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    ケミカル飲料(塩見 久遠)

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    便利モブ。今夜は鉄板焼きパーティー。
    ※これを思いついたのはトラウマBBQ前でした。軌道修正できなかったのですが、ご容赦ください。
    2023/2/23にTwitterにアップしたものの再掲です。

    良き隣人の良き住処に集う 「この前、こんな感じの動画を見たな」
     目の前の光景を目にした瞬間、そう思った。
    頭に浮かんでいたのは、羊や牧羊犬の背中で気持ちよさそうに眠る猫と、それを全く気にする素振りのない寝床にされた動物だ。何故そんな牧歌的な風景を思い浮かべたのかといえば、そこに似たような状況があるからだろう。
    ソファのひじ掛けに凭れて微睡んでいる癖毛の友人と三匹の猫。猫は友人の足元から始まり、膝の上、背中から肩にかけて、という位置に居座っている。いずれも目を閉じて深い呼吸をしており、リラックスしていることが感じられた。再度友人に目を向ければ、その手には猫と遊ぶためのおもちゃが握られているのに気付いた。猫と戯れているうちに、揃って眠気に襲われたというところだろうか。
    台所からは家主が夕飯の支度に勤しむ音が聞こえてくる。そして、ソファから少し離れたところに置かれたテーブルではホットプレートが存在感を放っており、今か今かと出番を待っている。
    そう、これから鉄板焼きパーティが開催される予定なのだ。

    ―時を少し巻き戻そう。

    仕事を終え、スマホを確認すれば、サラリーマンの友人から連絡が入っていた。
    「早めに帰れたので、先に支度を始めています。うちの鍵は開けとくので、気にせず入ってきてください」
    とのこと。今日はご近所三人で鉄板焼きをする約束をしていた。料理上手な隣人の提案は疲れた身体と精神に染み渡ることが多く、今回の約束も同様だった。「仕事が終われば鉄板焼き」と思えば、面倒な仕事だって乗り切ることができた。そんな浮足立った気持ちを抑えつつ、
    「ありがとうございます。今、仕事終わったので、急いで帰ります。必要なものがあったら連絡ください」
    と返信し、急いで帰り支度を始めた。それからはスタンプが返ってきただけで、買い出しリストが送られてくることはなかった。とはいえ、手ぶらで参加するわけにもいかず、途中で寄り道をして、酒やつまみをいくつか購入した。
    そして、マンションに着けば、自宅に仕事道具だけ置いて、すぐに隣人の家のドアをくぐった。既に勝手知ったるスペースとなった隣人宅は、今日も変わらず居心地が良い。台所に直行し、挨拶がてらスーパーの袋を手渡す。それから、互いに「お疲れ様です」と労い合う。
    「もう、クラさん来てますよ。猫がこっちに来ちゃうから、あっちで相手してもらってます」
    冷蔵庫から肉や魚を取り出しながら、眼鏡の友人はそう言った。そして、「クラさんがケーキ買ってきてくれたから、最後に食べましょうね」とも。
    綺麗に切られた野菜が収まったいくつかのボウル、新鮮な魚介と肉。隅に置かれている麺は焼きそばになるのだろうか。テキパキと捌かれていく素材と友人の無駄のない手付きに感心していると、「これからお好み焼きの準備しますね。あっちで待っててください」と移動を促された。
    手伝いが必要な時は容赦なく駆り出されるため、必要ないのであれば、と家主の言葉に素直に従うことにした。
    そして、移動した先で目にしたのが冒頭の光景だったわけだ。

    一人と三匹。それぞれ気持ちよさそうにしているが、癖毛の彼に関しては姿勢にやや心配を覚えた。ソファのひじ掛けから外側に向かってぐらぐらと動いている首は痛めてしまいそうだし、それなりに大柄の猫にのしかかられている背中にも負担が掛かっていそうだ。かといって直接的な手段で起こすのは忍びなく、物音などを立てるのも猫にはストレスなのだろうかと迷ってしまう。
    一人で首を捻っていると、後ろから両手にボウルを携えた眼鏡の友人がやってきた。そして、同じ光景を見て、
    「随分静かだと思ったら、寝ちゃってたんですね」
    と生温く笑った。しかし、戸惑う自分とは異なり、足音を殺しつつテーブルに着いたかと思えば、ホットプレートの電源を入れた。そして、彼とソファと交互に視線を行き来させていた自分に向かって、
    「台所から他のお皿を持ってきてもらってもいいですか?」
    と小声で指示出しをして、野菜をプレートに並べ始めた。流れがいまいち把握できないが、言われるままに肉や魚介の類を運んでいく。粗方運び終えた頃には、プレートの上の野菜が油と馴染んでパチパチと小さく音を立てながら、しんなりし始めていた。茄子や玉葱の香ばしい香りが漂ってくる。
    それらは空腹に心地の良い刺激であったが、同時にとある心配を想起させた。それは、台所で換気扇をフル稼働させているが、このままでは家具に肉や魚の匂いも染み付いてしまうのではないかということだ。それとも、寒さに耐えつつ、窓も開けるつもりだろうか。
    そんなことを考えているうちに、野菜は一回り程小さくなっていた。匂いが強まり、ジュウジュウと焼ける音も先程より大きく聞こえる。それでもまだ火が通り切らない野菜はプレートの端に寄せられた。
    そして、肉や魚が盛られた皿を手に取った友人が、こちらを見てニヤリと笑う。
    「猫って、魚を焼いてる匂いとか、猫缶を開ける音とか、そういうものに敏感なんですよね」
    そう言ってから、充分に温められたプレートに豚肉や鶏肉、鮭の切り身や分厚いホタテを乗せた。すると、数分もしないうちに脂身の爆ぜる音が響き、食欲をそそる匂いが辺りにたちこめた。
    「吉田さん、家具に匂いついちゃいませんか?」
    窓を開けての換気も提案しようかと思いながら尋ねたが、彼は菜箸を操りながら、
    「まぁ、大丈夫ですよ。それより、あっち見てみてください」
    とソファに視線を向けた。彼の言葉に従って自分もそちらを見る。
    そこには、先ほどまでと同じ姿勢の癖毛の彼と、三匹の猫がいた。しかし、よく見ると、猫達の鼻がひくひくと、耳はぴくぴくと動いている。癖毛の彼も、空気の変化を感じ取ったのか、眉間に皺を寄せている。そして、口をもにゃもにゃと動かしているようだが、おそらく見間違いではないだろう。
    そうしてやっと、眼鏡の彼の目論見を理解した。笑い声交じりに「吉田さん」と呼びかければ、まるで悪戯を成功させた子どものような笑顔で、肉や野菜を追加していた。更に、
    「冷蔵庫からビール持ってきてもらっても良いですか?」
    という指示も出された。今度は、自分もわくわくした心持で台所に向かった。冷えた缶ビールを三本ほど手にして、忍び足でリビングに戻った。ソファの上の団子はまだ崩れていない。
    肉の焼き加減の調整が落ち着いたらしい彼に缶ビールを手渡す。悪戯っぽく目を合わせてから、互いにプルトップを引き上げる。
    プッシュっという音が部屋に響いたのと、八つの眼が開かれたのは、ほとんど同時だった。


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    ケミカル飲料(塩見 久遠)

    DONEミキとクラ♀。クマのぬいぐるみがきっかけでミッキが恋心を自覚する話。クラさん♀が魔性の幼女みたいになってる。これからミキクラ♀になると良いねと思って書きました。蛇足のようなおまけ付き。
    2023/4/8にTwitterにアップしたものに一部修正を加えています。
    魔法にかけられて 「それでは、失礼します」
     深めに礼をして、現場を後にした。ファミリー層向けイベントのアシスタントということで、テンションを高めにしたり、予想外の事態に見舞われたりと非常に忙しかったが、イベント自体は賑やかながらも穏やかに進行した。主催している会社もイベント担当者もしっかりとしており、臨時で雇われているスタッフに対しても丁寧な対応がなされた。むしろ、丁寧過ぎるくらいだった。
     その最たるものが、自分が手にしている立派な紙袋だ。中には、クマのぬいぐるみと、可愛らしくラッピングされた菓子の詰め合わせが入っている。
     「ほんのお礼ですが」
     という言葉と共に手渡された善意であるが、正直なところ困惑しかない。三十代独身男性がこれを貰ってどうしろというのだろうか。自分には、これらを喜んで受け取ってくれるような子どもや家族もいなければ、パートナーだっていないのだ。そして、ぬいぐるみを収集、愛玩する趣味も持っていない。
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