黒死牟が拗ねた時、無惨様はどう行動するか 身を任せたのは大きな間違いであった。
何度も出勤しないといけない、本当に時間がない、と無惨を制止したが、もう待てが出来る状態ではなかったし、黒死牟自身も好きな方なので、ついつい無惨のペースに乗せられてしまった。
そして、意外なことが起こってしまう。
何と無く成り行きで黒死牟が上に乗り騎乗位となるのだが、そういえば最近、していなかったなと黒死牟は思いつつ、あまり無惨に体重を掛けないように配慮しながら、でも互いに気持ち良いように腰を8の字に動かしながら上下に揺らして動いていたのだが、なんと終わってから、どうも体がだるい。そう、大腿四頭筋が筋肉痛なのだ。
シャワーを浴びながら必死に揉み解してみたが、前太股と内股の張りが尋常ではなく、まさかの運動不足を突き付けられ、黒死牟はめちゃくちゃ落ち込んだ。
体がだるいと無惨に事情を話すと車の運転は無惨がしてくれたが、機嫌の直った無惨は、いつも通りの「いらんことを言う男」に戻ったのだ。
「髀肉之嘆を知っているか?」
「は?」
「あれだ、三国志の劉備が戦に出ず馬に乗る機会がなかったら、太股に肉がついたという運動不足を嘆く話だ」
ゲラゲラと笑う無惨を見て本気で殺意が沸いた。それくらい知ってるし、太ったことを嘆く話じゃなくて、功名を立てられず、いたずらに時間が過ぎることを嘆く話であって、お前とセックスすることは功名を立てることじゃねぇし、そもそも、お前が悪いんじゃん……そう思うと、黒死牟はピシャリと心のシャッターを閉めた。
「黒死牟」
「…………」
そう、今度は黒死牟が拗ねた。
「おはよう」
決して早くない時間に出勤した二人を見て、周囲は「仲直りセックスしてからの、ご出勤だな」と冷ややかな視線を向けたが、どうも様子がおかしい。黒死牟がめちゃくちゃ機嫌が悪いのだ。だが、歩き方もおかしいし、椅子に座る時に痛そうに顔を歪めたので、ちょっと生々しくないか? と皆、複雑そうに視線を逸らしたが、しかし、二人からラブラブしたムードが一切漂ってこないのだ。
どうせ無惨が悪い、皆がそう思っていると、無惨は、昨日ほど機嫌は悪くないものの不愉快そうな顔をしている。
「黒死牟」
無惨が話しかけても黒死牟は一切無視である。それでも懲りずに何度も声を掛けているので周囲も鬱陶しいなと感じていた。
「買い出し行ってきまーす」
「外回り行ってきまーす」
全員が何かしらの用事を作って事務所を出て行ったので、無惨と黒死牟、ふたりきりとなる。
「おい、黒死牟、機嫌を直せ」
何を話しかけても無視である。
「お前が筋肉痛になるなんて、よっぽど頑張ってくれたのだな。感謝してやろう」
「えぇ。あんなに激しい屈伸運動なんて滅多にしませんからね」
「御礼に今夜はマッサージしてやるから機嫌を直してくれ」
「そう言って、いやらしいことをするつもりでしょ?」
「しない。ちゃんと筋肉痛が治るようにマッサージするから」
無惨は黒死牟のデスクに腰掛け、そっと黒死牟にキスしようとした瞬間、タイミング悪く買い出しに行っていた下弦のメンズ三人が戻ってきた。
「もう一回、買い出しに行ってきます!」
三人は大急ぎで事務所を飛び出したので、二人は小さく笑いながら仲直りのキスをした。