Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    syako_kmt

    むざこく30本ノック用です。
    成人向けが多いと思うので、20歳未満の方はご遠慮下さい。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji ❤ 🌓 💋 🌹
    POIPOI 193

    syako_kmt

    ☆quiet follow

    むざこくアドベントカレンダー
    19日目

    #むざこくアドカレ
    unscrupulousAd-career
    #むざこく
    unscrupulousCountry

     彼は私を抱く時、必ず私を褒めた。
    「お前は私の月だ」
     そう言いながら、まるで宝物を愛でるように、私の手首にキスをする。
     美しい、お前は完璧だ、お前より優秀な存在はいない、こちらが恥ずかしくなるくらい、浮かれて色々と褒めそやす。短い夜を盛り上げる為のテクニックなのかもしれないが、彼が自分を褒め、求めてくると不安で堪らなくなるのだ。
     自分は最高の人間などではない。
     自分より優れた人間が間近にいたことを彼に黙っている嘘吐きなのだと。

     あれは寒い冬の日だった。
     詰襟姿の自分は白い息を吐きながら、合格番号の掲示を見守っている。
     自分の近い番号を見つけ、そこからひとつずつ進めていく。
     周囲の歓声や泣き声が全く聞こえないほど、白い紙に記された番号をじっくりと見入っていた。
     だが、一緒に願書を出しに行った双子の弟、縁壱の番号はあったが、俺の番号はなかった。
     落ちた兄が目の前にいるので、縁壱は喜べず、ずっと黙り込んでいる。このような形で縁壱に気を遣われるのは本意ではない。
    「合格おめでとう、縁壱」
     そう言って涙を堪えて笑うのが、15歳の自分には精一杯だった。
     春から縁壱は俺たちの第一志望だった高校に通い、俺は滑り止めで合格していた私立高校に通学した。「一緒に合格しような」と二人で仲良く机を並べて勉強していたが、それ以来、縁壱とは部屋を分け、憧れだった制服を着る縁壱の姿を見たくなくて、縁壱が起きる前に準備を済ませて家を出ていたので、殆ど顔を合わせることがなかった。
     三年後、縁壱は国立大学の理学部に進学し、今でも大学院で生物学を研究している。自分も都内の公立大学の経済学部に進学し、公務員試験の勉強などで大学の4年間が終わった。
     最近の履歴書や面接では家族構成を尋ねることは禁じられている。その為、無惨様の事務所を受ける際、優秀な弟がいるということを完全に伏せていた。重大なことを隠しているような気持ちがしていたが、バレなかったようで、無惨様の元で働くことになった。
     だが、いつも怯えていた。
     もし、縁壱の研究が認められ、あのノーベル賞を受賞する日が来たら……無惨様が存在に気付いた時、どんな顔をするのだろうか。
    「お前より、もっと優秀な弟がいたのだな!」

     泣きながら飛び起きた。
    「怖い夢でも見たか?」
     横にいた無惨様も起き上がり抱き締めてくれた。
    「俺……俺は……」
     息が出来ず泣きじゃくっていると、唇を塞がれ、優しく髪を撫でられた。少しずつ乱れた呼吸が整っていくが、浅ましくて情けなくなるが、このまま抱かれて色々なことを忘れたいと思った。
     そんな自分の願いを叶えてくれるように、優しくシーツの海に沈められる。体を繋げ、快楽で頭が真っ白になっていると、自分の挫折した過去を忘れられるのだ。
     彼の背中に腕を回し、体温と甘い香りに包まれていると自然と安心してくる。耳元で優しく「好きだ」と「美しい私の月」と言われると、心も体も満たされていくが、その満足感が増せば増すほど罪悪感も大きくなっていった。
    「落ち着いたか?」
     啄むように額や瞼、鼻先にキスを繰り返してくるので、「はい」と小さく笑いながら答えた。
    「お前でも怖い夢を見て魘されることがあるのだな。可愛いところがあるではないか」
     指の背で頬を撫でられ照れ臭い気持ちになるが、無惨様の指に頬を擦り寄せながら、思わず話してしまった。
    「私には、私よりずっと優秀な弟がいます。いつかノーベル生物学賞を取るのではないか、と思っています」
     身内をこれほどに褒めて恥ずかしい話だと今なら思うが、あの時は悪夢を見てどうかしていたのだと思う。真剣に話したら、無惨様は真顔で言った。
    「知っている。縁壱だろう。日本の誇りだな」
    「え?」
    「私がお前の弟を知らないと思っていたのか? そちらの方が驚きだ」
     そんなに呆気無く言われ、自分のこれまでの苦悩は何だったのかと悔しくて泣きそうになっていると、髪を撫でながら無惨様は笑う。
    「確かに縁壱は優秀だが、あの男はお前にはなれない」
    「秘書の仕事は縁壱には出来ない、ということですか?」
    「それもあるが、私の黒死牟はお前だけで、この世で一等優れている私の月だ」
     その言葉を聞き無惨様にしがみ付いて泣き出すと、無惨様は呆れたように言う。
    「私がお前と寝たいからという浅はかな理由で、お前をちやほやと褒めていると思っていたのか? 心にもないことを言えるほど優しい人間ではない」
     これまでの人生で一度も縁壱より優秀だなんて言われたことがなかった。
     そして、縁壱ではない自分を必要としてくれた人もいなかった。
    「この世にある言葉すべてを使っても、お前のすべてを語ることはできない」
    「恥ずかしいからやめてください……」
    「嫌だ」
     耳元で腰が疼くような甘い台詞を次々と言ってくる無惨様のペースに乗せられ、結局、もう一度熱を交わすことになる。今度は忘れる為ではなく、無惨様の言葉を刻む為の行為。
     絡めた指先がいつまでも離れないように、と強く願っていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌙🌙🌙🌙🌙🇱🇴🇻🇪❣❣😭😭😭😭💓👏👏👏👏👏😭😭👍👍🌙💜💜💜💜💜👏👏👏💒💴😭😭😭👏👏😍👏🙏💕💕💜💜😭💕😭💕😭💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    syako_kmt

    TRAININGむざこく30本ノック④延長戦
    7日目
    シンプル、カジュアル、ラフなペアコーデで、公開用のオフショットを撮影するむざこく
    シンプル、カジュアル、ラフなペアコーデで、公開用のオフショットを撮影するむざこく 無惨と黒死牟が仕事上だけでなく私生活でもパートナーであると公表してから、どれくらいマスコミに囲まれ、あることないこと書かれるかと心配していたが、取り立てて大きな生活の変化はなかった。
     職場は二人の関係を元から知っていたし、世間も最初は騒ぎ立てたものの「鬼舞辻事務所のイケメン秘書」として有名だった黒死牟が相手なので、目新しさは全くなく、何ならそのブームは何度も来ては去っている為、改めて何かを紹介する必要もなく、すぐに次の話題が出てくると二人のことは忘れ去られてしまった。

     そうなると納得いかないのが無惨である。
    「わざわざ公表してやったのに!」
     自分に割く時間が無名に近いアイドルの熱愛報道よりも少ないことに本気で立腹しているのだ。あんな小娘がこれまたションベン臭い小僧と付き合っていることより自分たちが関係を公表した方が世間的に気になるに決まっていると思い込んでいるのだが、職場内だけでなく国内外でも「あの二人は交際している」と一種の常識になっていた上に、公表を称えるような風潮も最早古いとなると、ただの政治家の結婚、それだけなのだ。
    2157

    related works

    recommended works