トリックだったら、良かった カボチャにコウモリに、吸血鬼。果てにはゾンビやフランケンシュタイン、かと思えば愛らしいネコミミを付けて。
あちこちでイベントが企画され、飲食店でも特別なメニューを提供する。
そう、これは最早祭りだ。
公務で関係のあるイベントにいくつか顔を出して、どこを見ても仮装だらけの浮き足立った空気に、愛之介は車に戻ったとたん深いため息を吐いた。
「本日の予定は、以上です」
「ああ」
「事務所へ寄りますか」
「いや、今日は直帰する」
「かしこまりました」
いくつか事務所に寄って確認しておきたい事もあったが、それよりもこの空気に辟易していた。早く帰宅して、こういった空気を断ち切りたい。
確認は、明日で問題ないだろう。
そんな愛之介の空気を察したのか、忠は無言でアクセルを踏んだ。
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