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    syako_kmt

    むざこく30本ノック用です。
    成人向けが多いと思うので、20歳未満の方はご遠慮下さい。

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    むざこく30本ノック③
    延長戦
    転生後記憶なし無惨様✕記憶あり黒死牟

    #むざこく30本ノック
    random30Knocks
    #むざこく
    unscrupulousCountry

    転生後記憶なし無惨様✕記憶あり黒死牟 終業時刻のチャイムが鳴る。巌勝は退勤の打刻を済ませ、パソコンの電源を落とした。
    「お疲れ」
     巌勝の声掛けに全員が「お疲れ様でした」と挨拶する。ただひとり、社長の月彦を除いては。
    「社長、キリの良いところで……」
    「あぁ、解っている。先に帰ってくれ」
    「畏まりました。お先に失礼します」
     巌勝は頭を下げる。貴重な週末の定時。ハメを外して遊びたいと皆が浮き足立っているのに、ボスが一番働き者なので困る……と誰もが帰りにくそうにしているので、巌勝がこう言って事務所を出てくれると他のスタッフも続いて出やすいのだ。
     土日が休みの為、本当はもう少し一緒にいたかったのだが……と巌勝は思うが、月彦の側近として他のスタッフへの気配りをするのは自分の役目だと思っていた。

     夏が近付き、午後5時だと空はまだまだ明るい。少しずつ空気が生温い湿り気を帯びてくる時期。このじっとりと肌にまとわりつくような湿気が強くなる2年前の今頃だった。
     仕事帰り、立ち寄ったコンビニで何気無く手に取った雑誌を立ち読みしていると特集ページに月彦がいた。従業員数は少ないものの急成長している会社らしく、注目のイケメン社長として人気だそうだ。
     巌勝はそのページから目が離せなかった。
     一目でそれが「鬼舞辻無惨」であると解った。名前も表情も無惨とは違うが、この男は確かに鬼舞辻無惨だ。鬼の始祖である無惨が自分と同じ時代に、同じ国に、こうしてあの頃と変わらない姿で転生しているとは思わず、その姿を見ただけで胸が熱くなった。
     雑誌を買い、走ってマンションへ戻った。パソコンで月彦の会社を検索し、隅々まで目を通し、彼の言葉を胸に刻み付けた。
     巌勝には前世の記憶があり、数百年にも及ぶ鬼の記憶を抱えたまま生きていた。
     別にそれを罰とも思わなかったし、困ることもさほどなかった。子供の頃に前世の話をポツポツと話すことがあったが、子供の作り話として誰も相手にしなかった。大人になるにつれ、本当にただの妄想だったのかもしれないと思っていたが、無惨を見つけたのだ。無惨をこうして見つけたことで、これは神の思し召しかと初めて神に感謝した。
     運良く月彦の秘書が募集中であることを知り、仕事を辞め、すぐに応募した。書類選考を通過し、一次面接の時点で仕事を辞めて面接に挑んだことを驚かれたが、絶対にこの会社で働きたい思いを切々と語った。熱狂的な月彦信者だと思われたようで選考は揉めたようだが、自分は上弦の壱だという誇りを胸に挑んだ。
     そして最終面接でやっと社長である月彦に会うことになった。
     扉を開けるまで緊張で胸が張り裂けそうだった。大正の世で別れてから、百有余年。二度と巡り合うことはないと思っていた最愛の相手である。その姿を見て涙が出そうになった。喉の奥を締め付けるような緊張感の中、恋い焦がれたその名を呼ぼうとした瞬間、彼は笑顔でこちらに話しかけた。
    「初めまして、継国さん」
     頭が真っ白になった。
     そういうことか……燃え盛る炎に冷水を掛けたように、巌勝の感動は静かに冷めていく。
     やはり神は自分たちを許していなかった。

     月彦の秘書として採用されてから、巌勝は何度も月彦に前世の記憶がないか探っていたが、やはり何もなく、ただの人間として転生したようだ。
     接しているうちに無惨の片鱗は感じるものの、それは見た目や声が無惨と同じなだけであって、性格は無惨とは少し違っていた。
     それもそうだろう。月彦は病に苦しむこともなく、日光の下を当たり前に歩き、好きなだけ学び、好きなだけ遊び、好きなだけ食べ、好きなだけ寝る、人生を謳歌している男だった。
     毎日眩しいほどの笑顔を自分に向けてくるので、あの頃、無惨が望んだ日々は、こういったものだったのかもしれない、と青い彼岸花をひたすら探し続けていた彼の後ろ姿を思い出すと目頭が熱くなる。
    「どうした、継国」
    「いえ、何でも……」
     自分を「黒死牟」ではなく「継国」と呼ぶ声にも少しずつ慣れ始めた。
     だが、あの声で「黒死牟」と呼んでもらえたら、どれだけ幸せだっただろうか。毎晩、そんなことを考え、明日の朝、そうなることを夢見ていた。
     しかし、それはただの夢だということに日々落胆しながら2年の月日が流れた。
     うっかり「無惨様」と呼びそうになっていたこともなくなり、自然と「社長」と呼べるようになっていた。
     その理由のひとつが、月彦は月彦で魅力的な男性であることは確かなので、無惨と違う存在として惹かれている自分がいた。
     鬼ではない無惨は、きっとこういう人物だったのだろうと思う。キラキラとした太陽のような笑顔を向けられると、胸がキュンッときめいて、あの物静かで美しく寂しげな横顔を徐々に忘れていきそうになる。
     だが、月彦の隣には、いつも違う女性がいた。
     相変わらず、よくモテる。魅力的な容姿に経済力、世の女性が放っておくはずがない。そんな倍率が高い難関校のような月彦の恋人の座、自分にチャンスが巡ってくることなど絶対にないだろうと諦めつつも、側近である役得感を楽しんでいた。
     今日は仕方なく先に帰ったが、普段は用事がなくても、こっそり2人きりで残ったり、静かに月彦の横顔を見つめたり出来るのだ。
     今日も社長はカッコ良かったなぁ……と思い出し笑いをしながら、ぶらぶらと駅までの道を歩いているとスマホが震えた。
    「はい、継国です」
    「私だ。未だ近くにいるか?」
    「はい」
     月彦に呼ばれ事務所に戻ると、取引先から届いたメールの予定を確認したかったという理由だった。
    「この日は……そうですね、14時でしたら空いていますよ」
    「そうか、なら返事しておいてくれ」
    「はい」
     タブレットで予定を確認しながら相手先への返信を書く。その時、ふと思った。問い合わせ内容としては別に月曜に出勤してからでも大丈夫なのに、どうして急ぎで自分のことを呼び戻したのか。
     しかも、巌勝のタブレットと無惨のスマホは同期にしているので、無惨も予定を確認しながら巌勝と電話で話せば済んだ話だ。
     何故、わざわざ……と巌勝は疑問に思いながら「送信しておきました」と作業終了を伝える。
    「そうか、終業後に悪かったな」
    「いえ」
     席を立とうとすると月彦に呼び止められる。
    「あ、あのさ……」
    「はい」
    「業務時間外に呼び出したお詫びというか……今から一緒に飯でも行かないか? ほら、明日、休みだし……」
     緊張など母親の腹に忘れてきたレベルで無縁の男が、頬を赤く染め、歯切れ悪く巌勝を誘っている。巌勝は一瞬期待するが、違う、勘違いするな、と必死に自分に言い聞かせている。
     だが、断る理由もないので、巌勝はおどおどと「はい……」と答える。
     その返事を聞いて嬉しそうに笑う月彦の笑顔を一生忘れないと思う反面、寂しげな無惨の背中を時折思い出していた。
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    黒死牟が髪をバッサリ切った時の無惨様のリアクション 何か理由があって髪を伸ばしているわけではない。
     長い髪って手入れが大変ですよね、と言われるが、実はそうでもない。短い髪の時は月に一度は散髪に行かないといけなかったが、長い髪は自分で毛先を揃えるくらいでも何とでもなる。女性と違って髪が傷むだの、枝毛がどうだのと気にしたことがないので、手入れもせず、濡れた髪を自然乾燥させることにも抵抗がない。それに短い髪と違って、括っておけば邪魔にならないので意外と便利だし、括っている方が夏場は涼しいのだ。
     つまり、ずぼらの集大成がこの髪型だった。
     特殊部隊に入った時、長髪であることにネチネチと嫌味を言われたこともある。諜報活動をする時に男性のロングヘアは目立ち易く、相手に特徴を覚えられやすいから不向きだと言われ、尤もだなと思ったが、上官の物言いが気に入らなかったので、小規模な隠密班を編成する際の長に選ばれた時、全員、自分と背格好が近く、長髪のメンバーだけで編成し、危なげもなくミッションを成功させたことがある。だが、自分の長髪にそこまでこだわりがあったわけではなく、単なる反発心だけである。
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    零余子、上司共へのストレス発散にBL同人誌にしてしまう 今日もやっと1日が終わった。
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    「おい、零余子!」
    「はい!」
    「零余子!」
    「はいー!!!!」
     多分、この数年で確実に親より名前を呼ばれている。これまで割と要領良く生きてきたので、こんなに怒鳴り散らされることはなかった。
     初めは鬼舞辻事務所に就職が決まり大喜びした。
     今をときめくイケメン政治家、鬼舞辻無惨の下で働けるなんて……その上、彼は独身。もしかして、もしかする、未来のファーストレディになれるようなルートが待っているかもしれない!? と馬鹿な期待をして入職したのだが、それは夢どころか大きな間違いだった。
     毎日怒鳴り散らされ、何を言っても否定され、無惨だけでも心がバキバキに折れそうなのに、これまたイケメンの秘書、黒死牟が更にエグイ。まず行動原理が「無惨様のため」なので、無惨の怒りを買った時点で、どんな言い訳をしても通用しない。こちらに非が無くても、無惨に怒鳴られ、黒死牟にネチネチと嫌味を言われ、最悪のコンボが待っている。
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    陽光のもとに並んで立てるようになった二人が、それぞれ何を思って何を語らうのか  それは初恋の憧れに似ていた。
     手の届かない遠い存在という意味か、遠い昔の燦爛とした断片的な記憶のせいか、その強い「憧れ」が根底にあるから黒死牟とは意気投合したのかもしれない。
     自分たちにとって太陽とは最も忌むべき存在であり、その反面、強く憧れ、恋い焦がれた存在であった。
     今でも朝日を見ると、今際の際を思い出し身構える。しかし、その光を浴びても肌が焼け落ちることはなく、朝が来た、と当たり前の出来事だと思い出すのだ。

    「今日も雲ひとつない晴天ですね」
     黒死牟が車のドアを開けると、その隙間から日の光が一気に差し込む。こんな時、黒死牟のサングラスが羨ましいと思うのだが、まさかサングラスをしたまま街頭に立ち、演説をするわけにはいかないので日焼け止めクリームを丹念に塗り込む程度の抵抗しか出来ない。
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