薄明を遠ざける 夜明け前に、ふと目が覚めた。頭はすっかり冴えていて、眠気が戻ってくることはなさそうだ。隣からは規則正しい寝息が聞こえてくる。寝返りの要領で彼の方に向き直ると、薄明りでも彼の顔がよく見える。相変わらず両目の下の隈は色濃く、頬の窪みは深い。気配に聡い彼のことなので、起こしてしまうかもと思いつつ、そっと頬に手を伸ばした。
すると、彼の肌に掌が触れるかどうか、というところで、チクチクとした感触に阻まれた。髭だ。そういえば、以前、彼に現代の剃刀を触らせてもらったことがある。軽くて扱いやすそうだった。とはいえ、今の自分には無用なものだ。頬に触れる枕カバーのサラサラとした質感を心地よく感じながら、思いを馳せる。
隣の彼は眠っている間にも変化が生じているというのに、自分はどうだろうか。激しい運動をしたとて、碌に汗も掻かない身体だ。老いさえも遠く感じてしまう。せめて、彼がこのまま眠っていてくれれば、変化が、老いが、緩やかになるのではないか。
そんなことを思っていると、彼の瞼がぴくぴくと動き始めた。慌てて手を引こうとしたが、彼の意識は既に浮上しているようだ。目は閉じているものの、「……もぅ、朝です、か…?」と掠れた声が聞こえてきた。カーテンの隙間から漏れ出る光は先程よりも濃くなっており、朝日が近付いてきているのは明らかだった。その光から彼を隠すようにして彼の目元を手で覆った。
「マダ、夜デスヨ。ユックリ、眠ッテクダサイ」
完