で返事をされる。

｢何？｣

｢あ、いや、綺麗だなって…｣

綺麗？どこをどう見たらその感想が出るのか作文に書いて提出してほしい。

｢はぁ？…ボク、男｣

怪訝な顔をしたボクに悪いと思ったのか

｢わ、わりぃ｣

と申し訳なさそうにカミュは言った。

｢別に良いけど…とりあえず案内するからついてきて｣

そう言って、カミュから視線を外して廊下に出ようとすると

｢行くな！｣

後ろから腕を掴まれて引き寄せられた。

｢イレブン…｣

弱々しい声が耳元に届くと、よくわからない衝撃のような感覚が背中にゾクッと響く。

｢…っ…な…｣

グッと拳を作って

｢な？｣

アホみたいな顔を決めてる元相棒に

｢何すんだバカミュ！！｣

綺麗なアッパーを決めてやった。

(どうしてキミだけ覚えてるのさ！！)