篝火は街灯の灯り 星がよく見えるほど澄んだ空。夜桜見物と洒落込んだはずだった。しかし、急な雨に降られて、近場のコンビニに緊急避難。様子を窺えども、雨脚は次第に強くなるばかり。ビニール傘を一本購入して、止む無く帰宅の一途を辿ることになった。
歩けば泥が跳ね、横殴りの雨で全身が重くなっていく。せめてもの思いで癖毛の彼の方に傘を傾けたが、さりげなく押し返されてしまったので、二人揃ってびしょ濡れだ。
この雨風では桜も散ってしまうだろう。後日仕切り直したところで、満開の盛りには程遠い。彼が初めて経験する花見なのだから、良い機会を用意したかったと残念に思いながら、肩を寄せ合ってとぼとぼ家路を歩いた。
そんな折、彼が頭上を指差しながら、
「ミキサン、見テクダサイ」
と言った。釣られて視線を上げれば、そこには桜の花びらがビニール傘一面に張り付いていた。これは片付ける時に厄介だなと思っていると、続いた彼の言葉で煤けた心が洗い流されるような心地がした。
「傘ガ桜ノ木ニ、ナッチャイマシタネ」
完