きみのかたきをうってやる! モン天は脳天に雷さながら衝撃を受けた。
自分が見ているものが信じられず、もしかして夢でも見ているのかと頬を力いっぱい引っ張れば痛みが衝撃を上書きした。どうやら夢じゃないらしい。
ひりひりする頬を抑えながら、キッチンでタオルを目に押し当てている天に駆け寄る。料理している時は危ないからあまり近づかないようにね、と龍之介にも言われているが今は緊急事態の非常事態。きっと許してくれるだろう。いや、怒られたとしても構わない。モン天に天を放っておく選択肢などないのだ。
「今日の玉葱、すっごい目にくる…………」
ワークトップの上に乗ったモン天に気づいた様子もなく、目元をタオルで押さえたまま天は呻くように呟いた。モン天の視線がまな板へと向く。包丁と何やら半円の物体が鎮座していた。包丁はとても危ない便利なものであると教えられているため、それからは距離を取りつつ、天を泣かせた元凶を睨む。こいつめこいつめと玉葱とやらをぺしぺし叩く。愛情たっぷりに可愛がってくれる天になんて酷いことを!
「ちょ、ちょっとモン天、落ち着いて。玉葱を叩かないの」
ぺしぺししている音に気付いたらしい天が慌ててモン天を掬い上げる。桃色の毛並みを逆立てて膨らんでいるモン天は「おこ!」という顔で尻尾を激しく揺らしていた。やや困惑した面差しをしていた天は、それでもモン天が何に怒っているのかを察したらしい。ふ、と表情を和らげた。
「ボクが玉葱に泣かされたと思ったの?」
まさにその通りである。ぷんぷんしながらモン天が力強く頷けば、天は堪え切れないというようにくすくす笑みを零した。その目は赤い。
「怒ってくれてありがとう。でもこれは泣かされたわけじゃないから大丈夫だよ」
本当に? と首を捻れば「本当だよ」と天が笑った。