某映画賞の授賞式で某イケメン俳優がしていたスタイルを、無惨様がなさるお話が読みたいです。 黒死牟がテレビの画面を見ながら、思わず感嘆の声を漏らした。一体何事かと思い、ソファに寝そべってタブレットを見ていた無惨は、テレビの画面に視線を移した。
それは某映画賞の授賞式の中継だが、優秀助演男優賞を受賞した面々がレッドカーペットを歩く姿を、じっくりと見入っているのだ。
「美しいですねぇ……」
どの俳優を指しているかは一目瞭然である。そう、黒死牟は超がつくほどの面食いなのだ。国宝級イケメンとの呼び声高い無惨を彼氏に持つ黒死牟が見惚れてしまうほど、その俳優は美しかった。
黒いハイネックのセーターに黒いスーツ、そして首元に輝くシンプルなパールジュエリー。どこを取っても隙のない美しさだというのに、それより何より美しいのが顔面で、その顔面の魅力を倍増させる眼鏡の破壊力。無惨は少々不貞腐れながらも冷静に分析していた。
「私も似合うと思うぞ」
「でしょうね。時々していますよね」
「でも、私の時はそんなに感動してくれないだろう?」
「だって普段から顔が良いですから、目新しさがないんですよ」
褒められているのか貶されているのか解らず、無惨の機嫌は悪いままである。
この浮気者! と言いたいところではあるが、黒死牟は普段あまりテレビを見ないので、若手の俳優のことは知らない。なので、美の破壊力をダイレクトに食らった状態なのだ。
「じゃあ、明日はあの格好をする」
「やめてください。昨日、見たんだなってバレバレで、めちゃくちゃ恥ずかしいですよ」
尤もなツッコミを食らい、無惨の機嫌はますます悪くなる。
今シーズンはこのコーディネートはできませんよ、と黒死牟に釘を刺され、無惨は拗ねたままタブレットに視線を戻しSNSを見ると、案の定、その俳優のことで持ち切りである。
「俳優に張り合おうなんて思ってはいけませんよ。無惨様はあくまでも政治家なんですから」
「解っている」
絶対解っていない、と黒死牟は解っているが、自分があまりにも某俳優を褒めすぎたことが原因だという自覚はない。
「もう寝る」
「おやすみなさい」
先に寝室に向かう無惨を見送って、黒死牟はぼんやりと映画賞の続きを見ながら、個人用のスマホを開いた。
秘密の無惨様フォルダが黒死牟のスマホには存在し、そこにはお気に入りの無惨の画像をたっぷりと保存しているのだが、割と眼鏡率が高めである。細い銀縁の眼鏡も知的で素敵だが、黒いウェリントンタイプも茶目っ気があって可愛いのだ。そして、黒いハイネックを着用している時は絶対こっそりと撮影していた。ジャケットを羽織っていても良いのだが、ハイネック一枚の時の意外にしっかりとした上肢がたまらないのだ。肩幅がしっかりとあり、胸板も厚く、ウエストが引き締まっているので、マネキンのような完璧な体型で美しく服を着ている。腕捲りをして筋張った腕が見えている写真なんて最高である。
「やっぱり、うちの鬼舞辻が最高ですね」
ふふふっと笑いながら、そんじょそこいらのイケメン俳優には負けないぞと大量の画像を眺めていたが、無惨本人は完全に落ち込んでしまい、布団を被り眠ってしまった。