光焔万象一切幸を成す支部にあげた「煙焔~」の後日談の扱いだが、これ単体でも問題なく見れる仕様。なんやかんやあって隊長不死克服したし色々円満に解決したご都合設定。カピオロ頼むから幸せになれ。
その日は朝から隊長が部隊のみんなを集めた。
「ようやく落ち着いてきたと思ったけど、何かあったのか?」
「オロルンがいるのも珍しいな」
アビスの騒動も収まってみんな緊張が解れているのか、ぽそぽそと小さなさざめきが聞こえる。僕は隊長と一緒に一段高いところにいて、何人かの隊員が手を振ってくれたので振り返す。
「それいいな」
「俺も俺も」
それが連鎖して全員が手を振るのではというところで隊長が咳払いをした。途端に姿勢が正され静かになる。隊長からの連絡事項がいくつか述べられるが、みんなが集まるような内容だったか?と疑問符を浮かべているのがここからだとよくわかっておもしろい。
「それと、オロルンが妊娠した。その関係で俺がこの場にいないことも増えるだろう。面倒をかけるがよろしく頼む。以上だ」
最後にさらりと僕がここにいる理由が付け加えられたので、ぺこりとお辞儀をしてみる。いつもなら以上と号令をかけられたらすぐさま行動し始めていたのが、みんなこちらを見上げてポカンとしている。
「はあああああ隊長様身重の嫁立たせて何やってんですか!」
最前列、みんなのまとめ役も務める古株の数人が声を張り上げた。
「そうですよこんな暑いのに!」
「移動だ移動!隊長様オロルン運んで!」
「あ、あぁ」
「水と、あと扇ぐものとかあったか」
横抱きにされて隊長の天幕まで運ばれると、みんな上司の許可なく入口を大きく開けてみたり、水や果物を運び入れたりしている。その中央、周りから扇がれる玉座みたいな椅子に座らされた。
「みんなありがとう。でも僕は暑いのに慣れてるし、大丈夫だから」
「「「大丈夫じゃない!」」」
その場にいる隊員の声が合わさった。こんなところでも統率力を発揮しなくてもと思っていたら、一人の隊員がわっと泣き真似をした。
「うちの姉ちゃんは待望の子供だったのに流産しちまってなぁ」
「うちも弟のときにおふくろつわりで苦労してたな……」
「オロルンは大丈夫か?辛いところはないか?」
「僕は吐きつわりがちょっと」
「は?」
しまったこれは隊長に言ってなかった。隊員の指示で、何故か肩のマッサージを始めてくれていた隊長からドスの利いた声がした。
「隊長様怖い声出さない!赤ちゃんがびっくりしちゃうでしょ!」
「すまん」
普段上下関係はしっかりしているが、こういうときは和気あいあいとしているここの人達はとても温かい。報告としてはここが二回目になるが、一回目のばあちゃんはそれはそれはもう止められなかった。
「うちの孫になんてコトしてくれてんのよ」
隊長と報告にいったとき、凄まじい雷が落とされた。てっきり僕も叱られるのかと思ったのだが、僕は椅子に座らされ、隊長が床に正座させられた状態で、主に隊長が責められる形でこんこんと詰められた。それをひたすら聞いてくれた隊長には感謝しかない。最終的にナタに永住するつもりだとはっきり言ってくれたところから、ばあちゃんの怒りが鎮火していった。そこからは産まれてくる子について落ち着いて話が進んだ。
「言っておくけど、ワタシはオロルンを心配しただけであって、曾孫が産まれてくることは全力で祝うつもりよ!子育てのことならなんでも聞きなさい!」
照れながらばあちゃんはそう最後に付け加えてくれた。体調不良から妊娠に気付いてくれたイファが言うには、僕の経過は竜に近いだろうから、そこまで妊娠期間は長くないとの見立てであった。だが意外と卵の殻ができずに成長している時間が長いようで、お腹がぽっこりして動きに制限が出てきた。イファは先のわからない僕の状態に、人側の医者にも話を聞きながら頭をうんうん悩ませていて申し訳ない。でもそのおかげで隊員のみんなに帰されるのか、隊長が殆ど家にいて世話を焼いてくれるので嬉しかった。
「食べたいものはないか」
「冷やさないようにな」
「俺を抱き枕にするといい」
そんなに気を遣ってくれなくてもいいのにというくらい色々してくれて、今のうちに思う存分甘えておいた。そして無事に産まれてからは、たくさんの人が祝いにきてくれた。
「やば、めっちゃちっちゃいじゃん!」
「寝ているんだからあまり大きな声を出すな」
「わ~首ぐらぐらで落としちゃいそう」
「元気な子に育つように縁起の良い色あげるね!」
「いい顔をしている」
「大きくなったらアタシが鍛えてやろうか?」
シロネン、カチーナ、キィニチ、ムアラ二、イアンサ、チャスカといった英雄の面々に。
「すごいな、パパターノに抱っこされてれば君テイワット一安全じゃないか?」
「パパターノか。良い響きだな」
タルタリヤやアルレッキーノという執行官の面々まで来てくれた。しかもスネージナヤからナタまでの経路を整えるという話も全面協力してくれることになり、着々と往復にかかる時間が減っていった。そして。
「オロルン!あの人いつ帰ってくるって」
「今日の昼頃って何回も言ってるだろばあちゃん!あぁ、ほらこぼさないで、ちゃんと座って食べるよ」
「ぱぁぱー!」
まだ姿も何も見えていないのに、小さな足で外へ駆け出していく。隊長の強さと僕の感知能力の高さを併せ持ったこの子は、時折とんでもない力を発揮する。慌てて外へ追いかけると、もう随分先に見える小さな背中が何かに躓いて転びそうになった。その瞬間に隊長が飛んできて受け止めてくれる。
「大きくなったな」
高く上に掲げられると喜びで甲高い声が響く。
「ありがとう、助かったよ。どんどん足が速くなるから僕だと追い付けなくて」
「さすが俺の子だな」
こちらの心配もよそにきゃははと楽しそうな声を上げる子は、みんなの愛をその身いっぱいに受けて明るく元気いっぱいに育っている。
「ちょっとキミ達!まだご飯の途中でしょ、早く戻ってきなさい!」
「ばあちゃんがうるさくてごめん。君が来たら誕生日のお祝いするって張り切ってるんだ」
「相変わらず賑やかでいいことだ」
子供を抱っこしている手と反対の手を繋いで腕を組む。まさかこんな未来が訪れるとは思っていなかったが、とても、とても幸せな気持ちだ。
「おかえり。今回も無事に帰ってきてくれてよかった」
「ただいま。任せきりですまない」
「こういうときは謝らないって言っただろ」
「そうだったな、愛しているオロルン」
ちゅっと額にキスが落とされる。するとそれを見ていた小さな子からもキスが贈られた。
「僕も、二人共大好きだ!」
ぎゅっと二人に飛び付いたら、遠くからまたばあちゃんに怒られた。三人で笑いながら走って戻る。こんな穏やかな日が、どうかいつまでも続きますように。