初夏の熱 むっとする暑さで目が覚めた。
換気扇が回っている音と、そしてとなりでまだ眠っている真一郎の寝息が耳に届いて、夕べは彼の部屋に泊まったことを思い出す。
電気を点していない部屋は、しかし十分に周囲を見渡せる程度の明るさがあった。カーテンのふちから、朝の光がしとやかに入り込んでいるのだ。
時計を見れば、午前六時十分を指していた。
若狭は真一郎の寝顔をそっと覗く。
きっと彼も暑いのだろう。額にじわりと汗をかいていて、眉根が寄っていた。
まだ六月だというのに、気温も湿度もすっかり夏をはらんでいる。
若狭はエアコンのリモコンを取ろうとしてからだを起こした。だが、後ろから伸びてきた手にぐいっと引かれて再びベッドへ沈む。
「あっついなー、今日」
若狭をベッドに引き戻した犯人は、寝起きの掠れた声でそうぼやいた。
「起きてたのかよ」
「いや、今起きた。つーか暑いな、マジで」
そんなことを言いながらも、真一郎は後ろ向きに抱え込んだ若狭を離そうとしない。それどころかさらに密着するように足を絡めてきた。
部屋の暑さと、そして真一郎の高めの体温が若狭のからだを包んで、思わずこくり、と喉が鳴った。
どうやら熱に当てられたからだが潤いを欲しているようだ。
若狭は自嘲するようにちいさく笑って、真一郎へ提案した。
「──今日は海のほうまで走りに行こうぜ。きっと潮風が最高に気持ちいいだろうよ」
なにも予定を入れていなかったこの休日。最近互いに忙しくしていたのもあって、今日は家でゆっくり過ごしてからだを休めるか、なんて昨夜は話していたのだが──この暑さと真一郎の体温が、遠い青春時代の熱気を呼び起こしてしまった。
それはきっとクーラーでも、氷水でも冷ませやしない。
「いいね。たまにはバブにも涼をとらせねえとな」
真一郎も乗り気のようで、寝起きの声に喜色が滲んだのがわかる。
「オレのザリに追い抜かれて、逆に熱くならねえようにな」
「は、誰に言ってんだ」
真一郎は若狭を振り返らせるとその唇に噛みついた。
それから若狭の手に触れ、指のあいだをなぞり、繋ぐ。
絡められた足がいたずらに動き、若狭のふくらはぎを撫でた。
こくり、とまた喉が鳴る。
二人が海までバイクを走らせるのは、数時間ほどおあずけになりそうだ。